第3話 お母さんは新婚旅行中
私を乗せた車が都会にある大きな門のある屋敷に到着する。
門が自動で開き車は門の中まで入って完全に停車した。
「着いたぞ、凛子。降りろ」
後部座席の扉が開き天飛さんが先に車を降りる。
私も恐る恐る天飛さんに続いて車から外に出た。
目の前には何時代の建物ですかって思うくらい立派な日本家屋が建っている。
古そうに見えてちゃんと手入れがされているお屋敷だ。
とりあえず東京湾に到着しなかっただけマシだな。
義兄の話は冗談だと言って海に沈められる可能性もあったわけだし。
お母さんに直接話を聞くまで天飛さんの話を鵜呑みにするわけにはいかない。
もしかしたらお母さんがヤクザに借金を作って義父と姿を消したから私を借金のカタに拉致した可能性だってないとは言えないのだ。
あ、借金の代わりならいきなり殺されることはないか。
風俗で働いて金を返せっていうのが普通のパターンだよね、きっと。
それとも臓器を売れって言われるのかな。痛いのは勘弁して欲しいな。
私の思考はどんどん悪い方向に傾いていく。
「俺に着いて来い、凛子」
「は、はい」
私に天飛さんに逆らう権限なんてない。
ここはおとなしく従っていた方がいいと私の本能が告げる。
天飛さんが屋敷の玄関に向かうとその横に整列するように黒いスーツのヤクザさんたちが並んで頭を下げた。
「お帰りなさいませ! カシラ!」
ドスの聞いた男たちの声に私はビビる。
もうちょっと優しい声で言ってくれませんかね。
でもこの強面で優しい声出されてもそれはそれで怖いか。
「お帰りなさいませ! お嬢!」
その強面の方々は今度は私に向かって頭を下げて挨拶する。
「え? お、お嬢……? お嬢って……誰……?」
「お嬢ってのは凛子のことだ。凛子は天昇火風光会の会長の娘だからな。こいつらから見たらお嬢ってことさ」
戸惑う私に天飛さんが説明してくれた。
そういえば漫画とかでヤクザの娘が構成員にお嬢って呼ばれていたな。
ということはやっぱり私はヤクザの娘になったんだろうか。
未だにヤクザの親分の義娘になった実感はない。
とりあえずお母さんに会えばどういうことかハッキリ分かるよね。
うん、早くお母さんに会って話をしよう。
天飛さんは玄関から屋敷に中に入っていく。
玄関の広さだけでも驚くぐらい広い。
「お邪魔します」
「ここは自分の家になるんだからお邪魔しますじゃなくてただいまでいいんじゃないか?」
天飛さんはそういうけれど私にとっては初めてやって来た屋敷だ。
いきなり気軽にただいまなど言えるわけがない。
「いえ、今日、初めて来たのでここはお邪魔しますということでお願いします」
「凛子は面白い女だな。ククク」
面白そうに笑いながら天飛さんはサングラスを取った。
初めて天飛さんの素顔を見て私は心臓が跳ね上がる。
なんというイケメン!
切れ長の瞳にスッと通った鼻筋に少し厚みのある唇が黄金比のように配置された完璧な顔。
ただ眼光は鋭いから猛禽類を思わせる迫力がある。
こんなイケメンが私の義兄?
それはそれで嬉しいような怖いような。
「凛子の部屋に案内してやるからついて来い」
「あ、あの、その前にお母さんと会いたいんですけど」
「ん? 凛子は知らなかったのか? お義母さんは親父と新婚旅行で船旅に出ていてな。しばらく帰って来ないぞ」
は? 新婚旅行で船旅? しばらく帰って来ない?
「そ、それなら、せめて電話で話をさせてください!」
私はボロアパートから身ひとつで拉致されてしまったので今自分の手元に携帯電話がない。
「それは無理だな。新婚旅行を邪魔されたくないから組に事件が起こらない限り連絡するなと親父から言われてる。お義母さんも自分の携帯電話は自宅に置いていったそうだ」
そんなあぁーっ!
大事なこと説明してから新婚旅行行ってよ! お母さん!




