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61話 知らない連中が海辺で砲撃した

 天守閣の会議室に集まったのは滝本さんと高橋さん。それに拠点防衛の要であるミクと各班のリーダーだ。


 年齢層ごとの住民代表たちは、先ほどに開かれた月間会議で話し合いを済ましたので、この幹部会議には参加していない。



 着席する俺の横にセラフィが立っている。


 いつも座るように伝えてるのに、メイド(セラフィ)はご主人様の横で控えるのが嗜みだと言って譲らない。セラフィが参加しているのはれっきとした幹部であるため、けしてメイド扱いで列席させているわけではない。


 この頃わかってきたことは、セラフィも案外と頑固なところがあるから、こういうときは彼女の好きなようにさせてる。



「新住民の女性30人のうち、12人は工房の加工場で仕事についてもらったわ。

 5人は農業班で農作業に当たりたいと申し出ており、残りの13人は7人は食堂へ、清掃班のほうは6人で頑張ってるわね」


「そうですか、わかりました。

 それで彼女たちになにか変わった様子はあります?」


「しばらくの間、彼女たちの様子を観察したの。

 芦田くんが心配してたことなんだけど、外部と連絡するような言動はないわ」


「ありがとうございます」


 高橋さんの報告に頷く。これなら心配してた埋伏の毒(スパイ)についての警戒度を下げてもよさそうだ。



「子供のほうなんだけど、全員が寮で生活してもらってる。

 教育のほうは先輩の子たちに手伝ってもらい、少しずつだが授業について行けるようになった」


「はい」


「それと医者の須川先生に見てもらったところ、体調不良を訴えてた子たちもすっかり元気よくなったということで報告を受けた。

 それと須川先生からセラフィさんにリストを渡すから、不足する医薬品を持ってきてほしいと伝言を頼まれた」


「お疲れさまです」


 滝本さんの報告に頷く。やっと拠点の生活に慣れてもらったなら、一日も早くよくなって、遊んでもらいたいものだ。



「この頃は至って順調なのでな、おれがみんなを代表して報告する。

 拠点内については農業班、漁業班、畜産班、建築班ともに大きな問題はなしだ」


 川瀬さんの報告に頷く。


「個別報告でいくと、農業班からポンプの調子が悪いのでメンテしてほしいの要望があったが、建築班の設備担当がすでに解決した。

 漁業班は和歌山船団と合同で第5次沖合漁業に出かけるそうだが、護衛のゴーレムはセラフィが手配済みだ」


「中谷さんと桝原さんからも聞いてます」


「そうか。畜産班(こっち)はこれ以上和歌山からの要請である牛乳の増産には応えられないので、ちゃんと断ってほしい。

 建築班は和歌山から要請されてる、第2次整備工事の人員派遣を検討するために和歌山へ茅野くんが出張する。

 以上だ」


 川瀬さんの詳細報告にお礼で頭を下げる。



 ――っていうか、幹部会議で俺の役割はほとんど頭を頷くしかないから、別に出なくてもいいよな?


 残念ながら滝本さんによると、総リーダーの俺はいないと不安らしいから、俺の欠席は認められないとのことだ。



 最初のときに会議うんぬんは、俺が高橋さんに提案したものだから、自分が言い出しっぺなので断りづらい。


 それからというものは黙って会議に出るしかない。


 ——まあ、月一だからべつにいいけどさ。



「近頃こちらへ飛んでくるドローンは減少しました。

 いまだに操作する人は見つかっていないので、引き続き警戒に当たりたいと考えてます。

 ゾンビの出現は以前と同じ、数日に一度の頻度で現れますが問題なく撃退してます」


「はいよ。ご苦労さま、ミク」


「あ、それと弾薬の消耗を考えて、七手組は弓の練習に取り組んでいます。

 矢の作成は建築班の方にやってもらってますので、今後の補充については建築班のほうで生産していくように調整してます」


 ミクの報告に頷く。



「それとお……この頃はゾンビの姿がほとんど見られないため、住民から外出したいので許可してほしいという要望が出てます。

 あとは農業班から東側にある公園を農業地に拡張できないかというお願いがきてますよ」


 ミクの報告に首を横に振る。



「気持ちはわからないでもないけど、どちらも賛成できない。

 ——みなさんに不安にさせないように詳しくは言ってなかったのですが、この前に難波で調査した結果をお伝えします」


 難波で武装したコミュニティが謎の襲撃により壊滅し、コミュニティにいた全員が行方不明となったことをみんなに明かした。


 そして和歌山で体験したゾンビの変化を詳細について打ち明け、異世界にいたグールのことについても話した。



「「……」」


 一同沈黙――まあ、そうなるわな。



「……あ、あのう、話が突拍子すぎてついて行けません。

 ただ拠点から出ないほうがいいことはわかりましたし、隙がないように気を引き締めて警備に当たりたいと思います」


 ようやくのことで自警団の長たるミクがみんなを先んじて言葉を発した。



「ああ、そうしてくれるとありがたい」


「わかりました。みんなの期待に沿えるよう、七手組は頑張ります」


 全員がミクに温かい視線を向ける中、桝原さんが突然口を開いた。



「あのな、どこかのバカがはしゃいでると思って、言わなかったことだけどよ、ひかるが和歌山に行った時、海辺で迫撃砲をぶっ放したやつがいたんやわ」


「……続けてください」


「ああ——その日は大漁だったのでよく覚えてる。

 帰りの途中で、岸に近い海で水飛沫が立て続けて上がってたから、なにかなと双眼鏡で覗いたら、岸のほうでたてられた筒が何本も見えたんだわ」


「……」


「迫撃砲はひかるから見せてもらったので形は知ってた。

 あのときは十数人が砲撃の距離を試してたような気がして、危ないから、みんなへ遠回りするように無線で連絡してやった」


「いい判断と思いますよ、桝原さん」


「まあ、拠点と遠く離れてる場所だし、どこかのバカが自衛隊の武器で遊んでると思ったから、報告は上げなかったんだけど、まずかったか?」


「……あ、いや、ありがとうございます。

 拠点から離れてるのなら、脅威にはならないでしょう。あまり気にしないでください」


 珍しく桝原さんが様子を窺うような表情をしたので、思わず見つめてしまった。



 こういう情報は大事だ。


 迫撃砲は扱いやすくて速射できる。


 だが一般的な火砲に比べて射程が短い上命中率も低いと言われてるし、基本的に制圧に適する武器なので、火器による攻撃を恐れないゾンビには向いてないかもしれない。


 なんせ、ポンポンと撃ってる間に押し寄せてくるから、銃器による援護がないとあっという間にやられそうだ。


 市内にいる武装グループに対しても運用しにくい武器だと思う。


 あいつらは装甲自動車で接近してくるから常に動いてる。それにヒャッハーさんたちは分散して行動するので、砲撃を選択するよりも、直射できる自動てき弾銃か、重機関銃を使ったほうが早いと俺は思ってる。



 ——それなら迫撃砲という制圧に向いてる火砲はどこに使えばいい?


 例えばここ大阪城のような()()だ。



 駐屯地から持ってきた81mm迫撃砲L16なら射程が5キロメートルは超えるので、こっちが見えないところから曲射で上から撃ち込める。立面的に鋼板防壁で固めてるけど、真上からの攻撃だと俺たち異世界組がいなければ、ミクたちでは防ぎようがない。


 それに迫撃砲分解して持ち運べるため、移動しながらの砲撃ができる。


 60mm迫撃砲の射程距離は短いものの、一人で射撃ができるようになってるからこれで砲撃されたらお手上げだ。


 ——ここは大阪城なので、さしずめ冬の陣・淀殿砲撃されてビビるの巻といったところか。



 俺たちが籠城するここに、もし城内へ砲撃が着弾したら間違いなく大混乱に陥る。そうならんためにもしばらくの間は大阪市内を中心に、各勢力のアジトを調査する必要性が生じた。


 みんなが心配そうに見てくるから、ここは笑って誤魔化したほうがいい。





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