第10話 火風光家の食事の作法
席に着いて私は異変に気付く。
夕食だと言われてここに来たのだがテーブルの上には料理が置いてない。
あれ? ご飯はどうしたんだろう……?
「どうした? 凛子」
戸惑う私に天飛さんが声をかけてきた。
「えっと、夕食ですよね? 料理はどこに……?」
「ああ、そうか。凛子はこの家の食事の作法を知らないんだったな。火風光家では食事の前にまず自分が飲む飲み物を先に注文するんだ」
飲み物を先に注文って……ここはどこかの高級レストランなのだろうか?
自宅で食事を注文とか初めて聞いたな。
「そ、そうなんですね……」
ツッコミたい気分を押さえ私は冷静を保ちながら返事をする。
不本意であっても火風光家の家族となったのだからその家のルールに従うことも大事だ。
「飲み物を注文する前に改めて弟たちを紹介しておくが、こっちが暁刀、こっちが愛斗だ」
愛斗さんには先ほど会っているし暁刀さんもさっき自己紹介をしてくれたので既に分かっているが天飛さんは律儀に紹介をしてくれた。
「先ほど、少しご挨拶しましたがよろしくお願いします、凛子さん」
相変わらず丁寧な言葉遣いで愛斗さんが私に挨拶をした。
私も頭を下げて愛斗さんに挨拶をする。
「改めてよろしくお願いします、愛斗さん」
「ちょっと待て。なんで愛斗が凛子にもう会ってるんだ? 愛斗、まさかお前、凛子に手を出したんじゃねぇだろうな」
天飛さんの低い声が食堂に響く。
しかし愛斗さんは動じることなくかけていた眼鏡をクイっと指で上げる動作をした。
「私が義妹に手を出すわけないでしょう。私の恋人はちゃんといるのですから。凛子さんとは廊下で偶然会って挨拶しただけです」
おっと、愛斗さんには恋人がいるのか。
そうだよね、暴走族でも総長ぐらいになれば女にもモテるかもしれないし。
愛斗さんが暴走族の総長だという事実は未だに信じられないが愛斗さん自身もそれなりに顔立ちが整っているし将来医者になるというなら女からしてみれば優良物件だ。
ただし実家がヤクザの家だということを理解してくれる女性でないといけないと思うが。
おそらく今の愛斗さんの彼女はそれも理解してくれているのだろう。
あ、でも、正体を隠している可能性もあるか。
もし愛斗さんの彼女さんに出会うことがあったら愛斗さんについての発言には気をつけてあげよう。
私が正体をバラしたのが原因で別れたなんてことになったら大変だもんね。
「そうよ、タカ兄。ラブちゃんは今の彼女にぞっこんなんだからリンリンに手を出すなんてないわよ」
暁刀さんがニコリと笑みを浮かべて愛斗さんを擁護する。
だけど私は暁刀さんの言葉に違和感を感じた。
ラブちゃん……って、愛斗さんのことかな……?
それに暁刀さんの言葉遣いがなんかオネエになっているような。
「あ、あの、ラブちゃんというのは……」
私は恐る恐る暁刀さんに尋ねてみる。
「ん? ああ、ラブちゃんは愛斗のことよ。名前の漢字に「愛」がつくから僕が考えたんだ。いいセンスでしょ?」
名前に「愛」がつくからラブちゃん……って本人の愛斗さんはそれを嫌だと思っていないのだろうか……?
思わず視線を愛斗さんに向けると愛斗さんは眼鏡をクイッと指で上げた。
「凛子さんの言いたいことは分かります。私は暁刀兄さんの私に対する呼び名を認めているわけではありません。しかしそれに反発して暁刀兄さんに喧嘩をふっかけて何度も半殺しにあいましたから今は仕方なく受け入れているだけです。いつか暁刀兄さんを超える力を手にしたら今までのお礼参りはさせていただくつもりですので」
やっぱり愛斗さんは受け入れてなかったんだね。
それにしても暴走族の総長が喧嘩をふっかけても半殺しにして返り討ちする暁刀さんって怖すぎない……?
私は顔が引き攣ってしまう。
「もう、ラブちゃんたら、そんなこと言ったらリンリンが僕のこと怖がっちゃうでしょ? 本当のこと言ったら、ダ・メ・よ」
本当のことなんですね。
そういえば吾郎丸さんも暁刀さんは怒るとめちゃくちゃ怖いって言ってたような。
うん、暁刀さんを怒らせるのはやめよう。
「リンリン。僕のこと怖がらないでね?」
暁刀さんは私が怖がっていないか心配してるようだ。
正直、ビビっているがここは怖いですなんて言える場面じゃない。
なので私はもうひとつの気になることを暁刀さんに訊いてみた。
「暁刀さんのことは怖くはないですけど、暁刀さんの言葉遣いって独特ですよね?」
ハッキリとオネエですかとも聞けないので遠回しにそんな言葉を使ってみる。
暁刀さんはニコリと笑った。
「ああ、僕に日本語を教えてくれた人がこういう言葉遣いだったからこの言葉遣いが僕の素なのよ」
え? 日本語を教えてくれた人って。
やっぱり暁刀さんは日本人じゃないの?




