9話
ある日、僕の家に一匹の犬がやってきました。
お母さんが道に捨てられているのを拾ってきたそうです。
『お母さんありがとう! 僕、この子大事にするよ!』
『えぇ、ちゃんとエサをあげるのよ?』
『はーい! おいで! "猫"!』
僕は、その犬に"猫"と名付けて飼うことにしました。
猫は最初こそ怯えていましたが、すぐに僕に懐いてくれました。
"ワンワンッ!" ペロペロ
『あははっ! くすぐったいよ猫ったら!』
毎日のように僕らは公園で遊び、僕と猫は友達になりました。
僕には友達があまりいないので凄く嬉しかったです。
ずっとずっと一緒だよ、猫。
大好き。
ある日、猫が庭で死んでいました。
全身が血だらけで、それはひどい姿でした。
『……な、んで……なんで……ずっと、一緒だよって言った、のに……友達だったのに……こんなの、ひどいよ……猫……猫ぉ……ごめんね、僕が……僕がちゃんと見てなかったからぁ……!』
『あら? その犬死んじゃったの?』
『……お母、さん……?』
『可哀想に……よしよし』
『う゛ぅ゛! うぁああああ! 僕、猫を死なせちゃったぁああああああ!!』
『……ねぇアカネ……確かにこの犬は可哀想よね……でもね、この子はアカネに飼われてすごく幸せだったと思うわ』
『……ぐすっ……そう、なの……?』
僕は、いまだに止まらない涙を拭きながらお母さんの顔を見つめました。
お母さんは凄く優しい顔で、僕の頭を撫でながら言います。
『そうよ、だってあんなに可愛がってあげてたんだもの……きっと今も天国でアカネのこと見てくれているわ』
お母さんの手を握りながら猫のほうを見つめます。
僕もそうだと良いな、と思いました。
『ほら、いつまでも泣いてたらあの子も困っちゃうわよ? アカネはそれでいいの?』
『……ううん、僕もう泣かないよ……猫のためだもん……』
その後、僕とお母さんは一緒に猫を埋めてお墓を立ててあげました。
猫と一緒に遊んだオモチャをお墓の前に置いて、僕は最後のお別れをします。
『……っ……猫……大好き、だったよ……たくさん、遊んでくれて……ありがとう……これ、からは僕のことを天国で見守っていてね……さよう、なら……』
泣いてはいけないと分かっているのに、目から涙がこぼれそうになります。
そんな僕を、お母さんが後ろからギュッと抱きしめてくれました。
『いい? アカネ。あの子は遠くに行っちゃったけど、お母さんだけはどこにも行かないから……ずっとずっとアカネのそばにいるからね』
『……うん、お母さん……ぜったいだよ?』
『えぇ、約束よ……愛してるわ、アカネ』
◇◇◇◇◇◇
『……じゃあ、家に入ろうか?』
『うん』
僕とお母さんは手を繋ぎながらお家に入っていきます。
『アカネは、今日は夜ご飯なにが食べたい?』
『うーんとね、僕は━━あれ? お母さん、靴になんか赤いのが付いてるよ?』
『…………あら、本当だわ。一体"どこ"で付いたのかしらね』
『僕が水で洗おうか?』
『……フフッ、お母さんが自分で洗うからいいわよ。ほら、涙で顔がベチョベチョよ、顔洗っていらっしゃい』
『うん、わかった!』
この日のお母さんは凄く優しくて、僕を叩いたりはしませんでした。




