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65話 生徒会長をリーダーにすべきだった

「困りましたわねえ」


 拠点の第6次緊急会議が開かれた。


 話し合いの末、高橋さんが漏らした小さな呟きに同意するかのように、みんなが頭を悩ませた。


 今回は建設的な意見以外、絶対に口を出すなと滝本さんから釘をさされた。


 ——なんでだ? グレースに頼んだら大阪市役所なんて火炎魔法ですぐに全焼するぞ。


 グレースは絶対に喜んで引き受けてくれるから、口にしてはいけない。



 会議の中で俺の()()()()提案はにべもなく却下され続けたが、今後の生産については俺の空間魔法で一部を収納することが一致して決議した。最悪の場合、大阪城から離れることを視野に入れたってわけだ。


 そうなる前に敵を殲滅してしまえば問題は解決するのに、みんなは賛成してくれない。


 もっとも、俺が過激な意見を提示したことで、みんながソフトランディングできるような思考に集中できるという、俺の思惑をちゃんと理解してくれてる。



 本音で言うと俺にとって、大阪城(ここ)なんて自治体と一戦してまで保持すべき拠点ではなかった。


 地理的においても規模的においても、あくまで大阪城は拠点を構築するに当たって、初期的に一番適した候補地に過ぎなかった。



 ここにずっと立てこもってたら人口は増やせられないし、農業でも畜産でも用地が足りないのは検証済み。


 ただ俺としてはそのことをみんなに知っておいてもらいたかったし、仲良くやっていけそうな同行者をここで()()しておきたかった。


 それにここまで築きあげたのはみんなの功績、俺が簡単に放棄することを宣言しちゃいけない。大阪城を出るときは、あくまで全員の総意でなければならない。



「まあ、最悪の場合は芦田くんのいう相手を排除することじゃなくて、ここを引き渡すというのも覚悟しておかんとな。

 そのときにどこへ行けばいいのか、どうやって移動するのか、また芦田くんに相談に乗ってもらわんといけないだろうな」


「俺はどっちでもいいですよ。全滅させるのも、新しい拠点を探すのも」


「全滅は無しだ。

 ――芦田くんのおかげで甘ったれたことを言わせてもらうけど、ただでさえ人間は少ないのに、争うのは避けられるなら避けたい」


 肩をすくめて苦笑する川瀬さんに目をやる。


 人間らしく生きるのはこんなご時世だからとても大変、あんたたちがそういうふうに考えてくれるから俺も頑張っていける。


 ——まあ、恥ずかしいから口にする気はないけどね。




 翌日、拠点内の各所に立てられた立て札の前に住民たちが集まっていた。



1.提示された不当な税を払う気はない。但し、交渉を続けるために一部の物資は提供しても構わないこと。

2.相手は自治体なので武力を用いて争う気がないこと。

3.最悪の場合は拠点を引き払うのでみんなに認識しておいてほしいこと。

4.拠点を引き払う場合を考慮して各種の生産品を備蓄していくこと。

5.各々が日常に担当する労務を止めないで引き続き勤務すること。



 会議で決議したことを住民に布告した。


 ここを出る前提で、市が管轄するであろうのここに残るか、俺たちと新しい拠点の候補地につくまでしばらく流浪するか、その二択を住民自分自身で選んでもらう。



 新しい住民の中には不安の声が上がっているものの、苦難の道のりを共にしてきたメンバーたちが経験してきたこれまでの日々を彼らに聞かせて、不満が広がらないように宥めてくれてる。


 そういうのは俺が言っちゃダメなことだから、俺の代わりに伝達してくれるのはとてもありがたかった。



「いや、そう言ってくれると嬉しいんですけど、僕らは芦田さんに守ってもらってここまでやってきました。

 より良い暮らしのためにもマンパワーは欠かせませんので、みんなと一緒に頑張っただけなんです」


 なにこの良い子は? すっごく可愛いんですけど。


 はにかんだ笑顔を見せてるのは玲人くん。拠点で教育を担当するちょっと頼りない小早川先生を支えているのはこの若きリーダー。



 子供と大人のつなぎ役を勇んで自ら受け持ち、実務に当たる各班のリーダーと作業について積極的に学び、自分の経験を惜しげもなくほかの生徒に伝える。


 拠点の運営に生徒の代表として進んで関わっているため、滝本さんを初め、高橋さんたち総務チームからの信頼も厚い。


 いっそのこと玲人(こいつ)に総リーダーを任せればいいんじゃね? なんてことを会議で何度も提案したのだけど、賛成してくれる人がいない。



 なんともあれ、日々の暮らしは維持しつつ先を見据える。それがみんなで決めた今の目標だ。




「グレース殿! 支援を、支援を頼みま――うわああー、ロストしたあ! 苦労して蓄積した攻撃力があー!」


「それを待ってたのよ、うふふ。ロストした攻撃の玉は頂きっと……攻撃力が200を超えたわ!


 待ちなさーい、このクソザウルス! ――ふふふ、フワハハハハ! 一撃よ一撃! ボーナスのアイテム倍増は独占よ」


「キタない手だよ、グレース殿。やり方エグすぎだよ、こんなのってないよ……シクシク」


「戦術的勝利って褒めなさいよ、タケ。敵に勝つには味方さえ欺かなければいけないわ。ふふふ」


 ——こ、こいつらあ……みんなが頑張ってるのになにをやってやがるんだ。


 ——んなことでマジ泣きすんなや、タケ。お前はちゃんと勉強と仕事をしてきたか? ……今日は休みだったな。ごめんごめん。


 グレースも手加減してやればいいのに、なんか異世界でのリアルバトルよりもゲームのほうが熱くなってる気がする。もっとも楽しくやってくれればなにもいうつもりがない。



「ひかる様、コーヒーのお代わりはいかがでしょうか」


「お茶とセンベイにしてくれるかな?」


「かしこまりました」


 控えめな声でお淑やかにご奉仕してくれるセラフィは本当に女神。もう俺の安らぎはこの子しかいないと思うくらいだ。


 でもいくら師匠似だからって、セラフィの顔を見るとたまに直立不動になっちゃうくせは直さないといけない。



「セラあ、わたし、ココアが欲しいなあ。あ、牛乳たっぷりね」

「セラフィ殿。ぼくはコーラとポテチがいいんです」


「かしこまりました、グレース様、タケ様」


 拠点一の超有能な総サブリーダーたるセラフィはおなじみのトレイを持ったまま、今や彼女の領域となった我が家の厨房へ、足音を立てることもなく麗しいお姿を消した。



 ——胸に秘めてる思いをここで正直に打明けよう。


 セラフィが居なければ俺もグレースも生きていけない体になってしまった。


 二つの世界を渡った俺が声高らかにここで堂々と宣言する。


 ——史上最強の廃人製造機(ホムンクルス)はセラフィをおいてほかない!





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