69話 合同作戦は事前の打合せが必要だった
ものは言いようかもしれないが何かするためには大義名分が必要だ。そこで前川さんにお願いしたのが俺に救助活動を依頼することだった。
契約上では支援するのは俺だけど、現場で状況がコロコロと変化するので、支援と実行が入れ替わることは臨機応変ということで依頼を受けた。
例えば救助活動の最中に武装勢力を殲滅してしまっても、それは前川さんが許可した上で、小林知事と二階堂本部長もそれはやむを得ない事情として 部隊長に一任するということで決まってる。
依頼料のほうは救出した人員と救助活動の内容に応じて、ガソリンで支払われることが決定された。
囚われてる自衛隊と人たちを救助するため、部隊を率いるのは馴染みの小谷小隊長さん。
医官と医療知識のある隊員を含め、小林さんと中隊長さんが協議した結果、今回の救助作戦に24名の自衛隊員が派遣された。セラフィは空間魔法に入れないので、俺と異空間でゲーム中のグレースを合わせて、計26人が参加する救助作戦が開始した。
沿岸で日が落ちるのを待ち、送ってくれた2隻の中規模漁船から、俺たちは四つの8人乗り偵察ボートに乗り換えて、夜闇の中で河口から川をさかのぼる。
この前にきたときと同じ場所で、俺とグレースにセラフィが先に上陸して辺りにいるゾンビを一掃した。やはりというべきか、ここにいるゾンビも角材などの武器を使い出してた。
それに前よりは明らかに数が少ないので、ここにいるゾンビもなにか異変が起きているのだろう。
「じゃあ、先に行きます。
打ち上げる火炎魔法を見たら突っ込んできてください」
「わかった。非戦闘員に頼るのは歯がゆいだけど、きみにしかできないことだから頼む」
馴染みの小隊長さんは民間人の俺が先陣を切るのが心苦しかったみたいで、打合せのときも自分が斬り込むと言って譲らなかった。
会議が硬直した状況で続く中、しかたがないとあきらめた俺はセラフィにお願いして、小隊長さんと格闘で対戦してもらった。
秒殺されてしまった放心状態の小谷さんは見ていてちょっと可哀そうで見ていられなかった。
俺たちが要塞化した市役所へ向かう前、人数の多い護衛班はルーフに重機関銃を取り付けた大型ゴーレム車に乗ってもらい、医療班のほうは医療設備を積んだ大型ゴーレム車に乗車した。
運転用の魔道具は渡したので、俺の指示がなくても小隊長さんはゴーレム車の運転ができる。
――前の偵察でわかったことを和歌山城の天守閣で打合せしたときに、作戦を実施するために情報の共有を図った。
市役所を占領する男たちがいるのは4階だ。
3階は食糧や武器弾薬が置かれている倉庫と弄ばれてる女性たちが寝泊まりする部屋がある。
食事する場所とその他の人質が集められてる部屋、それに囚われてる自衛隊員たちがいるのは2階。
はね出し廊下があったため、1階のほうはよく見えなかったので、直接突入してみないとよくわからない。
そこで練られた作戦はこうだ。
3階まで一気に飛び上がれるグレースは女性たちがいる部屋へ突入して、安全を確保した上ですべての人質が保護する。その後は4階へ上って敵対勢力を殲滅する。
同じく跳躍能力を持つセラフィにメイス持ちのアイアンゴーレムを預けてあるから、3階へ入ったらグレースのサポートしつつアイアンゴーレムを配置させる。3階を奪還したら2階へ行き、そこにいるすべての人質は救助して、抵抗する敵は一人残らず討伐する。
1階と駐車場を担当するのは俺だ。
まずはゾンビ対策にメイス持ちのストーンゴーレムと犬型ウッドゴーレムを駐車場に備えさせてから玄関から侵入する。内部の状況を確認しつつゴーレムを使いながら敵対勢力を排除する。
敵対勢力の全滅が確認できたらグレースが合図の火炎魔法を空へ向かって撃つので、それを確認した支援部隊がこっちへ向かう。
支援部隊が来るまでの間に撤収作業を済ませ、人質を駐車場へ連れていき、新たに出す大型ゴーレム車に収容する。
治療を要する人質は後からくる支援部隊の大型ゴーレム車に乗せて救急医療を施す。
帰路は前衛に俺たちが乗る小型ゴーレム車で道を切り開き、その後ろを医療班の大型ゴーレム車が続く。
しんがりを務めるのは護衛班の大型ゴーレム車、こちらのほうは重機関銃の弾薬箱が車内に積まれてあるので、弾切れを起こすことはないはず。
作戦といっても実戦に携わるのは俺のチームで、小谷さんや隊員を交えての作戦会議は彼らを安心させたいから協議したみたいなものだ――
作戦の動きに合わせて、今日はフレンドリーファイアを警戒して、魔弾ガンもハルバードも使わない。久しぶりに握ったのは異世界で愛用した双剣だ。
「それ、久しぶりね……
――見ているとなんだかヤりたくてうずうずしちゃうわ」
「はいはい。暇があったら相手してあげるから今日は無しな」
ちなみにグレースのヤりたいというのはいつもの契約料じゃない。
異世界でこいつに負けを認めさせたときに使ったのがこの双剣だから、これを目にする度に俺と戦いたくなるようだ。
前にきたときみたいに湧いてくるほどじゃないけど、それでも音を聞きつけたゾンビがぞろぞろとあっちこっちから姿を現した。
「ゾンビは無視、目的は市役所の制圧と人質の救助。
人質に実害を及ぼさないのなら、好きに戦っていいよ。
あ、上位魔法だけは禁止な」
「やったねっ」
「かしこまりました、ひかる様」
自由に戦えることに喜びを感じたグレースは飛び上がり、トレイを持ったままのセラフィは対照的になんの反応もなく、ただ一礼してくるのみだ。
「悪いけど俺のわがままに付き合ってくれ。
前に受けた銃撃の痛みと屈辱、場合によっては命で償ってもらう」
――まあ、全然痛くなかっただけど、こういうのはノリというものだよね。
「汝らに命ず。ここを守れ、ゾンビを通すな」
おおげさだが、100体のストーンゴーレムと50体の犬型ウッドゴーレムを駐車場の警備に当たらせる。
「なあ、俺は救助隊だけど、あんたらは敵か?」
「――き、救助隊?」
「違います! ぼくらはあいつらに捕まって命じられてるだけなんです。助けてください!」
みすぼらしい服を着た若い男二人が泣きそうな顔をして、手に持っていた鉄パイプを放り出した。
連中のお仲間なら小銃くらいは装備するだろうから、この子たちは見張りに立たされた囚われ人と考えてもいいだろう。
「な、なんだてめグワアっ!」
「銃、早く銃をガッフ」
「いやあああーー!」
「アハハハハ、死んで。ねえ、死んでよ」
市役所の上のほうからガラスが割れた音の後に男の怒声と断末魔が聞こえてきて、その中に女性の絶叫とグレースのバカ笑いが混じってる。
——うん、カオスだ。
「敵だ! ゾンビじゃねえ、女が襲ってきギャアアアー」
「・・・・ウグッ」
「銃はどこゲフッ」
セラフィが攻撃するときはなにも言わないし、声を出さない。ただ持っているトレイで敵の首を斬り落すのみだ。
あのトレイでお茶や食事を乗せてると思うとぞっとしないのだけど、どうやら日常用と戦闘用は分けていると教えてもらったので、なんとなくホッとしたのは覚えている。
それはそうと聞き慣れない言葉が聞こえた気がする。
——ここのヒャッハーさんに外国人がいたのか? まあ、事情聴取は囚われた人たちを連れて帰り、その後に警察に任せればいいか。
「なあ、1階はだれがいるの?」
「――」
混雑した状況で情報は大事なので、ここにいる二人に1階のことを聞いてみた。ただ二人とも口を開けたまま市役所に目を向けているため、答えてくれそうなそぶりをみせない。
「なあってばよ。1階は、だれが、いるの?」
「――んあ? い、1階ですか?
1階はぼくらの同級生と近くに住んでいた男たちです。お願いです、彼らも助けてください!」
「特徴とかある?」
「ぼくらは銃を持たせてもらえないんです。いつもこれでゾンビと戦わされました」
男の子は地面に落ちている鉄パイプを指して、今にも泣き出しそうな表情をみせる。
「わかった、助けてくるから隠れてて。
ゾンビはゴーレムが倒すから絶対に手を出すなよ」
「ごーれむ?」
ファンタジー的な名詞を聞いた男の子は質問したそうな表情をみせた。
——救助作戦の後でちゃんと教えてやるから、ちょっとの間はゴーレムの後ろに隠れていなさい。
鉄パイプを持ったやつは敵じゃない、小銃を持ったやつは全員さようならだ。ここにいる人たちの顔は知らないから、間違って殺してしまったら許してほしい。
「汝らに命ず。門を壊せ」
分厚そうな鋼板で加工されてる扉は、ハンマーを持ったストーンゴーレムで叩き壊す。
中に入ったらヒャッハーさんどもをぶち殺してくる。
さっさと任務を終わらせた後に、俺はいきたい場所へ移動するつもりだ。
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