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挿話4 美紅ちゃまの大冒険 -ゾンビの世界でも青春は大いに楽しむべき-

武闘派女子高生四方田美紅が主役を務める挿話ですが、いつもは控えめなセラフィがなにげにキャラ立ちしてます。




 コンビニエンスストアの前で全員がセラフィに自警団をやめないと固く誓ってから、採集活動が再開された。


「あのぅ……」


「なんでしょうか?」


 気まずそうにする駒井がセラフィに声をかけた。



「先はごめん。人形なんて暴言を吐いちゃって」


「いいえ、駒井様は吐いたのは()()()で暴言じゃありませんよ?」


「たああー! ゲロは吐いた、ああ、めっちゃ吐いた。

 でも謝りたいのはゲロじゃなくてセラフィさんに人形なんて言ったことだよ」


「あら、それでしたら謝る必要はありませんわ。

 だって、わたくしは人形(ホムンクルス)ですもの」


 少しだけ、ほんの少しだけ笑ったように見えたセラフィの妖艶そうな表情を駒井は思わず見とれてしまい、見る見るうちに赤ら顔になってしまった。



「――と、とにかく僕は謝ったからな!

 それとセラフィさんは人形なんかじゃないからな!」


 甲高い声で吼えるように叫んでから駒井は宮脇たちのところへ走り去る。


 その様子に首を傾げるセラフィの横へ、採集隊で最年長の津浦がなにやらしきりと頷いてから呟く。



「駒井も20代半ばだけど、まだまだ青春しとるな」


「セーシュンですか?

 津浦様も20代後半ですがセーシュンしてますか?」


「アハハハ! こりゃまいったなあ。

 そうだなあ、俺も独身だからセーシュンってやつをしなくちゃな」


 笑ってる津浦が言ったことを理解できずに、セラフィは首を反対方向へ傾げてみせた。



「絶対にみんなを守れるような七手組にしてみせるぞ! うおーーっ!」


 その頃、自警団を実戦部隊に導けるように我らの美紅隊長は()()()()()()()()で燃え盛っていた。




「あれ、あんたたちなに?

 剣と盾って――このご時世でゴスプレなん?

 余裕あるねえ」


 採集隊はたくさんの食料品が詰めてる手提げ袋を持った青年二人と道で出会った。



「あなたたちは……」


「え? 強そうな子だな。ねえ、なんて名なの?」


「いえ、名乗るほどの者じゃないです」


「ふーん……

 ――あ、後ろの子綺麗ね。ねえねえ、紹介してくんない?」


「あまり馴れ馴れしくしないでもらえます?」


 やたらと親しげにしゃべってくる青年に美紅は嫌そうな表情を作った。軽薄そうな青年が彼女越しにセラフィへ声をかけたとき、美紅は一歩前へ踏み出して、青年の行動を止めてみせた。



「あー、大女は興味ないのよねえ」

「なんだとてめえ!」


 わざと美紅を恐れるような身振りをみせる青年へ駒井は威嚇するように怒鳴りつけた。



「おー、怖いなあ……

 まあいいや。仲良くしてもらえそうにないからもう行くわ。

 ――そうそう、こんなご時世だからたまには()()しないとな。この先にドンがあるから行ってみな、今のうちなら食べ物が残ってるかもよ」


 手提げ袋を掲げるようにして、青年は仲間とこの場から離れていく。



 何度も拠点へ生存者が訪れてきたように、市内でゾンビが出ないことはわりと知られているので、多くの人がこうして、物資を漁るために出歩いてることは美紅たちも知っている。



「なあ、美紅。どうする?」


「そうですね……」


 宮脇から意見を求められた美紅はチラッとセラフィのほうへ視線を向けたものの、無表情のセラフィからは肯定する素振りも、否定する様子も見られそうになかった。


 大きく吸い込んだ息をゆっくりと吐きつつ、美紅は軽薄そうな青年から聞いた話を確かめてみようと決心する。



「宮脇さん、偵察してきてもらえますか?」


「うし、任せろ」


 住民たちは芦田から提供される各種の商品が元博物館の工房にある売店で並べられ、個人の好みに合わせて日用品や嗜好品を買っていた。


 だけど宮脇たちは自分で市内の店に放置されてる物品を取りたいとずっと願っていた。そもそも自警団へ参加したのは、物資の獲得が目的の一つでもあった。



 せっかく採集活動が許可されたので、宮脇はコンドームを確保したいと企んでいた。


 彼女とよく山里ラブホテルを利用するのだけど、温子姉さんからコンドームを支給されるのはいつも恥ずかしい思いしていた。


 今回の採集活動で獲得できた物資の2割は採集隊の報酬として支給ので、美紅以外の隊員たちはなるべくたくさんの品物をお持ち帰りしたいと意気込んでる。




『隊長、ドンですドン。あいつはうそつかなかった。物が()()()()ディスカウントストアだよ』


「そうですか……宮脇さん。外から見て、店の様子はどうですか?」


『若いお姉さんが数人。こっちから見ると袋に物を詰め込んでるね』


「……わかりました。そっちへ行きますので待ってください」


 宮脇から興奮した声で報告を受けた美紅は釈然としない思いがわだかまっている。親切とか見知らぬ青年が言ってたが、それを信じていいかどうかは今の美紅に判断がつかない。



 ただ隊員たちが行きたそうな目を輝かせているため、美紅としては普段から仲の良い仲間たちの願いを無下にすることができずにいる。フッとセラフィへ目をやると、彼女は青年たちが消えた曲がり角を見つめていることに気付いた。



「セラフィさん、なにを見ているんですか?」


「なにも見てません」


 セラフィは素っ気なかった。


「今から宮脇さんたちが見つけたお店へ行こうと思ってますけど、セラフィはどう思います?」


「なにも思いません」


 やはり素っ気ない答えしか返って来ない。


「――宮脇さんたちの所へ出発します。周囲に警戒をしてください」


 意を決した美紅は隊員たちへ指令を出し、少し離れた場所にあるディスカウントストアへ全員で向かう。




「ボス、あいつらはそっちへ向かいましたよ」


『わかった、誘導お疲れ。

 あいつらを捕まえたら、()()()()()を開くから早くこっちに戻ってこい』


 トランシーバーで連絡を入れた軽薄そうな青年は、落ち着きのある若者に肩をすくめてみせる。



「ヤバかったぜ。

 あのきれいなお姉ちゃんがずっとこっちを見てたからさあ、バレたかと思ったぜ」


「……バレてると思うぞ」

「は?」


 眉をひそめる落ち着きのある若者へ軽薄そうな青年は訝しそうな視線を向ける。



「俺は向かいの倉庫で様子を見てみるから、今はボスのところへ戻るつもりがない」


「あに言ってんだお前。

 ――ちょ、ちょっと。ちょい待てって」


 落ち着きのある若者は獲物と定めた()()()()()()()たちの後ろを追い、軽薄そうな青年は仲間について行こうと走り出す。





ゾンビの世界で美味しい話は落ちてません。


ご感想と誤字報告、ブクマとご評価して頂き、とても励みになっております。誠にありがとうございます。

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