外伝というかボツストーリー的なもの 後編
「はぁ……はぁ……うっ……オェッ! ゲホッ! ゲホッ!」
——俺はとてつもない吐き気に襲われ、血反吐とともに地面に嘔吐した。
頭からドロッと流れる血が俺の視界を、世界を真っ赤に染めていく。
周りに倒れた三人の男子生徒はピクリとも動かず、生きているのかも分からない。
「……だから、暴力は嫌いなんだ……」
◇
あの根性焼きwith土下座の日、男子生徒はこう言っていた。
"真理は俺が幸せにしなきゃ"と。
……きっと彼は真理さんという女の子に何かするつもりだ、と足りない頭でそう考えた俺は迷わず先生にチクることにした。(チクったらタダじゃおかないとかなんとか言われた気がするが、気にしない。※ちなみにチクるとみんなから嫌われるので気を付けよう)
しかし先生は俺の話をマトモに取り合わず、それどころか『そんな酷い事をウチの生徒がするわけないだろう! お前は頭がおかしいんじゃないか!』と怒鳴られる始末。
えぇ……ちょっと理不尽すぎんよ~……。
その日は傷心で家路につき、もう警察に連絡しようかな~なんて考え始めた次の日、俺は自分の下駄箱に手紙が入っているのを見つけた。
『約束をやぶったな 体育館倉庫に来い』
手紙にはそれだけが書かれており、それを見た瞬間、俺はなんだか物凄く嫌な予感がした。
急いで体育館倉庫に向かい扉を開ける。
果たしてそこにはあの男子三人組がいた。
『お、来た来た……見ろよこの顔、スゲェ幸せそうだろ? ハハハッ』
『……』
これは一体どうしたことだろう。
彼の足元には裸の女の子が虚ろな瞳で倒れている。
凄く気分が悪い。
吐きそうだ。
『……なんで……』
……なんでだ。
その子は幼馴染なんだろう?
どうしてそんな事が出来るんだよ。
教えてくれ、教えてくれよ。
『これで真理は俺のものだ! お前には絶対渡さねぇ! アハハハッ!! アハハハハハハッ!!』
——そこで、俺の記憶は途切れた。
◇
……俺は暴力が嫌いだ。
人に振るうのも、振るわれるのも。
どっちも凄く"痛い"から。
◇
「ひゅう……ひゅう……あー、キッツ……マジ死にそう……」
体育館倉庫の床で、俺はヒュー、ヒューと掠れた息をしながら、なんとか立ち上がろうと手を床につく。
だが、完全に骨が折れているのか両腕に力が全く入らず、体を起こす事が出来ない。
この感じだと足もイッてるかもしれませんね……。
「クソ……武器、使うとか反則だろうよ……ひゅう……」
悪態をつきながら雁木さんのほうを見る。
虚ろな瞳をした茶髪で、ちょっと今時のギャルっぽい彼女は、俺と目が合っているようで合っていない。
「……ごめん、な」
分かっている。
こんな言葉は、自分を無理矢理落ち着かせようとする戯れ言に過ぎない。
だが、そう言わずにはいられなかった。
「……肌、隠してあげなきゃな……」
体全体をズリズリ引きずるようにして、雁木さんの傍に近寄る。
そこまでした時、彼女はようやく俺のほうを見た。
そして小さく口を開き、こう言ったのだ。
「……あれ? おにいさんだぁれ?」
「……」
——俺は彼女をよく知らない。
今まで彼女と喋ったことはない。
だから、何故彼女が俺に告白しようとしたのかも分からない。
それでも、それでもこれはあまりに——。
「わわっ、いきなり何するのー」
俺は、腕がこれ以上壊れてしまう事にも構わず無理矢理起き上がると、彼女を優しく抱き締めた。
「……おにいさんどうして泣いてるの? かなしいことでもあった?」
「どうしてだろう……おかしいね……俺もよく、分かんないや……」




