51話 勘違いは生じやすいものだ
子供たちは魔法を使うグレースと魔弾ガン持ちのミスリルゴーレムを見て大興奮してた。
俺は通常運転のハルバートで乱舞、それを見ていたイツキたち男の子が目をキラキラさせていた。
物事には順序があり、世の中には儀式というものが必要だ。イツキたちの家へ寄り、子供が大事と思うものを持たせる時間を作った。
町の中と避難所だった防災拠点でイツキの妹や同級生、それに先生や家族たちをゾンビという忌まわしい存在から、成仏すべきの死体に変えた。
人数がそう多くなかったので、夜になる前に海辺で死者たちの合同火葬を行った。
イツキたちは波の音とともに声をあげて、わんわんと悲しそうに泣いていた。
避難所だった広域防災拠点に、それなりの非常食や水が残されていた。もったいないと考えた俺はそれらをすべて回収した。
そこで一晩泊ってもよかったんだけど、イツキたちの感情を考慮した俺は、近くで見つけてきたホテルで一夜を明かすと子供たちに伝えた。
こっちの世界へ来てから、案外丸くなったグレースにご飯と食後のデザートを食べた子供たちを任せて、俺は夜の散歩へ出かけた。
子供たちにはミスリルゴーレムが強そうにみえてるようで、俺がここにいなくても安心できるのか、どの子も満面の笑みで暗闇の中へ歩き出した俺を見送ってくれた。
お出かけの目的は、この辺りに設置されてる太陽光発電のパネルを回収すること、倉庫やお店でお宝探しすること、それとこの先にある小さな港で小型漁船をありがたくもらい受けることだ。
ここはわりと田舎だが畑のち住宅、時折老人ホームという感じの町だ。
夜目が効く俺は野生化した野菜を採取したり、道沿いにあるパチンコ店でパチンコ玉を収納したりと、なるべく色んな物資を確保するように努めた。
「こんなもんかな」
子供と同行するなら隠形は使えないので、以前のようにゴーレム車で和歌山まで移動するつもり。
イツキたちのことを考えると寄り道しないで、さっさと県庁に預けてきたほうがよさそうだ。
そうと決まれば夜風で涼しみながら、帰り道の散歩を楽しもう。
和歌山に入るとゾンビの群れから熱烈歓迎を受けた。
「やっぱりゾンビって、学習するというか、成長するというか。
――明らかに変わってきたな」
「じーんでーア゛ー」
「そうね。でも棒切れで叩いて来ても効かないわよ」
和歌山市の北部で捜索してた頃、ゾンビたちは体を使っての攻撃だけだから、近接戦ができる俺は簡単に退治できた。
でも今日のゾンビは落ちてる棒などを武器にしての攻撃だし、片言ながらしゃべるようになってる。これを進化というべきだろうか。
子供たちが乗り込んでるゴーレム車に、バリアを起動させたことは正解だ。
「いーやーヴー」
数十体のゾンビが倒されると、女性ゾンビが背中をみせてそのまま逃げ出した。
その行動を見たほかのゾンビも、俺とグレースから遠ざかるように逃走し始めた。
「あ、あれ?」
「おかしなゾンビね。
嫌がりながら逃げるゾンビなんて初めて見たわ」
訝しむ俺へ横にいるグレースが指を唇に当てて、自分の感想を漏らした。
異世界なら、上位モンスターに当たるレヴァントやドラウグルははっきりとした意志と知恵を持ち、会話することだってできる。だがやつらは大抵こっちを騙そうとする。
ゾンビとスケルトン、それにレイズは人間を攻撃することに専念してる。やつらはしゃべるどころか、意思を持つことがない。
その中間に当たるグールとワイトはわずかな知恵を持つことができ、簡単な言葉ならしゃべることができる……
――って、そうか!
「グレースっ! みんながゾンビって言うから、俺もそのまま受け入れてたのが間違いかもしれない」
「なあに? いきなりどうしたの」
俺たちから遠ざかっていくゾンビを眺めるグレースが俺の顔を覗く。
「こいつら、ゾンビじゃなくて成りたてのグールかもな!」
グールは生きた人を喰らいつき、噛まれた人を仲間にする。
グールになったモンスターは漂っている魔力を使って、欠損した体の部分を修復させるし、魔力を吸収するやつらは腐敗することがない。
そしてグールは自然消滅しない。
長い年月を過ごしたとか、短期間で様々な経験を積んで覚醒するとか、そういうグールは、レヴァントかドラウグルかのいずれにクラスアップする場合がある。
それが異世界で仲良くなったネクロマンサーから教えてもらったことだ。生態としてはこの世界のゾンビって、生者を食べないグールに近いと思われる。
「ふーん……そう言われてみればそうかもしれないわね」
「まあ、最初の一体目が見つからない限りはただの仮説だ」
「でもそれが本当なら大事になるじゃないの?」
「――」
やっぱりグレースは優れた悪魔族だ。
彼女に指摘されて俺もようやく気付いたが、この世界でゾンビと呼ばれるものが本当はグールだとすると、いつかはクラスアップするグールが現れるかもしれないということになる。
レヴァントとドラウグルが現れた場合、魔法が使えないこっちの人間では相手にならない。
上位のアンデッドは身体の小さな欠損を修復させ、アンデッドを配下にすることできる。それに多くの上位アンデッドは魔法を使いこなせる。
「ま、まあ、仮説だから。
ゾンビの正体がなにかはだれも知らないし」
「そう言えばこちらの世界にいるゾンビって、きれいな身体してるよね」
グレースに言われるまでもなく、以前からずっと気になったことがある。
ゾンビの体がやたらときれいと思ってた。
もちろん体が食いちぎられて、どこか欠損がみられるゾンビは確かにいる。
最初の頃に見かけた多くのゾンビは傷が小さいか、目立たないものか、少なくても読んでいたネット小説のような腐敗したゾンビはいない。
この頃になるとほとんどのゾンビは無傷そのもの、自動的に修復されてるとしか思えない。
この世界のゾンビが異世界にいたグールと同じような存在と考えてもいいかもしれない。
——あのクソッタレ神が異世界から転移させてきたのか?
でも異世界転移は膨大な魔力を使うから、俺の帰還も魔神を倒した特典みたいなものって言ってたし……
「――って、考えてもわからん!
もういい、こっちじゃゾンビと呼んでるからそれでいい」
「それでいいんじゃない?
ゾンビでもグールでも人とは交わらないから、結局のところは敵よ」
確かにグレースの言う通り、アンデッドは生者を嫉むという認識が異世界ではデフォだ。
やつらはあらゆる生きてる種族と一線を画し、時には悪魔族を襲うこともある。
稀に生前の意識が強すぎて、人とは敵対しない個体は存在するものの、それは特殊なケースだ。それがゆえに、魔力で強引にアンデッドを生み出せるネクロマンサーは忌み嫌われてる。
ただそれは俺が連れ去られた異世界の常識。
たとえ類似してても、ここにいるゾンビが異世界のそれと同種であるかどうかは、はっきり言って確かめようがない。
それでもこんな世の中だからこそ知識を持つことは大切だ。
ゾンビに関しては討伐するだけではなく、その行動をより詳しく観察することが重要となってきた。
ゾンビの正体が明かされていきます。この作品のゾンビは魔力をエネルギー源とし、魔力による身体の修復と維持を行います。
主人公は自分が持つ異世界の知識で考えていますが、ゾンビの元となった感染源は主人公が転移した異世界と異なる世界なので、そのために主人公の魔法によるアンデッドの浄化はできません。
お知らせ:
この作品は最初の予約投稿で第1部までは完結していました。多くの方々にお読みになっていただいてる今、キャラたちの未来がより明らかとなる第2部を執筆いたしました。完成した第2部を予約投稿していきますので、エピローグまで楽しんでいただければ幸いです。
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