第四十九問「それぞれの要塞の攻略法」
よろしくお願いします。
今回は光と闇の要塞の攻略風景をお送りします。
いつも通りさらっと行きますが。
---- side ホーリー ----
目の前にそびえるのは元は闇の軍勢の主城だったもの。その外観は出来の悪い版画のように所々が崩れひび割れ、さらに適当に墨を掛けたように不均一な黒さを醸し出していた。
「醜いわね」
そう一言呟き、後ろを振り返ると赤を基調とした鎧で染め上げられた仲間が、一糸乱れず私の号令を待っている。
「みんな、先程のブリーフィング通りに。この腐った要塞を浄化しましょう」
「「「はい!マスター!!」」」
そうして私たちは3つの部隊に分かれて陣を形成する。
一つは最前列にて近接攻撃と防衛に特化した第一部隊。
もう一つは土魔法と風魔法を得意とする第二部隊。
そして『聖火』クランが最も得意とする火属性を扱う第三部隊。
元々の計画では第二部隊で要塞の扉をこじ開け、第三部隊で突破口を作り、第一部隊が突撃する予定だったわ。けれど、彼、テンドウから告げられた信じられない事実により、その予定は大幅に変更することにした。
彼曰く、ダンジョンとは無限再生しないものらしいのだ。そして異空間化していない今回の要塞型ダンジョンについて言えば、外から破壊することも可能らしい。つまり先日の攻城戦で繰り広げられた、狭い要塞内での泥沼の攻防はしなくてよいことになる。
ならば。私達が取れる戦法のうち、最も被害が少なく、かつ最速で要塞を破壊する方法を取りましょう。
「マスター。全員配置に付きました」
クラン設立以来、私とクランを支え続けてくれているサブマスターが報告してくれる。まえはそこにホノカも居てくれたけど、その彼女は、惚れた男の元に行ってしまった。別に怒ってはいないが、今日見たその男、テンドウはそこまで良い男なのかは正直分からなかった。今回の作戦の事といい、あの魔力弾の事といい、多少は出来るようだが、私の元を離れるほどなのかは悩ましい。っと。思考が脱線したわ。
「よし。総員、砲撃開始!!」
その私の合図と共に、土魔法使いが岩石弾を生成して打ち出し、風魔法使いがそれを更に加速させる。その上で火魔法使いが岩石を灼熱の溶岩へと変化させる。
本来なら最上級職の大賢者のみが使えると言われる『流星雨』を3属性の魔法を合成することで実現する。要塞内では大空襲さながらの地獄絵図になっているのかもしれない。
慌てて飛び出してきた魔物たちは第一部隊によって次々と討伐され、復活の為に要塞の中に戻っていく。
予定では要塞を完全に崩壊させるほどは魔力が続かないと思っていたのだけど、別口から支援攻撃が飛んできていたみたい。この魔力はホノカね。というこは、あっちはもう終わったという事なのかしら。
最後はがれきの山となった要塞に全軍で突撃を行う。
そうして1時間としない内に、元闇の軍勢の要塞は壊滅するのだった。
---- side スズカゼ ----
私たちの前に立ちはだかるのは、かつて光の軍勢の主城だったもの。
今はもう、見る影もない。表面の塗装は剥げ、朽ちた様子はまるで廃墟か幽霊屋敷ね。
「住む人の心の表れなのかしらね」
そうため息をつきつつ振り替えれば、色とりどりの花が咲いたかのような個性豊かな装備に身を包んだ仲間たちが居る。一見バラバラに見えるそれらは、しかし俯瞰してみればそういう模様なのだと思えてしまう統一された意志があった。誰かに聞けばこう答えるだろう。『天川先生』の作風をイメージしたものであると。
「さぁみんな。あの薄汚れた要塞を綺麗に洗い流してしまいましょう」
「はーい」「了解っす」「わっかりました~」
ほんと、個性的な仲間が集まったものね。
ダンジョンの魔物はダンジョンが健在である限り、ダンジョン内で何度でも復活するというのは、ダンジョンを攻略したことがある人は知っているだろう。
ただあのテンドウが言うには、それは無料ではなく、ダンジョンのエネルギーを消費して行われているというの。更に言うと、ダンジョンが保有するエネルギーは有限であると。だから復活したところを際限なく殺し続けると、あっという間にエネルギーが枯渇するらしい。
また、地上型ダンジョンは地面の上に直接立っているのではなく、薄い板を敷いて、その上に適当に載せてあるだけらしい。言い方は変だけど、土製の桶みたいなものだって。……どうしてそんなことを知っているのかしら。まぁ、それは後で良いわね。
それらを踏まえて、私達は水魔法が使えるメンバーで集中豪雨を要塞に降らせる。この魔法、消費魔力が少ない代わりに攻撃力はほぼ皆無。何のためにあるの?農業用?とか思っていたけど、今回に限って言えば実に便利だわ。
そうして30分も経った頃。要塞は水没していた。途中で排水溝があるんじゃないかと思って調査させたら、なぜか全て氷で塞がれていたとか。これはきっとミーナの仕業ね。今も雨に混じって雹が降ってるし。
あ、そうそう。綺麗にするって言ったのだから、水を掛けて終わりじゃなくて、ちゃんと洗濯してあげないと。なので、溜まった水に流れさせて渦を作る。洗剤が無いから、代わりに雷撃の魔法を適当に打ち込めば、溺れていた魔物たちがさらに感電して倒されていく。
そうして復活した先も水没と電撃が渦巻く死地になる。私なら、何度も倒されたら耐性を付けるんじゃないかって思うんだけど、敵にそこまでの頭は無いらしい。多分次回同じような事が起きた時は修正されていそうね。
そうして気が付いたら、要塞は外壁だけ残して崩れ去っていた。
これで元光の軍勢の要塞もおしまいね。
火責め、水責め、投石、落雷。
本来なら狭い通路に強力な魔物が罠を引いて待っているので厳しい戦いになります。
ならば外から崩して行けばいいじゃないか。という回でした。
なお、この攻略法は次回以降使えません。
魔王軍に下ったプレイヤーについては次回。




