最終話。世界三つを絆で繋ぐモブ。
「あれ、中神。先に店に上がってると思ってたぜ」
出入り口への梯子の前に立ってる中神を見つけて、
俺は意外な気持ちをそのまま乗せて、中神に声をかけた。
「見くびるな、そこまで薄情ではない。いくら暗さに慣れているとはいえ、
この地点に簡単には辿り着けまい」
「ほんとお前、口調に反してるよな」
「口調は人格とは関係あるまい」
「イメージってもんがあるだろ」
「まあまあお二人とも」
メリーさんに宥められてしまった。別に険悪なわけじゃないんだけどなぁ。
「イメージ、です」
ものっすごい笑顔で言われた、メリーさんに。
ーーかわいいけど、嬉しくねえっ!
って言うか、俺の考えが丸わかりって、
俺今どんな顔してたんだっ?
「皆さん、ここまででいいでしょうか?」
足元から声がした。ユーシアだ。
「大丈夫だぜ。跡梯子上るだけだしな」
「そうだな。ここまででも見送る距離が長すぎるぐらいだ」
中神、小さく笑ってるな。こいつ、こんなに笑う奴だったのか。
「すみません。二度も三度も往復するの、流石に疲れちゃって」
苦笑してる感じのユーシアの声だ。
「気にするな。この距離と高さではむりもない」
「だな」
「一回往復して平気なだけでも、充分すごいんですしね」
俺達の言葉に、なにやらてれたようなユーシアの笑い声が返って来た。
「ではな、ツチワラベども」
言うと、さっさと中神は梯子に手をかけて上り始めてしまった。
「今回も俺が真ん中でいこう」
ほんとはメリーさんを先に行かせたいけど、また鉄壁ガードされそうだから諦めた。
「なんでちょっと残念そうな顔してるんですか?」
そのメリーさんに言われてしまい、
「な、なんでもないんだぜ」
と妙な口調になっちまいつつごまかし、梯子に手足をかける。
「それでは、ツチワラベのお二人。お元気で」
メリーさんが、なんとも寂しくなる挨拶をしている。
「はい。また、逢いたいです、皆さんとは」
俺とメリーさんは、同意する言葉を返したけど、
中神は既に少し上っちまってて、言葉を返せる位置にいない。
俺達の言葉に対して、フェイティは、フンと鼻を鳴らすだけだった。
「ほんっと、こいつは……」
「んもう、フェイティったら」
なにやら嬉しそうなユーシア。
俺には、フェイティの感情表現の内容なんて、理解できませんが、
今のは好意的な反応だったんですかね?
「じゃ、またな」
言って俺は梯子を上り始めた。少ししてからメリーさんが続いた。
***
「おかえり。どうだった? ツチワラベさんちは?」
中神 俺 メリーさんの順で梯子を上り、全員が喫茶ツチワラベに戻って来た。
今のはマスターからの第一声だ。
「面白かった。いろんな意味でな」
厨房から客席がある側に歩きながら、中神が答えている。
俺達も中神に続き、手近な席にみんなして腰を下ろした。
「ところでマスター」
「なんだい、藪から棒に?」
「俺達より前に一人、妙なかっこうの女子が来ていないか?」
「ああ、ベスちゃんか。来てたよ」
「やはり、ここを利用していたか。マスターはなんの違和感もないのか?」
「最初はすごいかっこうの子だなとは思ったよ。けど、彼女がティル・ナ・ノーグの人って聞いて、
その違和感はなくなったね」
「と言うことは、マスターもあそこのことを知っているのか」
「ああ、知ってる。君の聞き方は、遊園地としての顔じゃない方のこと
だろうと思うけど、そっちについても知ってるよ」
「そうなのか。それもやはり祖父からの話でか?」
「いや、話ってより祖父からの人脈で、
彼等がここに来ることがあるからだよ」
「そうか。ツチワラベばかりではないのだな」
「だろうね。だからこそ、ティル・ナ・ノーグの人達が
ここを利用することがあるんだろう」
「ならば、今ティル・ナ・ノーグと下の世界で、
なにが話し合われているかも、マスターは知っているのか?」
「いや、そこまでは知らないな。なにか話し合ってるのかい?」
「下の世界、ティル・ナ・ノーグの誘いで
引越す準備を進めているらしい」
「なるほど。だからベスちゃんがちかごろ、よくここを地下への中継点として
使う目的で来るのか」
「そういうことだろうな。なら、伝えておいた方がいいな」
「なにをだい?」
「おそらくは、ここを通って荷物を運び出すだろう。
その際に手伝ってほしいのだ。まあ、あの娘が説明するかもしれんがな」
「わかった、覚えておこう」
「それでだ。引越し作業に我々も手を貸したい。
あの娘が次来た時に、俺達が協力したがっていたと
伝えてもらえないだろうか?」
「いいよ、お安い御用さ」
「助かる」
「なあ、中神?」
「なんだ?」
「ものすごい速度で話が進んでるけどさ。
その、俺『たち』ってのは誰のことを言ってるんだ?」
「貴様と、できるのならばメリーさんもだな」
「俺かよっ?」
「わたしもですか?」
「ああ。義を見てせざるは勇無きなり、と言うことわざがあってな」
「いや、この状況は『乗り掛かった舟』だろうね」
「ぐ……そ。そうか……?」
「カクジさん、真っ赤ですよ」
微笑の混じった声で言うメリーさんである。ウェイトレスさんたちも、
同じく柔らかに微笑してるな。
「何日ぶりだったっけな、お前の恥ずかし赤面見んの」
俺も笑いを噛み殺しきれずに、声に笑いが混じった。
「っ、やかましいぞ貴様らっ。マスター、水をくれないか?」
「はいはい、了解」
「くっ、マスターまで笑うなっ」
そんな中神の悔し恥ずかしな声を背中で受け流し、
マスターは俺達がこの店に入った時のように、
厨房でコップに水を注いでいる。
「それにしても、この一週間ぐらいは怒涛のようだったなぁ」
始まりは奇妙な後味の残る夢だった。
その夢を通じて、俺に残った魔力の残滓とやらを感じ取った中神に接触されて、
俺は否日常に体を浸すことになった。
そうしてあれよあれよと、夢の後味の主ことメリーさん、
メリーニャ・カグヒが俺に会うため、この世界にやって来た。
そこから中神の力の覚醒を経て、ツチワラベと言う否日常的存在が
この世界にいることを俺達は知ることになって、そして実は地下どころか地上にも
そういう否日常な存在がいることも知った。
これが夢から始まった、俺の奇妙な一週間だ。
そして、この一週間でできた奇妙な縁だ。
「そして、これからも続いて行く」
「お前が俺に対する扱いは、モブのままだろうけどな」
「そうだな。基本的にお前は、なんの変哲もない男だ。
疾風の申し子たちと戯れていると、他は意識に入れていられん」
「否定しないのな」
がっっくり来た。
どうやら俺は、こいつに少なからず、本気で友情を感じているらしい。
「天然ラブコメども……!」
意識せず、右の拳を握っていた。
「自ら接触して来ない限りはな」
中神の言葉は、終わらなかった。
そしてその言葉は、俺の拳を開かせた。
「自ら、か。あのミニマムちゃんみたいにか?」
「ああ。彼女のように、こちらに接触してくれば答えるさ」
「そうか」
意識せず、俺の口角は少し、上がっていた。
「いや~青春だねぇ」
コップを置く音と同時に冷や水をぶっかけられた。精神的に。
「クスクス笑ってんなよ周りの女子どもっ!」
今度は俺が真っ赤になる番になってしまった。
そりゃ台パンならぬ机パンするわ。
更に笑われたがなっ!
「んぐっ、んぐっ っ! げっふげっふ!」
「慌てて飲むからですよ、オカハヤさま」
いつくしむような微笑を向けるなっ! けふけっふ」
「なにをごまかしたかったのだ、異界に魅入られし者よ」
ちくしょう中神まで小馬鹿にしやがって!
「てめえらああ!!」
マスターまで揃って笑い始めたしっなぁもぉ!
「ドンマイですよ、オカハヤさま」
「ユーシア? 追っかけて来たのか。って、お前まで笑ってんのかっ? って言うかいつのまに名前をっ?」
「滑稽だな、オカハヤさま」
フェイティまでオカハヤさま呼びしやがったっ! 500000%煽る目的でっっ!
「コノヤロオオオ!!」
ヘビメタのボーカルの如く、裏返らないギリギリの高温でこの状況への怒りを
全力でシャウトした。せざるをえなかった。
もう、なにがなにやらわからなかったが、腹立たしいことだけは、
はっっきりとわかったからだ。
ーーだけど。だけどだ。
クラスでモブでしかない俺が、こんなにもいじられている。
こんなにも、笑いに包まれている。
モブだって、こんなにスポットライトが当たることがあるんだ。
ーーこれが。主役か。
「挑んで、みるか」
「思ったならば来るがいい。俺達は拒まん」
視線で察したか、俺の考えを。
「ただし。俺達の雰囲気に付いてこられるのならばな」
「ハードル上げて来るじゃねえか、中神」
「挑戦するとあれば、それを受けるのが魔王だ。
最大級に挑戦の壁は高くするさ」
「迷惑な話だぜ」
悪態を突くが、俺の表情は、自分でわかるほどに
楽しい笑いを浮かべていた。
END




