03話 助っ人は海を渡ってきた
助任川と新町川によって囲まれてるこの地区にある建物はさすがに元は市の中心だけあって、コンクリート造の建築物が多かった。
「はああ……面倒くさいなあ」
「そうですね」
ため息をつくところにセラフィは同意を示して、目の前にある数棟の古い団地へ目を向ける。
三好姉弟がいるマンションには敷地の外側で、和歌山で作っておいた鋼板塀で仮設のバリケードを設置しておいたし、魔弾ガン持ちミスリルゴーレムは周囲に配備させた。これで基地としての暫時的なゾンビ対策は施せたと思う。
それはそうとなにが面倒くさいと言えば、一棟ずつ各部屋を探索しながら潜んでるかもしれないゾンビを倒すのは正直に効率が悪すぎ。なにか良い方法はないかなって考えてるけど、面倒でもしらみつぶしでやっていくしかないかもしれない。
昨日はマンションで一泊して、三好姉弟は屋上での五右衛門風呂をかなり喜んでくれた。
お背中をお流ししましょうかとタオルを巻いた姿で現れた三好姉に、誘ってるの? って言いそうになった。もっとも、タオルの下にはスク水を着てるオチだったが、はるこたんと書かれたゼッケンはさすがにないわと引いてしまった。
恐るべきは天然ちゃんの行動、読めないというより思いつかないと表現すべきだ。
「まっ、いいや。
――セラフィ、ゾンビの掃討作戦は練り直しだから、それまでは専守防衛だ。
もうすぐ小隊長さんたちは到着するから、出迎えに行こうか」
「はい、マイマス――」
「それ禁止な」
――もう、この子ったらお茶目。お灸を据えちゃうぞ。
「ご苦労様です、ひかる」
「お疲れさまです、小谷さん」
「師匠、お疲れ様です」
「お疲れ、ミク」
付近一帯のゾンビは消え去り、安全を確保したヨットハーバーについた自衛隊と自警団とあいさつを交わした。三好姉弟がいるマンション――面倒だから三好マンションと呼ぼう。
今からみんなを連れて、ゾンビを排除した三好マンションに行くつもりだ。
「それでひかる、ここの様子はどうだ?」
「うーん……集合住宅や共同住宅が多いので、完全に安全が確保できるまで時間がかかるかな」
「そうだな。うちの中隊も和歌山市内を制圧するまで時間がかかったからな」
「ええ、前川さんからもそう聞きました。
それで今後の方針について小谷さんに相談に乗ってもらいたいと思いまして、まずはベースとなった三好マンションに来てもらおうかな……
――そうそう、無線で言ったように生き残った人がいたんですよ」
今から三好マンションで適切な空き部屋に司令部を据え、今後の方針変更で小谷さんと打合せしたい。
「へえ、生存者がいたんだ。長い間よく頑張ったな」
「はい。後で褒めてやってくださいよ」
「おう、任せろ」
こういうときは歳が近い俺じゃなくて、軽い性格だけどやるべきときはキッチリ結果を出せる小谷さんに言ってもらったほうが三好姉弟も嬉しいと俺は考えた。
ヨットハーバーからマンションまでは距離的に近いし、玄関ホールの近くにバリケードのゲートを作っておいたから、階段で10階へ上がるのは少々面倒だけどすぐに会えるはずだ。
「お帰りなさい、ひかるさん」
「お疲れさまです、芦田さん」
我が家でもないのに玄関で三好姉弟が出迎えてくれた。
「ただいま――
って、なんで玄関ホールにいるんだよ」
「さっき、お姉ちゃんが岸辺で芦田さんが人を出迎えたって言うんですから、戻って来るかなって」
「はい。お客様大歓迎ですから、お茶を用意しておきました」
二日ほどしかここにいないのに、この馴染みようはなんだろう。口に出して聞くのは負けの様な気がして、ここは大人しく黙っておく。
「小谷さん、この人たちが――」
「じ、自分は3等陸尉の小谷洋一であります! 宜しくお願いします」
――えっと……この舞い上がってる人はだれかな? 小谷さんってこんなキャラではないと思ってたが。
「あら、3等の陸尉さんで小谷洋一ですね。
わたしは三好晴子でこちらが弟の真彦ですぅ。こちらこそよろしくお願いしますね」
「三好晴子さまと弟君のまさぴこくんですね! お会いできて光栄です!」
なぜかガチガチの手付きで敬礼する小谷さん、それと弟くんはまさぴこじゃなくて真彦という名前だ。
「師匠、これ――」
「うん。こういうときは黙ってあげるのが大人だからね、ミク」
見た通り、小谷さんはどうやら晴子さんに一目ぼれしたようだ。
こんな時代だから恋愛は大いにすべきだと思うけど、三好姉さんはちょっとした天然ちゃんだから、惚れたやつは大変だと憐れんであげる。
「――それじゃお茶を置いておきますね」
「あ、ああああ。三好さん、熱いお気遣い、痛み入ります!」
「うふふ。晴子って呼んでくださいね、小谷隊長さん」
「は、はるこ……恐れ入ります!」
小谷さんが舞い上がるのは構わない。だけど話が進まないからラブコメするなら後にしてほしい。
それと熱いのはお茶のほうでお気遣いではないと断定する。
「晴子さんって、でっかいね」
「お姉ちゃんは無防備なとこがあるから、男で苦労してるんだよ」
ミクと真彦くんが後ろでひそひそ話中。
セラフィが偵察へ出かけたから、晴子さんにお茶を頼んだのが間違った選択かもしれない。だけどそれで晴子さんを責めるのは筋違い、色香に血迷った男のほうが悪いに決まってる。
「小谷さん、さっきの話なんですけど――」
「ああ、晴子さんを褒めてほしいってことでしょう?
晴子さんはきれいだから俺に任せな」
「違うでしょうが」
褒めろと言ったのは美しさじゃなくて生き残ったことだ。
「わかってるよ、ジョークだジョーク――1割な」
「9割は?」
――そこで目を逸らさないでくれる? これでもあんたのことは尊敬してるなんだけど。
「アハハハハ、ひかるは冗談の分からんやつだな。
――ゾンビ制圧の方針についてだが、そろそろ私たちを信用してもらいたい。
芦田くんが強いのは一緒にやってきたんだからよく知ってるつもりだ。
だが市街戦は俺たちの得意分野だから、任せろとは言わないから、せめて合同作戦を念頭に入れてほしい」
いきなり真面目モードに切り替えないでほしい、曲がり過ぎる変化球のような話し方についていけない。
でも確かに小谷さんの言った通り、俺も自分だけの力を頼りに進化したゾンビと対抗するのは限界を感じてる。
素直になるのも大事だと神魔錬金師のヴェナガン師匠がよく諭してくれた。ここは小谷さんたち自衛隊の力を借りて、困難となってきたゾンビ退治に挑んだほうがいい。
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