第6話 ヤンキーな犬
「とりあえず俺はまだ仕事があるから一度事務所に戻らないといけない。だから凛子の付き人にこいつを置いていく。おい! 吾郎丸!」
「はい! カシラ!」
天飛さんに呼ばれて逆嵐さんの後ろに立っていた私と同じぐらいの若い男性が返事をした。
吾郎丸って……なんかペットの犬のような名前だな。
しかし当然、その吾郎丸さんもスーツを着たヤクザさんだ。
だけどまだ若いからか迫力がある強面のヤクザではなくチャラい感じのヤンキーっぽい人。
天飛さんはザ・極道って感じだけど吾郎丸さんはチャラい兄ちゃん系か。
一言でヤクザと言ってもいろんなタイプがいるんだな。
「この吾郎丸はまだ天昇火風光会に入ってそんなに経ってないが凛子と年齢が同じだから感性が一緒だと思って付き人には最適だと選んだ男だ」
「よろしくお願いします! お嬢!」
吾郎丸さんは見かけはチャラい兄ちゃんだがしっかりと私に挨拶をして深々と頭を下げる。
躾のできた犬ってとこかな。
飼い主が天飛さんなら躾が厳しそうだもんね。
でも私と同じ年齢だから感性が一緒って安直過ぎない?
だって私、ヤクザの感性なんて分からないよ。
「あの~、別に私は付き人なんていなくていいんですけど……」
私はやんわりと天飛さんに断ってみる。
身の回りのことは自分でできるしわざわざヤクザの兄ちゃんに付いていてもらう必要なんてない。
「そうはいかない。凛子は敵組織に狙われる可能性があるからな。こいつなら鉄砲玉が来ても凛子の弾避けぐらいにはなれる。そうだな? 吾郎丸」
「はい! お嬢のためならいくらでも弾避けになりやす!」
いやいや、鉄砲玉とか弾避けとか物騒な話しないでください。
それに本気で私の命が狙われたとしても簡単に私の弾避けになるとか言わないで。
もしそれで吾郎丸さんが死んだら寝覚めが悪いからさ。
「いえ、私のために危険なことしないでください。吾郎丸さんの命は大切ですから」
「そんな! お嬢は俺のためにそんな心配をしてくれるんですね! 俺、絶対に体張ってお嬢の弾避けになりやすから!」
吾郎丸さんは感激したのか興奮状態で何度も私に頭を下げる。
もしもし、私の言うことちゃんと聞いてました?
その体張る必要ないって言ったつもりだったんだけど。
「凛子は優しい女だな。さすが俺の義妹だ。吾郎丸、凛子の偉大さが分かったか?」
「はい! カシラ! お嬢はさすがカシラの義妹さんです! お嬢の警護は俺に任せてください!」
「よし、凛子に絶対服従で仕えろよ」
「はい!」
絶対服従ってやっぱり吾郎丸さんは犬扱いなんだろうか。
「それじゃ、凛子。また夕食の時に会おう。逆嵐、事務所に戻るぞ」
「はい」
天飛さんは逆嵐さんを連れて行ってしまった。
残されたのはだだっ広い部屋に私と犬……ではなく吾郎丸さんだけ。
「お嬢。何でもやりますので俺に命令してください」
なぜか吾郎丸さんは瞳を輝かせて私からの命令を心待ちにしている様子。
その姿はまさしく飼い主に絶対服従の犬そのもの。
こんなヤンキーな犬なんていらないのに。
でもいらないって言ったら吾郎丸さんは泣きそうな気もする。
仕方ない。ここは吾郎丸さんに良き飼い主だと思ってもらうようにするか。
「それならちょっとこの部屋に他にどんな物があるか確認したいから手伝ってくれますか?」
「はい! 喜んで!」
吾郎丸さんは私から命令されて嬉しそうに尻尾を振った……ように見えた。
とりあえずお母さんが新婚旅行から帰ってくるまでの間はここに住むしかないか。
お母さんが帰って来たら義父と交渉してまた一人暮らしできるようにしてもらおう。




