第8話 愛斗さんは医大生
「吾郎丸。そちらの方は誰ですか?」
愛斗さんは私を見ながら吾郎丸さんに問いかける。
言葉遣いも丁寧だし本当にこの人が暴走族の総長をやっている私の義兄のひとりなのだろうか。
もしかして同じ名前の別人だったりして。
「はい! こちらは会長の御息女の凛子お嬢様です!」
「凛子……? ああ、そういえば天飛兄さんが今日迎えに行くと言ってましたね」
愛斗さんは私に近付くと私の顔を値踏みするような視線を向ける。
一瞬、眼鏡の奥のその眼差しが獲物を捕らえる肉食獣のように思えて私は背筋がゾクリとした。
しかし、次の瞬間にはそれが幻だったかのように愛斗さんは優しく微笑む。
「ふむ、この顔なら私の義妹として申し分ないですね。凛子さんは合格です」
合格って義妹になるのに顔の良し悪しで合格とか不合格とかあるの?
とりあえず合格したなら良かったけどもし不合格だったらどうなっていたんだろう。
私は自分が美人だとは思わないが愛斗さんに義妹として合格をもらえる程度の顔を持っていたようだ。
暴走族の総長に敵視されない顔に産んでくれたお母さんに感謝である。
「初めまして、凛子さん。私は愛斗です。凛子さんよりひとつ年上だから義兄ってことになるけど年齢は気にせず家族として仲良くしましょう」
「は、はい。こちらこそよろしくお願いします。あ、あの、愛斗さんとお呼びしてよろしいでしょうか?」
「かまいませんよ。凛子さんの好きなようにお呼びください。凛子さんもいきなり義兄ができたと言っても「お兄さん」とは呼び辛いでしょうし」
そうなんです! 愛斗さんはよく分かってくださるじゃないですか。
愛斗さんとなら仲良く家族として暮らしていけるかも。
それにしても愛斗さんって礼儀正しいし暴走族の総長なんて何かの間違いなんじゃないの……?
「ありがとうございます、愛斗さん。愛斗さんはまだ大学生だと天飛さんに聞きましたがどこの大学に行ってるんですか?」
私は愛斗さんに興味が湧いてそんな質問をしてみる。
「私はK大学に通っています」
へ? K大学って私と同じ大学じゃん!
知らなかったとはいえ義兄と同じ大学に通っていたの? 私。
まさか学部まで一緒ってことないよね。
「私もK大学の文学部に通ってるんですけど、愛斗さんの学部ってなんですか?」
「学部は医学部です」
い、医学部?
愛斗さんってめっちゃ頭いいんじゃん!
暴走族の総長やってるって聞いたからそんなに頭がいいとは思わなかったわ。
人は職業で判断しちゃダメだね。暴走族の総長を職業というかは別だけど。
「すごいですね。将来は医者になるんですか?」
「ええ。将来は医者になってカチコミなどで怪我をする組員たちの治療をしたいと思っています。組員を使い捨ての駒にするとまた新しい組員を育てるのが面倒ですので一度育てた駒は大切に扱う方がこの天昇火風光会のためになりますから」
う~ん、組員を大切に扱うと言いながらも組員のことは駒と呼ぶんですね。
愛斗さんは優しいのか非情なのか分からないタイプかも。
それでも動機はともかく怪我した組員を助けたいって気持ちは賛成できるかな。
私だって吾郎丸さんたちが怪我をするのは嫌だ。
でもヤクザさんなんてしてたら怪我は付きものなのかもしれないと思うと怪我をした時に治療してくれる医者がいたら組員たちは助かるだろう。
「立派な考えだと思います。愛斗さん」
「ありがとうございます。私のことを理解してくれる義妹ができて本当に嬉しいですよ。では私はこれで失礼します。また夕食の時に会いましょうね、凛子さん」
そう言い残して愛斗さんは歩いて行ってしまう。
まともそうな義兄で良かったな。
恋愛対照的な好みのタイプじゃないけど愛斗さんとはお友達感覚の義兄妹になれそうな気がするわ。
「吾郎丸さん。愛斗さんって優しい方ですね」
「今はまだ昼間ですからね。昼間の愛斗さんは優しいっすよ」
ん? 昼間の愛斗さんは優しいってどういう意味だろ?
「お嬢、次の部屋に案内しやす」
「あ、はい」
吾郎丸さんの言葉の真意を確かめる前に吾郎丸さんに次の部屋を案内されたので私はその疑問のことをすぐに忘れてしまった。




