第五十三問「最終決戦」
よろしくお願いします。
この話を含めてラスト3話です。
世界樹の森。
エルフの伝承にて語られるそれは、魔力溢れる世界樹を中心に、森は生命の輝きで満ち、美しく鳴く鳥たちで賑わい、エルフ達が美しい音色を奏でる、楽園だと呼ばれていたそうだ。
それが今や森は枯れ果て、鳥は居なくなり、エルフ達はその美しい肌を黒く染めて生者を求めて森を徘徊し、そして何よりも、その中心に存在する世界樹がこの世の全ての負を全て吸い取ったかのように黒く染まっていた。
「っていう、ナレーションはどうかな?」
「・・・・・・お兄ちゃん、意外と余裕あるね」
サラがジト目で睨んで来るけど、そうでもしないとやってられない光景が広がっている。もうまさに死の森というか、腐敗の森っていう表現が似合いそうな森と、その中でのそのそと徘徊するエルフっぽい人影。
多分このダークエルフ(というより、ダーティーエルフ?)は、以前来たときには無気力にただ存在していただけのエルフ達の成れの果てみたいだ。その証拠に僕らの中で、カゲロウに一番ヘイトが向けられている。
『テンドウ殿、彼らの相手はお任せを』
『カゲロウ、僕も一緒に行くよ』
『ふっ、かたじけない』
そう言って、カゲロウとアシダカさんが飛び出し、ダーティーエルフの群れを切り裂いて行く。
『脆いな。いくら魔力が高くとも所詮は木偶人形と言ったところか』
『仕方ないさ。本来なら4年は時間をかけて使えるようにしてあげる必要があるのに、その時間が無かったんだから』
そう言いながら、ふたりは左右に分かれて森の奥へと進んでいった。
そうして、ようやく世界樹の麓に辿り着くと、根元の部分に2人の人影が見えた。一人はミーナよりも小さいくらいの男の子で、もう一人は黒髪の女性。気配からして男の子がダスターで、女性がこの世界樹の樹聖なのだろう。
その時、巨大な影が僕らと世界樹の間に落ちてきた。
グギァァァァァァッッッ!!!
叫び声と共に現れたそれは、ファンタジーものの定番といえば定番の存在。常に最強の銘を冠するもの。
ブラックドラゴンだった。
そういえば、ダスターがエネルギーが溜まったら何か召還できるとか言いかけてたのは、これのことだったんだろうね。
「ふむ。久々に倒し甲斐のありそうなのが出てきたな。あれは我が頂こう」
そう言うや否や、師匠が巨大な白い弾丸となってブラックドラゴンに突撃して、諸共に離れた場所へ移動していった。
遠くから見ても、激しい土煙と爆砕音が響き、さながら怪獣大決戦だ。
まあ、師匠も楽しそうだったし、お任せしてしまおう。僕が集中すべきはダスターだ。
「ダスター、遊びに来たよー」
お互い顔が認識できる距離まで来て声を掛けてみたが無反応だ。
「ダスター、儲け話があるよー」
無反応。これでもだめか。というより、樹聖に意識を乗っ取られているみたいだ。
なら樹聖を先に何とかしないとだめか。そう思って樹聖に意識を向けると、何かをぶつぶつ呟いてる。
『Gキライ、Gキライ、Gイタイ、Gキライ、Gクサイ、Gキライ・・・・・・』
うわっ、なんかめっちゃ呪われた人形とか亡霊みたいな発言だし。
『Gキライ、Gキライ、Gクサイ、Gキライ、Gキライ・・・・・・Gイタ』
一瞬、僕と目が合う。うわぁどんより濁ってる。そう思ってたら片手をこちらに向けてきて、って!!
「くっ!」
咄嗟にサラを抱えて横に飛ぶと、樹聖から放たれた魔力弾によって、さっきまでいた場所が吹き飛ぶ。
『Gキライ、Gシネ、Gキライ、Gシネ、Gキライ、Gシネ』
次々と撃ち出される魔力弾を避けていくけど、その度に森が吹き飛んでいく。
このままだとこの辺り一帯が更地になりそうだ。そう思ってたとき、視界に気になるものが見えたのでサラに確認を取る。
「サラ、もしこの魔力弾を昔のサラが受け続けたらヤバいかな?」
「そうね。防壁を張らないと間違いなく無傷では居られないレベルね」
「じゃあ、もう一つ質問。野球とバレーは知ってる?」
「知ってるけど、それと今の状況とどんな関係があるの??」
「うん、だから。僕がトスを上げるから、この世界樹の杖でピッチャー返しよろしく!」
そういって、抱きかかえていたサラに世界樹の杖を渡して上空に放り上げる。
そして咄嗟に腕に反射型の防壁を展開し、飛んできた魔力弾をサラの近くに打ち上げる。
「なるほど、そういうことね!任せて。えいやっ!!」
掛け声と共に杖をバットに見立てて魔力弾を黒く染まった世界樹目掛けて打ち返していく。
ズガッ、バキバキバキッ!!
魔力弾が当たった世界樹の枝が叩き折られていく。よし、無事に効いてるみたいだ。
ちなみにさっき視界に入ったのは、魔力弾で吹き飛ぶ世界樹の根だ。根がいけるなら枝も行けるだろうと見たけど正解でよかった。じゃあ、どんどん行こうか。
樹聖から飛んできた弾を僕が弾き上げて、上空に留まるサラが世界樹の枝めがけてかっ飛ばしていく。
『Gイタイ、Gシネ、Gイタイ、Gシネ、Gイタイ、Gイタイ、Gシネ』
自分に被害が出ているはずなのに、次々と魔力弾を撃ち出してくる樹聖。もしかしたらもう、自分が何をしているのか分かっていないのかもしれない。
そうしてしばらくすると、樹聖からの魔力弾が止まった。見れば、世界樹のほとんどの枝が叩き折られて、みるも無残な状態になっている。樹聖も、力を使い果たしたのか世界樹の幹にもたれかかるように倒れている。
さらにそこに横からブラックドラゴンが吹き飛ばされてきた。
「ふん、他愛ない。ドラゴンとはいえ、戦闘経験のないひよっこだったわ」
そう言って僕の隣に戻ってくる師匠には傷らしい傷もなかった。
『こちらも大体終わったよ』
『任務完了』
よし、アシダカさん達も戻ってきたし、後は僕がダスターを改心させて、樹聖を何とかすれば終わりだね。
そう思って、僕はダスターの元に歩いていく。ダスターは、うん。正気に戻ってるみたいだね。
「ダスター、大丈夫?僕が誰だか分かるかな?」
そう声を掛けると、ダスターはすぐに僕の事が分かったみたいだ。
「そ、その声は兄貴っすか!?あの、いや。これは、その違うんすよ」
「んー?何が違うのかな??」
「いや、だから魔王だとか世界征服っていうのは、その場の勢いというか、なんというか」
あたふたして言い訳を使用としてるけど。
「・・・・・・ダスター」
「は、はい!!」
改めて名前を呼ぶと、ビシっと気を付けをするダスター。少しは聞く耳を持ってくれたかな。
「僕が、何を怒っているのか、分かってるかな?」
そうゆっくりと伝えると、おずおずと答えてくれる。
「あっしが、魔王を名乗ったり、人間を滅ぼそうとしたことっすよね」
「違うよ。そもそもダスターはなんで魔王を名乗ったのかな」
「それは……実は元々、魔王の適正を持ってたんすよ。それで魔王として名乗れるだけのエネルギーが集まったんで、じゃあ、やってみようかなと。結果はご覧の通り、部下だった筈の樹聖の暴走に呑まれちまいやしたがね」
なるほどね。確かに折角あるなら使ってみたくなるのも分かる気がする。
「それじゃあ、ダスター。改めて聞くよ。ダスターはこれからどうなりたい?」
「どうなりたいか、っすか」
「そう。ダンジョンマスターになるのも良いし、魔王になるでもいい、それ以外でも良いよ。なんなら全部でも良い。でも中途半端にならないように自分の目指すゴールを決めてほしい。今度は道を変えてしまわない為にもね」
そう伝えると、ダスターは目を瞑って1分くらい考えた後、
「あっしは、やっぱり最高のダンジョンマスターになりたいっす。魔王とか世界征服とかは性に合わない気がするっすよ」
そう答えを出してくれた。
「うん。じゃあ、僕はダスターがそれに向ってまっすぐ進めるようにサポートするよ」
「ありがとうっす、兄貴。……あ!そうか、兄貴はあっしが寄り道してたから怒ってたんすね」
そういうダスターの頭を笑顔で撫でてあげる。
さて、これでダスターの方が何とかなったかな。
そう思ったところで、今度は樹聖が動きだした。
『Gシネ、Gシネ、Gシネ、シネシネシネシネシネシネシネ』
あ、あら。何か完全に壊れたっぽい?
そう思ってたら樹聖と世界樹が黒い光に包まれていく。
『ミンナ、シンデシマエ』
あれ、この流れって、もしかして・・・・・・。
そう思っていたところでサラの叫び声が届く。
「まずいわ、お兄ちゃん。その樹聖、魔力が暴走してる!! 早く逃げないとこの辺り一帯が消滅するわ!!」
って、やっぱり自爆か!!
そして更に悪いことに森全体が結界みたいなので閉ざされる。
『ニガサナイ、ニガサナイ、ニガサナイ』
くっ、さっきよりよっぽど行動が理性的だし。どうなってるんだか。
そんな愚痴を言っても仕方ないな。どうする。どうすればいい!!
ビーッ!ビーッ!ビーッ!
【警告:システムに過負荷が掛かっています。
このままでは深刻なエラーが発生する恐れがあります。急ぎログアウトを行ってください】
悪いことは重なるようで、自爆がシステムにまで影響を与えているみたいだ。
ふと、吹き飛ばされて出来た地面の穴が目に入る。
あ、そうか、その手が残ってた!!!
ビーッ!ビーッ!ビーッ!
【警告:システムに過負荷が掛かっています。
このままでは深刻なエラーが発生する恐れがありますので、強制ログアウトを実施します】
【警告:システムに過負荷が掛かっています。
このままでは深刻なエラーが発生する恐れがありますので、強制ログアウトを実施します】
【警告:システムに過負荷が掛かっています。
このままでは深刻なエラーが発生する恐れがありますので、強制ログアウトを実施します】
うるさい、キャンセルだ。みんなを助けるまでちょっと待ってろ!!
そう頭で強く念じながら、僕は地面に手を突いてみんなを救うための行動を取る。
「間に合え!!」
そう叫んだ次の瞬間。樹聖の自爆による黒い閃光が森全体を包み込んだ。
最後はやっぱり自爆ですね。お約束です。
そして物語はエンディングに向かいます。




