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59話 進化したゾンビは使命に目覚めた

とあるゾンビの視点です。




 おれたちは海水を含む自然界にある水を嫌がる。たとえば霧雨など多少の水なら影響は少ないのだけど、普通に降る雨は体が勝手に反応してしまう。


 ガソリン・ジュース・醤油など色んな液体で試してみたが、水を被ったときだけは慌てふためいてしまう。ある場所で同類が人間たちを襲おうとしたとき、人間たちは何本ものペットボトルの水をかけることで同類を混乱状態に陥れ、その隙にやつらは逃走してしまった。



 人間を相手に戦闘する場合は、水がおれたちの敗因となりうるため、おれは克服しようと水に浸かる特訓を始めた。


 浅い池に入ったおれは自分の意思とは別に、ハーレムメンバーが見ている前、池の中でずっとバタついてしまった。


 幸い、ある程度の時間が立てば引き上げるように伝えておいたので、池からの脱出を果たすことができた。


 水の中にも豊富な魔力が含まれてるため、呼吸を必要としないおれたちは水に入ったら、ずっと水中で終わりがない舞踏を踊らされたのだろう。



 意を決したおれは池での特訓をくり返し、水中でのヘンテコダンスを続けた。少しずつ、水に触れても自分の意識で身体をコントロールすることができるようになった。


 驚喜したおれは、ハーレムメンバーにも水に慣れる訓練を施したが、駄目だった。誰一人として水になじむことはできなかった。なぜだ!


 ただ水中で同類が踊るバタツキダンスは、中々壮観で滑稽な見物だった。今のところ水に恐れない同類は、おれしかいないと確認できた。なぜだ!




 ハーレムメンバーが戦力になったことで、おれは前に決めてた試験を実行した。人間の感覚でいう美女の同類を人間の男にぶつけてみる。


 以前に山間で見つけた人間が立てこもるビルを襲う。そこは人間の男たちが支配している場所で、人間の女は性行為の道具として使われていた。



「いいか、反抗しないで捕まえられて来い」


「「ハイ、アルジサマ」」


 ワゴン車に人間が食べる食糧を積みこませ、配下たちに男たちに見つかるようにビルの近くを通らせた。案の定、男たちは配下たちの同類に襲いかかってくれた。


 麗しい女性を捕まえたことに大喜びした男たちは、配下たちをビルに中へ連れ込んでしまったのだ。



「――なんだお前ら! なんで当たらんだよ」

「悪かった! 手を出さないから許してくれ」

「やめろおお! やめてく――ゲブッ」


 強い力を持つ配下たちに男たちは泣き喚きながら逃げ回り、大した抵抗もできないまま配下たちに殺された。これはテストケース、武装した人間の集団とどこまで戦えるかということをおれは知りたかった。



 だから男たちを同類に変えることはしない、人間のままで死なせてやった。


 囚われていた女性たちは救いが来たことと男たちの死に喜んでか、不用心にも配下たちに群がり、驚いた表情で配下たちによって同類にされた



 今までの観察で成り立てのゾンビは魔力が少ないことはわかっている。ゾンビとなったここの同類たちを喰らっても、俺も配下たちも大した成長にはならないから、女の同類たちはビルの中に置いてきた。




「そろそろ帰ろうか?

 なあ、どう思う」


「あルじサマのおオセのマまに」


 ――配下たちと成長しながらの旅を終わらせようと、意識を持ち始めたあの都市へ久しぶりに戻ろうと考えた。


 そこなら旅先で疎らに出る同類たちよりも都市のほうが同類の数が多いので、配下たちをより強くするにも帰ったほうがいいでしょう。



 帰り道に自衛隊の基地を通ったので、もののついでと配下たちを自衛隊のトラックで運転させて、ありったけの武器弾薬や食料品以外の物資を持ち帰った。


 訓練を積ませたら、同類が小銃や火砲が使えるかどうかを試したい。



 おれたちが運転する軍用車両を見て、救助を求めようとした人間たちも、武器を持って物資を強奪しようと襲ってきた男たちも、みんな等しくおれたちの同類にしてあげた。


 基地から運んできた武器弾薬は一番近くにある地下鉄の駅で降ろして、そこら辺でうろつく同類にウメダという()()へ運搬の手伝いを命じた。




 新メンバーを引き入れるために、懐かしい都市へ戻ったおれは大阪城の変化に驚かされた。多くの同類がいたそこは、いつの間にか人間の手によって強力な要塞となったのだ。


 こういうときは偵察することがとても大事、情報こそが勝利に導くと本で読んだ気がする。



「……あれは、ヤバいな。

 なんで人間に魔法を撃てる道具があるんだ?」


 どこからか流れてきた同類が人間を襲おうと近付くのだけど、魔法を撃ち出す砲台にことごとく倒されてしまった。


 大手門を目指すバカな同類が、銃眼から小銃で頭を狙われて撃ち殺された。


 何日も離れた場所で見続けた結果、より強い力を得るまで、大阪城には手を出さないほうがいいと俺は結論付けた。そのためにここ一帯にいる同類たちに地下へ行くように、ハーレムメンバーに命じた。



 今はそいつと勝負するよりも、おれは自分たちゾンビという存在がこの世界で居られるようにすることを選ぶ。


 人間は人間の男性と女性がいれば数を増やせる。


 だけどおれたちは人間がいなければ増えることはない。


 今はおれたちのほうが数量的に多い。だけどいつか人間におれたちの対策ができたら、きっとおれたちは人間によって滅ぼされることだろう。


 それまでに生き残るための策略を講じておかねばならない。



「ヴィヴィアン。新メンバーを増やすから、教育は頼んだ」


「はい、()()()さまのおおせのままに」


 おれは配下にいつもと異なる呼び名で呼ばれたのに興味を持った。



「んん? あるじではなくアジルとはなんだ?」


「い、いいえ。みんながあるじさまとよんでますから、わたしだけのとくべつなよびなをと……

 おゆるしください、あるじさま」


 最近になって、ようやく言葉が滑らかになった大学生くらいのハーレムメンバーが慌てて謝ってくる。だけどおれは彼女の言葉が愉快でしかたがない。



 初めてだ。ハーレムメンバーの一員(ヴィヴィアン)がこういう風に自我意識を持ったのは。


 名前などどうでもいいと考えてた。だが今は違う。



「良い、非常に嬉しく思うぞ。ヴィヴィアン。

 ――お前がそう呼んだように、今からおれはアジルと名乗ろう」


 心なしか、表情に変化がないヴィヴィアンは嬉しそうに少しだけ笑った。



 後ろに配下を控えさせていたおれは、ヴィヴィアンとともに彼女たちを連れて地下鉄だった洞窟へ潜った。


 そこは単語を発し、道具を使い始めた程度に成長した同類が集う場所。



 人間を拒絶するこの洞窟で、おれはハーレムメンバーを増やし、小動物を含むこの地にいる同類たちを配下にする。


 ゾンビと呼ばれて、人間から忌み嫌われた存在がこの世界で居続けられるように、おれはゾンビ(おれたち)の王国を創り上げる。


 それがおれの果たすべき使命だと自任した。





 ここまできてようやくゾンビの正体が発覚しました!


身体的な特徴について:

■ゾンビは謎の病原体によって体が変異を起こします。

■漂う魔力をエネルギー源とし、水を嫌うアンデッドモンスターです。

■人間だった時より身体の強度が向上し、魔力を吸収することで傷がゆるやかに回復します。

■人間をゾンビにする以外の欲望がありません。

■ある程度の知恵を持ちますが、いる場所とその時のことしか考えていません。

■人間を襲うという本能以外ではなにか思考することはしません。

■物を使って攻撃したり、不利を悟った時は逃亡したりとその程度の知能はあります。

■死という概念がないため、死を恐れることはありません。

■近くにいるもっとも強いゾンビに従うという動物的な本能があります。

■人類を襲う場合に近くにゾンビがいる時は集団的な行動を取ることはありますが、その行動はその時だけで終わったら解散します。


ゾンビの進化について:

■魔力を媒体にして極めて遅い速度で進化します。

■進化を果たしたことで知能は上がりますが思考力は変わりません。身体能力と傷の回復力はゾンビの時よりも向上します。

■同種を食うことで進化が早まります。

※ただし一定の進化を果たしたら同種を食っても効果がなくなります。

(同種捕食強化限界値:限りのない能力値の上昇はないので、同種を食い過ぎることを防ぐための本能です)

■上位種へ進化を果たしたゾンビは魔力を使っての身体強化、それに魔法を使えるようになりますが、一般的なゾンビは将来的に進化を果たしても、思考することしませんから魔法という概念を持つことができません。結果的に思考力を持つ変異種(アジル)以外では、ゾンビからドラウグルに進化しても魔法を使うことはありません。


 上記の能力により、一つの異世界が滅ぼされたのです。その異世界では魔法の概念が存在するため、多くのゾンビは魔法が使えました。やはり魔法という異能を駆使する力がなければ、世界なんて滅亡させられないかと。


 こちらの世界で現在のところ、アジルとその教えを受けたハーレムメンバー以外で魔法は発現していません。


 ゾンビの集団化についてですが、作中でアジルの集団以外に現れていません。一般的なゾンビは人間を襲う以外の目的がないため、集団を作る必要がないということですね。


 アジルは極めて特殊的な変異体という設定です。また、成長を遂げたハーレムメンバーは個体としての意思はあるものの、彼女たちの行動原理はアジルにあり、その命令に従って忠実に行動を起こします。指令がない時は個体の個性に合わせてなにかの行動はしますが、郎党を組む考えは持っていません。


 ハーレム主アジル様々の状態です。


 そんなガバガバ設定ですが、ご了承のほど宜しくお願い致します。


 この設定(くだり)を綴りたくて仕方がなかったのですが、主人公視点で進行してまいりましたので、ある程度主人公の拠点作りが落ち着いてくれないと描けませんでした。神視点はなるべく減らしたかったですし、強力な変異種(ライバル)の出現は唐突に! と考えたので、遅くなってしまいました。


 そしてそして……なんと! ハーレムは主人公じゃなくて不死者(ゾンビ)が築く! もっともゾンビは行為しないため、ハーレム的な描写は全くありません。


 主人公よりも進化する不死者(アジル)を格好よく書きたかった一話でした。


お知らせ:

今日の夕方に特別編を投稿いたします。よかったらご一読ください。


 

アジル(??):ゾンビ化する前は男性で小さな貿易会社でしがない中年営業職だった。サブカルチャーが好きで災害のときにゾンビを間近で見ようと近付いたところでガブリ。おっちょこちょいのおバカさんだった。

ヴィヴィアン(??):ゾンビ化する前は女性で職業は高級クラブのホステス。住んでいた高層マンションにこもってたが、食糧を調達しようとコンビニに入ったところでガブリ。以後アーウーゾンビとなった。


ブクマとご評価して頂き、とても励みになっております。誠にありがとうございます。

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