表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

76/78

76 スライム物語

 それはアイリスがシルバーライト男爵領にやってくるよりも、ずっとずっと昔の話。

 女神ミュリエルの力で、その地は緑豊かで、雨も定期的に降っていた。

 今と同じように教会がある丘の下には村があり、規模は小さいが人々が生活を営んでいた。


 そんなシルバーライト男爵領の周りに広がる草原には、様々な生き物が住んでいる。

 肉食の狼。

 小さな兎やネズミ。

 数え切れないほどの種類の虫。


 そして、スライムたち。


「ぷっにー」

「ぷににー」


 彼らは草原を駆け回ったり、小川で水浴びをしたりと、自由気ままに生きていた。

 無害なモンスターなので、人間に狩られることもない。

 村の中に侵入すると流石に嫌がられたが、その周りでぷにぷにしている分には問題なかった。


 女神ミュリエルが人間たちのために雨を降らせると、それ目当てに他の地域のスライムも集まってくる。


 仲間が増えると、スライムだって嬉しい。

 毎日、元気にぷにぷにしていた。


 ところが。

 ある日突然、女神ミュリエルの力が消えてしまった。

 彼女は雨を降らせることができなくなり、土が少しずつ痩せ細っていった。


 農作物が育たなくなった土地を見捨て、人間が一人、また一人と離れていく。


 スライムたちは最初、事情を知らなかった。

 近頃、雨が降らないなぁ、なんて呑気に考えていた。


 他の地域から来たスライムたちは、自分が生まれた土地に帰っていく。

 シルバーライト男爵領で生まれ育ったスライムたちは、もう少し様子を見ようと頑張った。

 そうしているうちに、草原の草が枯れ始め、小川を流れる水が消えてしまう。


「ぷに!?」

「ぷにに!」


 このままじゃ干からびて死んでしまう。

 慌てたスライムたちは、水を求めてさまよった。

 生まれた土地にこだわっていられないと、遠くへと歩み出す。


 しかし、いくら探しても、泉も川も見つからない。

 小雨すら降ってくれない。

 スライムたちの体力は失われていく。


「ぷーに! ぷに!」


 スライムの群れの中に、水色のスライムがいた。

 彼は『絶対、どこかに水があるはずだ!』と仲間を励ます。

 だが、一匹、また一匹と脱落するスライムが出てしまう。


 そして、ついに水色のスライムは最後の一匹になってしまった。


「ぷに……ぷにぃぃ……!」


 干からびて動かなくなった仲間の前で悲しむ。

 しかし涙を流せば、ますます水分がなくなってしまう。

 だから水色のスライムは涙を流さず、一匹で歩き始めた。


 絶対に仲間の分も生きるのだと誓って。


 ところが。

 辿り着いたのは無人の村だった。

 そこには丘があり、その上には教会が建っている。

 そう。

 スライムはまっすぐ進んでいるつもりが、同じ所をぐるぐる周り、シルバーライト男爵領に戻ってきてしまったのだ。



「ぷ、ぷにぃ……」


 水色のスライムは、もしかしたら人間が戻ってきているかもしれないと思い、家を見て回る。

 しかし、誰もいない。

 教会を覗き込んでも、女神ミュリエルはいなかった。


 けれど、教会の裏に井戸があった。

 その底に、ほんの少しだけ水が残っていた。


 水色のスライムは迷わず飛び込む。

 久しぶりの水はとても美味しかった。


 だが、すぐに失敗したことに気がついた。

 その深い井戸を上る体力は、もうないのだ。

 ほんのわずかな水と引き換えに、水色のスライムは全てを失った。


「ぷにー! ぷにー!」


 いくら叫んでも、助けは来ない。

 井戸はもうカラカラだ。


 水色のスライムは今度こそ涙を流した。

 残っていた水分を全て流し、そして干からびて動かなくなる。


 怖い。

 死ぬのが怖い。

 誰か、ここから助けてくれ――。


「ぷにぃぃぃ!」


 と。

 叫んでプニガミは目を覚ました。


「……ぷに?」


 そこは井戸の底ではなかった。

 いつも寝ているふかふかのベッド。

 左右からアイリスとイクリプスが自分を抱きしめ、すやすやと眠っている。


 近くにある別のベッドではミュリエルも眠っていた。


 そうか。今のは夢だったのか。

 安心したプニガミは、ほっと息を吐いた。


 今の夢は全て、過去にあった出来事だ。

 プニガミはアイリスの不思議な力で生き返ったが、あの頃の仲間とはもう会えないだろう。

 それでも、新しい仲間がこの村にはいる。


 井戸の底でたった一匹干からびていく絶望は、もう過去のこと。


 プニガミは幸せな気持ちで目を閉じた。

 そしてその日の朝。珍しく寝坊した。

『神竜が普通の人間になるため転生した結果 ~全パラメーターSSSって普通ですよね?~』という新作を始めました。

下記リンクから飛べます。

よろしくお願いします٩( 'ω' )و

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

新作の短編です↓↓↓↓

『スマホ』なんて『iランク』のハズレスキルだと追放されたけど、攻略情報を検索して爆速で最強になっちゃいます

↑↑↑↑こちらも読んでいただけると嬉しいです

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ