第19話 バイト先に現れた義兄たち
バイト先の洋食屋で私はいつも通りバイトを始める。
この洋食屋は都内に数店舗をかまえるそれなりに人気のある洋食屋だ。
食事も普通にできるが店内にはカフェスペースがありそこで飲み物を頼んでゆっくりもできる。
いつもと違うと言えばそのカフェコーナーに吾郎丸さんがカフェオレを飲みながら時々私に視線を送ってくることだろうか。
本当は店の中に吾郎丸さんはいて欲しくないのだが頑なに自分の主人である天飛さんに忠実な犬である吾郎丸さんは「お嬢の仕事が終わるまで店内でカフェオレ飲んでやす」と宣言して席に座ってしまったのだ。
私のバイトが終わるまで吾郎丸さんがいったい何杯カフェオレを飲むのか気になるが。
そこへ店の扉が開いた。
「いらっしゃいませ!」
反射的に笑顔でそう言葉を発した私は次の瞬間、固まってしまう。
来店して来たのはなんと私服姿の天飛さんだ。
私服であっても一流ブランドの服を着ている天飛さんはヤクザさんには見えなくてもこの洋食屋には不釣り合いだ。
まるでお金持ちの御曹司のお忍び姿のようだ。
なんで天飛さんがここに?
とりあえず他の従業員に天飛さんがヤクザさんだとバレないようにしないと!
「お客様はお食事ですか? それともカフェのご利用でしょうか?」
「よぉ、凛子。凛子のシノギの視察に来たぜ。この店の一番の料理を食いたい」
なぜ私の仕事を天飛さんに視察されなければならないのだろうか。
それにここで私の名前を呼ばれると私も反応に困るのですが。
「そ、そうですか。当店の自慢はオムライスです。なので食事のできる席にご案内しますね」
引き攣りそうになる自分に気合いを入れて天飛さんを席に案内する。
天飛さんはドカッと椅子に座った。その偉そうな態度はヤクザさんたちに見せる若頭の時と変わらない。
「注文はオムライスでいいですか? お客様」
「ああ、それでかまわないがなぜ俺の名前を呼んでくれないんだ? 凛子」
「今は仕事中ですので。私はプライベートと仕事はきちんと分ける人間です」
「なるほどな。さすが俺の義妹だ、凛子」
天飛さんはニヤリと笑う。
「では失礼します」
これ以上、天飛さんと会話していると他の従業員に怪しまれる可能性があるので私は早々に天飛さんから離れた。
オーダーを厨房に伝えると同じバイト仲間の優香ちゃんが私に声をかけてきた。
優香ちゃんも私と同じ大学生で年齢も一緒だからバイト仲間の中では一番仲がいい。
「ねえねえ、あのイケメンの御曹司さんって凛子ちゃんの知り合いなの?」
なるほど。優香ちゃんから見ても天飛さんは一般人じゃなく御曹司に見えるのか。
そりゃ、あれだけブランド品の服で身を固めていたらそう見えるよね。
とりあえずヤクザさんと思われなかっただけセーフと言えよう。
「まあ、ちょっと知ってるだけの人ですよ」
天飛さんは私の義兄とはいえ知り合ったばかりだから嘘は吐いてない。
すると再び店の扉が開く。
「いらっしゃいませ!」
入って来た人物を見て私は再び固まった。
「あ、僕のリンリン、み~つけた!」
そこにいたのは私服姿の暁刀さんだ。
暁刀さんは私服になると外国の王子様のお忍びにしか見えない。
なぜ、暁刀さんまでここに!?
立て続けに現れた義兄たちに私の頭は混乱してしまう。
「リンリンの洋食屋ってオムライスが自慢なんでしょ? お腹空いたから来ちゃった」
暁刀さんはニコニコと私に微笑む。
私はなんとか気持ちを立て直し暁刀さんに声をかける。
「お客様。それでしたら食事の方の席にご案内しま……」
私の言葉が言い終わらないうちに再び店の扉が開く。
「暁刀兄さんもいたのですか? 入り口で立ち止まるのは他のお客様に迷惑ですよ」
眼鏡をクイッと押し上げながら暁刀さんを注意したのは愛斗さんだ。
愛斗さんは大学生に見える私服だがそれでも愛斗さんもイケメンだから目立つ。
愛斗さんまで来たの!?
なんで私の義兄たちがバイト先で勢揃いしてるのよ!
「凛子さん。近くまで来たのでこの店のオムライスを食べに来ました」
「そ、そうなんですね。ご来店、ありがとうございます、お客様」
ここまで来ると混乱していた私の頭も逆に冷静になり私は接客スマイルを浮かべた。
この三人が私の義兄でヤクザさんだとバレることだけは阻止しなきゃ。
バレたらバイトをクビになっちゃう!




