第16話 頭脳派と武闘派
食堂には天飛さんがいた。
「なんだ、凛子も今から食事か?」
クロワッサンを片手に持ちそれをかじりながら天飛さんは食堂に入ってきた私を見た。
「はい。これから私も朝食です」
私は昨日と同じく天飛さんの向かい側になる席に着く。
テーブルの上を見てみると天飛さんの前にはクロワッサンとベーコンエッグ、サラダという洋風朝食メニューが並んでいる。
なんかザ・極道のイメージの天飛さんにしては爽やかなモーニングだな。
昨日は中華が食べたいと言ってたけど本当は洋食系が好きなのだろうか。
天飛さんはこれから仕事に行くからなのかすでにビシッとしたヤクザさんスーツを着ていた。
そしてなぜか料理の横には一台のパソコンがある。
食事をしながら天飛さんはパソコンで何か作業をしているようだ。
ザ・極道のヤクザがクロワッサンを口にくわえながらパソコン作業している姿はかなりアンバランスに感じる。
なんの作業をしてるんだろう……?
天飛さんたちの仕事に関係あるのだろうか。
「なんだ? 凛子。俺をジッと見たりして。俺に何か用か?」
思わずパソコン作業するヤクザの図に視線が釘付けになってたようで天飛さんがパソコン作業の手を止めて私に尋ねてくる。
あまりヤクザさんの世界に首を突っ込みたくはないが気になるので自分が抱いた疑問を訊いてみることにした。
「いえ、パソコンで何の作業をしているのかなって思いまして……」
「ああ、これはシノギの売り上げの確認だ。シノギの売り上げ確認は自分ですることにしてるからな」
シノギの売り上げの確認……か。
なんの売り上げかは聞かないでおこう。
世の中は知らない方が平和に幸せに暮らせることもあると私は知っている。
少なくとも昨日私に極道の義兄たちがいることを知らなければ私は平和に暮らせていたはずなのだから。
「朝食の時間も仕事をするなんて天飛さんはえらいですね」
私は無難な言葉を天飛さんに返す。
すると天飛さんはニヤリと笑みを浮かべる。
「シノギは時との勝負だからな。時を見極められればこの朝食の時間だけで一億稼ぐことも可能なんだぜ、凛子」
「い、一億…っ!」
何をどうやったら朝食の時間だけで一億も稼げるのだろう。
やはりヤクザさんのシノギって怖いな。
「す、すごい、ですね……私にはそんなの無理ですよ。天飛さんって本当にすごいと思います……ハハ……」
私は顔を引きつらせながら笑ってこれ以上シノギのことは聞かないようにしようと心に決める。
だって情報を知り過ぎてもし天飛さんたちとの縁が切れた時に口封じされたら怖いし。
「凛子に褒められると嬉しいもんだな。まあ、これでも若頭になる前から俺は天昇火風光会の頭脳と言われてた漢だからなぁ」
え? 天飛さんが天昇火風光会の頭脳?
どう見ても天飛さんは肉体派だと思ったのに。
私の脳裏にお風呂場で見てしまったたくましい天飛さんの筋肉質な裸体が浮かぶ。
あの肉体を持ちながら天飛さんの真の姿は頭脳派だというのだろうか。
しかし弟の愛斗さんは医学部に入れるぐらいの頭脳を持っていることに私は気付く。
弟の愛斗さんが医者になるぐらいの頭脳を持っているなら兄の天飛さんも同様に優秀な頭脳を持っていてもおかしなことではない。
「そうだったんですね。てっきり天飛さんは暴力……いえ、腕力の方で相手を従わせるタイプかと思ってました……」
「あのなあ、凛子。これからの極道は切った張っただけじゃやってけねぇんだよ。まあ、それでも時にはそういうことも必要な時があるから俺も身体を鍛えているし、暁刀みたいな極道も必要なんだがな」
「暁刀さんみたいな極道ですか……?」
「ああ、暁刀が組長を務める白煉獄組は極道世界では名の売れた武闘派の組なんだ。暁刀があの若さで組長になっているのは白煉獄組にケンカを売ってきた連中を全部沈めたのが暁刀だからさ」
沈めた……あのBLの主人公顔負けの暁刀さんが……
うん! やっぱり暁刀さんは怒らせちゃいけない人なんですね。
私の頭には私のことを「リンリン」と呼ぶ笑顔の暁刀さんが浮かぶ。
虫も殺せないようなあの綺麗な顔でケンカ相手沈めるとか怖過ぎだろ。
それにしても天飛さんが頭脳派で暁刀さんが武闘派って……ヤクザさんは見た目で判断しちゃいけないんだな。




