第21話 食い逃げ犯へのケジメのつけ方
「それでどうこいつにケジメつけるんだ? 凛子」
「食い逃げ犯として警察に逮捕してもらいます」
食い逃げ犯にケジメをつけろと言われても私にできることはこの男を警察に突き出すことぐらいだ。
それが食い逃げされた店としての普通の対応だろう。
しかし天飛さんは不満気な顔で私に鋭い視線を向ける。
眼光が鋭くなるととても一般人には見えない。
私の背中にも緊張が走る。
「サツだと?」
「はい。罪を犯した人間は警察に逮捕してもらって法の裁きを受けてもらいます」
「フンッ! 凛子も甘ぇなぁ。サツに頼るようじゃ極道の姐さんにはなれねえぞ」
いつ私が姐さんになると言いましたか、天飛さん。
お嬢という立場だけでも大変なのに勝手に姐さんにしないでください。
「まあまあ、タカ兄。リンリンは極道になったばかりだから仕方ないわよ。まだカタギの考えが抜けないんだわ」
私は今でもカタギのつもりですよ、暁刀さん。
「凛子さんがそれでいいと言うなら今回はそうしましょう、天飛兄さん。凛子さんには徐々にこちらの世界の法を知ってもらえばいいじゃないですか」
できればそちらの世界の法は知りたくないです、愛斗さん。
「と、とにかく、警察を呼びますから! それが私のケジメです!」
三人の義兄たちの基準でこの食い逃げ犯を裁いたらとんでもないことになりそうなので私はそう宣言した。
「チッ、仕方ねえ。サツが来るなら俺たちは帰る。俺たちのことがサツにバレるとうるせえことになるからな」
確かにこんな洋食屋にヤクザの若頭とヤクザの組長と暴走族の総長が集合してるのがバレたらヤバいことになりそう。
三人が帰ってから警察を呼ぶことにした方がいいかな。
そんなことを考えていると天飛さんが財布から一万円札を何枚か無造作に取り出して私に手に強引に握らせた。
どう見ても10万ぐらいはある。
「三人分の飯代だ。受け取れ」
「え? こ、こんなに受け取れませんよ!」
慌ててお金を返そうとするが天飛さんはスタスタと歩いて近くに停車していた黒塗りの高級車に乗ってしまった。
そのまま車は走り出して去っていく。
「リンリン、気にしないでもらっておきなさい。迷惑料だと思ってね」
暁刀さんは私の肩を軽く叩いてウィンクすると同じく黒塗りの高級車に乗り込み行ってしまう。
迷惑料だと言うなら最初からこの店に来なければいいのに。
でも来てくれたから食い逃げ犯を捕まえられたんだけど。
「凛子さん。それではまた」
愛斗さんもバイクで素早く走り去っていく。
どうしよう、このお金。
あ、そうか。自宅に帰って返せばいいのか。
バイトが終われば私が帰る家は火風光家だ。
それならばお金を返すのも簡単にできる。
「凛子ちゃん! 大丈夫? さっきのイケメンたちが食い逃げ犯を捕まえてくれたんだね」
「うん。そうなのよ、優香ちゃん。警察に連絡しないと」
「あ、店長がさっき連絡してたよ。もうすぐ警察が来るんじゃないかな」
「そ、そうなんだ……」
良かった。警察が来る前にあの三人が帰ってくれて。
場合によっては天飛さんたちが捕まるところだったわ。
ヤクザとはいえ彼らは今の私にとっては義兄だ。
私としても身内が警察に逮捕されるのを見るのは嫌だしお母さんが悲しむだろう。
せっかく幸せになったお母さんのことを思えば自分の今の立場だって我慢できるというものだ。
「それにしてもあの三人のイケメンさんって妙に迫力あったよね~、まるでヤクザみたいだったな~、凛子ちゃんはそう思わなかった?」
「べ、別に、お、思わなかったかな……ハハ……」
優香ちゃんの鋭い指摘に私は笑って誤魔化す。
天飛さんたちがヤクザさんだということは絶対にバレてはいけない。
「そうだよね~、あの三人は凛子ちゃんの知り合いらしいし。凛子ちゃんがヤクザに恋することないよね」
「え? こ、恋……?」
「だって凛子ちゃんがあのイケメン御曹司のこと見つめる視線は恋する乙女だったよ~」
「…っ! そ、そんなことないって!」
「う~ん、凛子ちゃんはまだ自覚していないのか。でも凛子ちゃんが誰を好きになろうと私は応援するからね!」
優香ちゃんは私の両手を握り瞳をキラキラとさせている。
余程私の恋を応援したいようだ。
「あ、ありがとう……優香ちゃん」
勢いに呑まれてお礼を言ってしまう私だが自分では天飛さんに恋をしているのかよく分からない。
天飛さんのことは好みのタイプだけど。
もし天飛さんと恋して結婚したら私はお嬢じゃなくて姐さんになるのだろうか。
いやいや、そんなの無理だろ。私が極道になれるわけないじゃん。
しっかりしろ、私!




