1話 ※挿絵あり
「——これ、何だか分かる?」
「……え!?」
「で、ここから本題なんだけどさぁ……この写真ばらまかれたくなかったら……分かってるよね?」
「……何がですか……?」
「え、ここまで言って分かんないの? つまり俺に体を差し出せって事」
「!?」
……えぇ、何この状況は……?
俺こと緋色 茜は現在、凄く困惑していた。
それもそのはず、放課後、俺が日課である空き教室のロッカーでロッカーごっこをして遊んでいると突然男女一組が教室に入ってきてこんな感じに不穏な会話を始めたのだ。
青山なる女子生徒の反応を見るに男子生徒が見せているスマホの画面には周りに知られたくないような物が映っているらしい。
「……お、お願いします、それ……だけは……わ、私には好きな人がいるんです……他の事ならなんでも——」
「あれれー? 良いのかなぁ? 良いのかなぁ? 君、お願い出来る立場なのかなぁ? 別にしなくても良いんだよ俺は。ただ俺は優しいからさぁ、君が誠意を見せてくれればこの写真ばらまかないであげるって言ってるだけなんだよねぇ!」
「痛っ——」
男子生徒の手が女子生徒の腕を掴み、そのまま壁に押し付ける。
彼の荒い鼻息がこちらまで聞こえてきた。
「いーじゃん、いーじゃん♡ 今は好きなヤツの事なんか忘れてさぁ、気持ちよくなっちゃおうよ。青山さんの秘密は守られるし俺は気持ちいいし二人ともwinwinじゃん♪ ね? 良いよね?」
「や、やめ……離してくださ……!」
涙を流す青山さんに迫る男子生徒の顔。
そして両者の唇が合わさり濃厚なキスが交わされ——
「くちゅん!」ガタンッ
そんな音が教室に響いたのはそうなる直前であった。
「ッ!? 誰かいんのか!?」
……やっちまったぁ!
あまりに長い間ロッカーに入っていたもんだからホコリとかが鼻にたくさん入ってついクシャミしちゃったぁ!
あああああああああああ!!! また出ちゃいそううあああああ!!!!!!!
「このロッカーか……?」
俺が慌てている間にも男子生徒はこちらに近付いてくる。
そして扉に手をかけて、思いきり開いた。
「……くちゅん!」
「……」
目と目が合う。
瞬間、好きだと気付いている場合ではない。
俺は他人と視線が合った事でちょっと吐きそうになりながらも何も言わない彼のすぐ傍を通り抜けながら左手をあげる。
「おっ、卓也じゃん。久しぶり~」
よし、誤魔化せた。
「……。誰だテメェ! あと俺は卓也じゃねぇ春樹だ!」
「グゥッ!?!」
バキィッ!っと、春樹君(自称)渾身のドロップキックが背中に放たれ、吹っ飛んだ俺は教卓を巻き込んで倒れた。
「きゃあっ!」
すぐ隣で青山さんの悲鳴が響く。
「……お前、このロッカーの中でずっと聞いてやがったんだな」
ヤバイ、この状況果てしなくヤバイ!
なんとか知らないフリをしなければ!
「いえ、全然聞いてませんでした」
「本当の事言えっ!」
「最初から最後まで聞いてましたハイ」
「テメェこの野郎がっ!」
再びの衝撃、今度は顔面を思いきり蹴り抜かれたようだ。
鼻にツーンとした感触、口に垂れてきた温かいそれを舌で舐めてみる。
ペロッ……うーん、これは鼻血!
俺が鼻の下をペロペロしていると青山さんが俺を庇うように春樹君の前に立ち塞がった。
「も、もう止めて! 死んじゃいます!」
「そうよそうよ! そしたらアンタ殺人犯よ!」
「舐めてんのかテメェ!」
ベキィッ!
「グベッ!!」
青山さんに便乗したら顔面ぶん殴られた。
「ふざけやがってテメェ! この! クソ! 野郎! がぁ!」
そのまま俺の上に馬乗りになった春樹君が俺の顔面に容赦のないラッシュをぶちこんでゆく。
自分の事ながら、人は殴られるとこんなに血が出るんだなって思った。(小並感)
そしてついに俺の意識も体から適度なソーシャルディスタンスを取りそうになった時——。
「もうやめて!! 私の事は好きにして構いませんから! お願いだからもうやめてぇっ!」
「…………へぇ~、分かった。良いよ、やめてやる」
春樹君が俺の上から退いて青山さんのほうに歩いていく。
……いやいや青山さん今の時間で完全に逃げれたでしょ。
なんで逃げなかったのよ。
まさか俺がいるからか?
俺がそんな事を考えている間にも春樹君は青山さんの制服を脱がせて胸をワイシャツの上から鷲掴みにしている。
「うぅ……ひぁっ!?」
「あっ、良い事思い付いたわ! せっかくだからさぁ、コイツに見せびらかしながらシようよ!」
「えっ!? そんな、嫌!」
かなり声が遠く、血で前が見にくいがどうやら彼らはここでおっぱじめるつもりのようだ。
はぁ……、とんだ放課後になっちまったぜ。
俺は脱力感から天井をボーッと見上げ、手を平泳ぎのようにスイー、スイーッとして遊びはじめた。
「ん?」
その時だ。
何かが手のひらに当たる。
俺はそれを掴んで顔の前に持ってきた。
これは……春樹君のスマホ……?
……そういや青山さんはこれに入ってる何かで脅されてたんだっけか……。
俺はムクッと起き上がると、ズボンを下ろし今にも青山さんに覆い被さろうとする春樹君に声をかけた。
「よう、春樹君。君のスマホ今から外にぶん投げちゃうけどごめんね」
——そして宣言通り教室の窓を開いて左手で思いきり外にスマホをぶん投げた。




