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独りになりたい少年少女  作者: moe
一日目 独りになりたい
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第十話 くすぐったい



 大学附属図書館の入り口の前につくと、ウィンドウが自動的に開いた。

 セキュリティシステムのゲートをくぐり抜けたが、機械はうんともすんとも言わず、私は難なく図書館への潜入に成功した。

 人はいないのに、少し後ろめたさを感じる。


 図書館の貸し出しカウンターの前を素通りし、本がずらりと並んだ棚の中から、芸術コーナーを見つけ出し、片っ端から本を抜き取ってパラパラとページをめくっていく。蔵書の独特の匂いが鼻を掠めた。



「これなんかどうですか?」



 私が手を止めたのはナイヤガラの滝やグランドキャニオンといった世界遺産の特集ページ。

 同じページを見ているはずの優さんに話しかけると、彼はうーんと唸った。



『壮大で綺麗だね。こういうのも描けるの?』



「ブランクはありますけど、頑張れば」



『じゃあこれも候補にしてくれる?』



 彼ははにかむように言って、他のも見たい、と子供のようにねだった。その様子がおかしくて、口元が緩んでしまいそうになる。



 何か、くすぐったいな。


 

 そう思って、瞬時に恥ずかしさが込み上げてきた。


 

  

 その思いが彼に悟られないように、素早く他の本に手を伸ばして誤魔化した。





 あの後、私は散々泣いた。涙が枯れるほど泣いて、色んな思いが湧いて出てきて。

 人目も気にすることなく、そして、傷を負った元凶の場所で泣けたことが良かったのだろうか。


 嗚咽が出なくなったころ、私の心はどこかすっきりしていた。憑き物が落ちたように、心が軽くなっていた。


 その間、ずっと私のしたいままにさせてくれた優さんは、私が涙を拭うと、『よしよし』と声に出して私を慰めるように言った。

 声だけで、「よしよし」なんていう人は世界中で優さんが初めてだろう。


 私が思わずくすりと声を漏らすと、優さんは「どうしたの?」と不思議そうに尋ねてきた。


 なんか、お兄ちゃんみたいだなぁ。同い年だけど。お兄ちゃんいたことないけど。


 こんな優しいお兄ちゃんなら、欲しかったかも。

 一人でそんなことを思っていると、私が何も喋らないのを不審に思ったのか、優さんが心配しているような雰囲気が伝わってきた。



 さっきから思っていたけど、今まで言葉として伝わってくるのは、優さんの思い全てなんだろうか?

 それとも、優さんが私に伝えたいと思ってることだけが言語化されてる?そういう選択ができるのかな?

 でも、心配してるとか、楽しいとか、そういう雰囲気は分かるし……。


 というか、逆に私の思いはどこまで優さんに知られているんだろう……。

 ……もしかして、全部筒抜けなんてことはない、よね……?


 浮かんだ考えに、一瞬血の気が登った。

 

 


 これは、聴けない……。

 

 


『凛さん、大丈夫?』



 今度こそ優さんの口調が本気になった。

 本気で心配されている。

 

 あれだけ泣いた後であれば尚更だろう。


 私は慌てて脳内に返信した。



「大丈夫です! 存分に泣けてすっきりしました」



 これは本音だ。


 すると、ホッとしたような雰囲気が伝わってきて、私は思わず聴いていた。



「優さんがしたいことって何ですか?」



『え?』



「私はさせてもらったから、今度は優さんの番ですよ」



 私がそう促すと、優さんはうーんと唸った。

 


『……僕はこうしてるだけで十分なんだけどな』



「え?」



 今度は私が聞き返す方になった。

 

 でも、その問いかけの意思は優さんの言葉で有耶無耶うやむやになってしまった。




『ううん。そうだね……それじゃあ…………』



 優さんはしばらく考えるように黙った後、期待を込めたような声で聞いてきた。

 


『凛さんって風景画描ける?』





 そして、冒頭に戻る。

 今こうして図書館の写真集を読み漁っているのも、優さんのリクエストだ。


 片っ端から風景に纏わるページを開いて優さんに提示し、オーケーをもらった部分に、蔵書検索コーナーにあった裏紙の切れ端を挟んでいく。


 

 そうして、いくつかの候補が上がったところで、もう一度その一つ一つを優さんに見てもらう。



『これがいいな』



 優さんが最終的に選んだのは、外国の海の写真だった。夕日が地平線へと沈みかけ、その光が海に反射している、暗いオレンジがかった幻想的な写真だった。

 素直に美しいと思った。

 優さんがそれを選んだことに、妙に納得してしまった。


「わかりました」



 私はその本だけを残して、引っ張り出していた本を全て棚に戻した。そして、裏紙の一枚に選んだ写真集の請求記号を書きなぐり、その下に「お借りします」とつけて、貸出カウンターにそっとその紙を置いて図書館を後にした。


 既に日は傾いていて、紫色の空がガラス窓越しに映っていた。



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