第18話 敵組織の極悪兄弟
準備を整えてバイト先に向かおうとした私に新たな問題が待ち構えていた。
それはバイト先まで何で行くのかというものだ。
当然、私は今までと同じ電車と徒歩で向かうと主張したのだが天飛さんから「移動は車を使うように」というお達しが出ていたらしく私は用意された車に乗せられてしまった。
運転手は吾郎丸さんだ。
乗せられた車は黒塗りの高級車ではなくどこにでもあるような国産の普通乗用車。
とりあえずこの車だったらそんなに目立つことはないだろうと私もおとなしく乗ることにした。
「お嬢、どうっすか? 俺、運転うまいと思いやせんか? 中坊の頃から車を運転してたんで運転には自信があるっす!」
「はぁ……そうですね」
中学生の時から車を運転しちゃダメだろというツッコミはしないでおこう。
それにしても車で送り迎えとか、天飛さんは過保護過ぎるのではないだろうか。
「車で送り迎えしなくてもいいような気がするんですけど……」
吾郎丸さんに愚痴っても仕方ないと思いつつもそんな言葉を漏らしてしまう。
「いえいえ! とんでもないっす! もしお嬢が雨海藤組の奴らに誘拐でもされたら俺は若頭に山に埋められてしやいやすから!」
雨海藤組……?
そういえば私が天飛さんに拉致られた理由は敵組織に私が会長の養女になったのがバレたからって言ってたっけ?
その雨海藤組ってのが敵組織なのかな?
「雨海藤組というのが天昇火風光会の敵組織なんですか?」
とりあえず自分を狙っている敵組織とやらの情報も一応頭に入れておこうと吾郎丸さんに尋ねてみた。
「はい。あ、でも、組織の大きさや勢力は俺たちの天昇火風光会の方が圧倒的に強いっすよ。雨海藤組は最近できた新参の組なんすがそいつらのやり方はホントに半端なく姑息で汚ねぇんす。あんな極道には死んでもなりたくねぇっすね」
ヤクザの吾郎丸さんが死んでもなりたくないヤクザの雨海藤組っていったい……
それだけヤバい組ってことか。
「雨海藤組ってそんなにヤバい組なんですか? 天昇火風光会も同じ極道ですよね?」
「お嬢! 俺たちをあいつらと一緒にしないでくれやす! あいつらと違って俺たちはスジが通らねえことはしないっすから。それに天昇火風光会は麻薬もご法度ですし」
「え? そうなんですか?」
裏社会ではそういうのが当たり前のイメージがあったが天昇火風光会は極道でも違うのだろうか。
「そうっす! 今の会長になってから麻薬を取り扱うことは禁止になったんす。なんでも若頭がまだ10代の頃に「麻薬から手を引いたら俺がその分稼いでやる」って会長に啖呵きったらしいっすよ。そしてそれを実践して若頭は天昇火風光会に莫大な利益をもたらしてるんす」
そうだったのか。天飛さんも言ってたもんね。
朝食の時間だけで一億稼ぐことも可能だって。
天昇火風光会がヤクザの中ではまともな方だと聞いて私は少しホッとする。
「それじゃあ、天飛さんの主なシノギって……?」
「フロント企業の経営や投資なんかですかね。やってることはカタギとそう変わりやせんが若頭が常人と違うのは「時」を読む勘が異常に鋭いって聞いてやす。だから若頭は天昇火風光会の頭脳なんすよ」
なるほど、そこで頭脳という言葉に繋がるわけか。
確かに天飛さんは野生の勘が鋭そうに見えるもんな。
天飛さんが見せる鋭い視線を思い出した私は妙に納得してしまう。
「それなら私はその雨海藤組の人たちに気を付ければいいんですね?」
「はい! 特に組長の雨海藤芳樹とその弟の春樹って奴には気を付けてください、お嬢。この兄弟はマジで極悪っすから」
極悪兄弟か。絶対に関わりたくないなあ。
そんなことを話しているうちに私はバイト先の洋食屋に着いた。
とりあえず今は仕事に集中しよう。
天飛さんの言葉ではないが自分のシノギで私は稼ぐ必要があるのだから。




