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12話 奪還作戦に犠牲は出るものだった

 壮観というべきかな、迫撃砲の射撃が次々と徳島城跡の本丸へ着弾した。


 徳島城は標高がある堅城、ゾンビを相手に通常通りに城攻めしたら時間がかかる。


 城の正面にはグレースが率いる150体のメイス持ちストーンゴーレムが囮部隊として、現在は公園内にいるゾンビと激戦中。


 迫撃砲程度では傷付かない俺とセラフィは川からテニスコートへ上り、身体能力でものを言わせて一気に本丸へ駆けのぼる。


 腕時計で時間をチェックする。


 ただいまの時刻は9時の5分前だ、間もなく砲撃が止むのだろう。



「いくぞ、セラフィ」

「かしこまりました。マイマスターひかってるんです☆キラキラキラリン様」


 今のセラフィは戦いに備えての高揚状態、だからなにもいうつもりはない。彼女には確かな感情が存在することを確認できただけでもよしとしよう……


 ――っていうか、名前が変わっとるがな! だれが光ってるんじゃだれが。毎朝洗顔しとるわ!



 棍棒で襲おうとするゾンビには斬首刑。

 飛んでくる石と鉄筋は当たっても無視。

 ゾンビ犬及びタヌキの噛みつきは放置。


 ミスリルプレートアーマーを着用した俺とセラフィは、無双状態で城山を上へ向かって走る。


 振るうハルバードは生い茂る木々ごとゾンビを切り倒す。木の後ろに隠れて投石するゾンビを旋風魔法で乱れ切りするセラフィ。地面には人体のパーツが散乱しているけど、お片づけは戦闘後にウッドゴーレムを使うつもりだ。



「汝らに命ず。ゾンビを打ち滅ぼせ」


 ()()()()()()()が漂う本丸についた瞬間に、60体のミスリルゴーレムと100体のストーンゴーレム、それに100体の犬型ウッドゴーレムと300体のウッドゴーレムを解き放った。


 犬型ウッドゴーレム以外はすべてがメイス持ちで、ゾンビを見つけ次第に叩き殺すように命じた。


 ある程度のゴーレムを小谷さんに預けてきたので、吉野川バイパスで襲撃してくるゾンビの迎撃に役立ってくれてると思う。



 昨日の夜までゾンビ襲撃の対応に、休養を必要としないセラフィを佐山大隊へ派遣させた。


 市の中心部ゾンビ撃滅作戦に備え、俺とグレースは昨日までの二日間、ハルちゃんが調理する食事を美味しく食べて、ゆっくりと三好マンションでお休みを取ってきた。


 この地区にいるゾンビを追い出すまで、昼夜に渡る作戦は続行すると佐山副隊長が支持してくれた。賀島市長からも作戦の実行に承諾を得ているので、これからくり広げる長い戦闘を思いを馳せつつ、ハルバードを握る手に力がこもる。



「セラフィ、麓にある小学校は任す。ゾンビを排除したらバリケードを築け」


「かしこまりました」


 単身で下城するセラフィは小学校の一つなら問題なく制圧ができるはずだ。


「うし、やるか。目指せ、今日中の博物館制圧!」


 城山から押されていくゾンビを徳島城博物館の近くで殲滅するグレースと合流を果たすため、俺は自分に気合を入れて、これから下へ向かってゴーレムたちを指揮しながらの進撃が始める。




 徳島城付近を制圧したことで、ゾンビたちは城山から検察庁へ増援できなくなった。


『芦田君。この様子だとより多くの目標建築物を落とせると考えるのだが、君はどう思うかな?』


「そうですね……

 徳島城から多くのゾンビが撃滅できたから、最初の作戦を変更してもいいと思います。

 犠牲は覚悟しなければならないんですけど、第二プランが可能になったのじゃないでしょうか」


『なるほど、君が異世界で戦ってきた経歴は無駄じゃないってことだな。

 よしわかった。それでは君を支援する作戦から我が隊が市の重要施設奪還作戦に切り替える。

 今度は君に我々を支援してほしい。よろしく頼むよ』


「はい。わかりました」


 ゾンビの攻勢が弱まったことで、佐山大隊は小谷小隊の支援を受けて、ついに念願だった検察庁の奪回を果たした。


 俺たち異世界組が担当するゾンビの増援が通れないように、ゾンビの進出ルートを遮断する。


 その勢いに乗り、佐山大隊は犠牲を出しながらも、地方裁判所から中央公民館と中央警察署の順で、次々と重要施設の制圧に成功した。




 博物館で臨時基地を設営した俺からのゴーレム援軍で、挟撃されたゾンビが鉄道の西側へ撤退し始めた。


 市立体育館と博物館へ佐山大隊から中隊単位で守備隊が派遣され、徳島駅付近で出没するゾンビを監視する役目を担ってくれた。


 佐山さんは臨時司令部を中央公民館へ移し、線路の向かい側にある建築物を鋭い視線で睨みつけてると、小谷さんが無線で話してくれた。


 市から指定された最重要施設である、市役所の奪還作戦が視野に入ってきた。



「ひかる様。偵察してきた結果、ゾンビが密集する建物は駅前の商業施設とホテル、あとは市役所に中央郵便局となります」


「うん、わかった。

 それじゃ、佐山さんのところへ行ってもらえるか」


「かしこまりました。

 ――それと、わずかではありますが、ゾンビが南へ橋を渡ってるところを見かけました」


 偵察から帰ってきたセラフィの報告に大事な情報が含まれてる。



 ゾンビは死を恐れないが劣勢になると引きあげてしまう習性があるのは、ここへ来てから幾度なく目撃した光景だ。橋を渡るゾンビがいるとすれば、やつらはここにいる不利を感じたと考えてもいいのだろう。


 一週間もの間、ろくに寝ずに臨んできたこの戦いは、あと一息といったところまできた。



 通称冒険者野郎チームの小谷小隊にも犠牲が出た。


 いきなりバルコニーから飛び降りてきた数十体のゾンビに不意を突かれ、顔なじみの5名の隊員が飛びついてきたゾンビに噛まれたらしい。


 ゾンビになることを恐れて、死を覚悟した隊員に止めを刺したのは隊長の小谷さんだった。いつもと変わらない笑顔を見せてくれるけど、どこか物思いに耽るところを目撃した。


 戦いが終われば、気落ちが似合わない小谷さんにハルちゃんから元気づけてもらおうと、俺はささやかだが身内だけの祝宴会を開きたい。



 佐山大隊の犠牲者はもっと多い。


 ゾンビを相手とする戦闘では負傷者の多くがゾンビになる恐れはあるため、噛まれた隊員たちは泣きながら、同じ釜の飯を食う仲間の手で命を散らしてほしいと願っていた。


 ゾンビの世界で起こりうることだし、作戦に参加する全員が認識する諦観なんだけど、話を聞くだけで熱いもの込み上げてくるくらい、本当にやるせない話。




「汝らに命ず。鋼板防壁を立てろ」


 市役所が佐山大隊によって奪還してから10日が経ち、新町橋を封鎖するために最後の一枚のバリケードはミスリルゴーレムの手によって設置された。


 これで地区内にある橋はすべて封鎖し、あとはしらみつぶしで残ってるゾンビを掃討していくだけ。



 厳冬の冷たい風が吹く中、ようやくのことで市の中心部となるこの地区は、多くの自衛隊員の犠牲により、ゾンビから人間の手で取り戻すことができた。


 賀島市長の手配でゾンビが排除される次第、小学校のグランドで犠牲になった市民(ゾンビ)たちと、作戦で亡くなられた自衛官たちの葬儀が行われる。



 俺とセラフィは地区内に残されてるゾンビを排除しつつ、冬空の下で戦場となった場所に散らばる遺体を空間魔法で収納した。





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