15話 つまらない会議は不真面目にやるものだ
会議の開幕戦です。
高橋さんたち総務チームと、農業班の中谷さんに建築班の茅野さんたちが漁船の船団に乗って、市の第2次派遣隊と一緒に徳島入りした。
茅野さんと会談を行った新入社員の細川沙希さんは本当に有能過ぎて、さっそく茅野さんから副リーダーを仰せつかったみたいだ。
ちなみに細川組は地元でもわりと名が知られてるらしく、沙希さんを取られた渡部さんからグチグチと3時間もの間に愚痴を聞かされてしまった。
人材と引き換えのなら、愚痴の一つとゴーレムによる市内清掃の依頼など、どうということはない。
今日の俺は四国地方並びに徳島市災害復興再開発事業の事前会議に出席してる。
賀島市長さんや佐山副隊長さんたちお偉いさんが真剣に討論を続けている中、あくびが止まらない俺は窓からの暖かい日差しで今にも寝落ちしてしまいそう。
セラフィは制圧が完了した市内で佐山大隊へ整理のお手伝いに参加し、グレースは次の作戦地である沖洲地区で、小谷小隊と生存者の救助活動でお出かけしてる。
どのように清算されるかは未定であるものの、彼女たちへは市と自衛隊から報酬が約束されてる。
献身的な女たちに支えられて、ヒモな生活で俺は将来的に懐がウハウハとなることは確定された。
「――というわけです。
芦田さん、なにかご意見はありますか?」
「……え? どういうわけ?」
一生懸命に資料の説明を行った渡部さんの問いかけに、全然話を聞いていなかった俺には、いつにどこでなにを、という話が理解できていなかった。
「会議中です。真面目に聞いてください」
「全然関係のない俺があんたらの会議を真面目に聞いてどうすんっすか?」
呆れ顔の渡部さんからそう言われても、本音の話、俺は和歌山に残ってる川瀬さんたちが早く来てくれればそれでよかった。
「――ブワハハハハっ!」
佐山さんが気まずくなった雰囲気の中でいきなり爆笑した。
「佐山さん。笑いごとでは――」
「笑いごとだよ、渡部君。
そもそも我々の話に芦田君を呼びつけた君の判断が悪い」
佐山さんを窘めようとした渡部さんが、逆に佐山さんにダメ押しを出された。
「だって、これは芦田さんも関係のあるはな――」
「うむ、僕も佐山副隊長と同意見だな」
「市長……」
賀島さんからも諭された渡部さんが黙り込んでしまった。重鎮の二人から俺を援護するような声があったので、ここは成り行きを見守ることにする。
「芦田君が徳島港の奪還を協力してくれると言ったんだ。
今はこちらがどのように進めていくかを論議して、その結論を芦田君と作戦の詳細を照らし合うのが実戦に携わる我々の責務だと考えてる。
違うかね?」
できる人の佐山さんが話したことに渡部さんは口を噤んだ。沈黙が続く中、声を出したのは政府側の職員さん。
「それに異論はありませんが、徳島港を確保したら、次は徳島空港が目標になると私たちは考えてます」
山下さんという若手の専門家は、今回のゾンビ災害を対応するために作られた災害復興基本法に基づいて、設置された復興庁の調査班に所属する職員だ。
20代前半の彼は見た通り、やる気満々な姿勢で俺への対抗心なのか、ほかの会議中でもなにかと俺の言葉に突っついてくる。
山下さんが出席する会議で、俺は発言するのがとてもダルく感じってる。
「芦田さんにも国民としての意識を持ってもらえたら、会議中に居眠りするという失態にはならないと思いますね」
「……」
あなたたちは会議に出たら、昇進はできるし給料ももらえる。
だが俺は義理で出てやってるだけ。その国民的な意識ってやつを言葉だけで押し付けないでほしい。
「芦田君、国民としての意識でなにか言うことはないかね?」
佐山さんがニヤニヤして問いかけてくる。
この人は絶対に面白い答えを待っているはず、ここはしっかりと佐山さんに応えてあげたい。
「国民としてぇ、お国の教育を受けたのでぇ、自分ができる範囲でぇ、勤労と納税の義務を果たしたいと思いまぁす。お国に感謝っす。ありがとうさんでござるっす。
——それで退席させてもらってもいいっすかぁ?」
「ップ――ブワハハハハっ!」
おもいっきりやる気のない声で天井を見ながらの返事。
それを聞いていた佐山さんが会議中にもかかわらず、また爆笑してしまった。佐山さんからの振りに応えてあげたかったので、ウケててよかった。
「ふ、ふふふ、不謹慎な発言は――」
「もういい、山下君。着席しなさい」
ふふふって笑ってるのか、怒ってるのか、山下さんにはハッキリしてほしいところだ。
彼の上司に当たる調査班の白川班長さんが声を出したので、ここは大人しく不謹慎な発言ってやつを慎もう。
「芦田君も会議の度に、うちの班員をからかうのはよしてくれたまえ」
「売られたケンカは損しないことを心掛けて、付加価値が付くようにお買い上げする! っていうのが異世界で培った大事な教えっす」
俺は悪くないのに、なんで言われなくちゃいけないと脳が独自の基準で判断したのか、慎むつもりだった憎まれ口が勝手に出てしまった。
「……まあいい。芦田君に付き合っていたら、いたずらに時間が過ぎるだけだ」
「え? じゃあ、俺は帰っていいっすか、白川さん」
「だめだ。まだ会議は終わってない」
「ええー……お腹空きましたんで、早く終わらせてくださいよ」
なにがしたいんだろうなと首を傾げて、仕方なく浮きかけた腰を椅子に下ろす。
「今日の議題は政府と市と民間が使用する土地についての区分けだ。
まずは市として市役所がある地区、それと東から北にわたる三つの地区、藍住町と川内町一帯を含む計五つの地区を使用し、川内町の一部を民間側と賃貸契約を交わすことで間違いはないだね」
「はい。その通りに相違ありません」
白川さんの確認に渡部さんが頷いた。
民間が使用するとは俺たちが使うということだ。
住宅や商業施設、それに学校など、みんなが住むところと物販するお店を市が管理する地域で賃貸させてもらう。
ミクたちは市内で生き残った子供たちと同じ学校へ通う予定。
ところで藍住町に勝瑞城跡がある。ただ城跡に使える水掘や土塁などがほとんど残されてないため、拠点として使えないのがとても残念だ。
「次は民間側。最初に契約した内容から変更したことを確認する。
川内町内にある一部の土地を専用の農地と漁港を市から借地し、住居及び商業施設は市と協議の上、指定された建築物を賃借するで間違いはないだね」
「その通りでありまーす、たい――」
「……無駄口を叩かないようにな」
大佐と言いかけて慌ててお口にチャックした。
悪ふざけするのはほどほどにしたほうが効果的だと俺は思う。それが白川さんと山下さんに伝わったのか、苦笑して頭を振る白川さんと怒りに燃えて睨みつける山下さんが対比して、俺にはとても面白そうに見えた。
笑いをかみ殺す佐山さんの肩が小刻みに震えてるし、渡部さんは呆れ顔を俺に向けてくるし、賀島さんに至っては片頬に手を当てて、観劇するかのように微笑んでいる。
川内町は沙希さんたちを救助した場所だ。
そこなら彼女たちにとっては地元。救助した全員が家に帰れるのなら、俺たちに合流したいと沙希さんを通して申し出てきた。もちろんのこと、俺が快諾したのは言うまでもない。
組織が大きくなり、市との契約やこれからの商業行為のことで悩んだ俺は知恵さんと相談した。彼女と航さんや川瀬さんたちを交えての無線会談、俺たちは会社を立ち上げることにした。
——その名もずばり、セラフィ・カンパニー!
俺からの提案は満場一致で即決された。有能なメイドさんを社長に据えることは俺の企みだった。
――俺はって? そらぁ会長職として裏からセラフィを操るに決まっとるがな。
会社がまだ設立してないのに、もう会長がいるだなんて、俺から見ても怪し過ぎる会社だ。
会議が長引きましたので、三話に分けました。
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