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49話 駐屯地はやはり全滅だった

「食べ物はなにもないか」


 海の近くにあるショッピングセンターの中で、ガラ空きとなった棚を見ながらため息をついた。


 ここはだれかが立てこもった様子が見当たらなかった。


 衣類や日用品などが並べられていたので、だれかが取りに来るかもしれないから、三分の一を残してほかはすべて頂いた。



 市内にある多くの店はすでに略奪があったのか、食料品はほとんど残されていない。


 すでに多くの食料品は賞味期限切れで食べられそうにないし、今さらマンションや住宅を個別に探索する気にはなれない。



 置き去りにされている車両のうち、重機はなにかに使えるかもと考えた俺は、見つけた重機をせっせと収納した。工事に使えなかったら、バラして錬金術で素材に変えてもいい。


 ゾンビ災害からだいぶ時間が立ち、ガソリンは劣化するためにできるだけガソリンスタンドへ立ち寄ってみたが、どこも食料品と同じ、空となった地下貯蔵庫が多かった。



「失礼しますね」


 ボーっと立っているゾンビの横を通る前に、あいさつしてあげた。


 俺の声を聞いたゾンビは、ゆったりとした動作で辺りを見回したが、俺が目に映っていないのか、すぐに元のようにいる場所で佇む形に戻った。



 何度かゾンビ戦を経験したのちに、遠征の基本行動方針を隠密に切り替えた。車列で移動するときは無理だったけれど、これならグレースとゴーレムを大名行列のように連れ回さなくてもいい。


 ゾンビはもちろんのこと、人間にも発見されないように、隠形のロープを着用するのが俺のファッションとなった。


 グレースは空間魔法の自室でRPGゲームの名作を消化中。食事と契約の履行(エッチする)以外は呼ぶなときつく言われた。



 倉庫を見かけると、なるべく立ち寄るようにした。


 この前は食品の物流倉庫で米はもちろん、小麦粉、砂糖や塩、缶詰やお菓子に酒類を大量発見した。


 そこら辺のショッピングセンターなんか目じゃない、みんなにいい手土産ができたもんだ。中で何体かのゾンビはいたが、隠形のロープのおかげで抗戦せずに済んだ。



「でもなあ……

 これって、スローライフじゃないよなあ」


「そうね。戦わなくなっただけで、前と一緒ね」


 良子さんが作ってくれたじゃが肉とひじきの煮物をおかずに、熱々の炊き立てのご飯でグレースと夕食を共にするとき、フッと疑問が湧いた。



「まあ、ここまでやったんだから、放っておくわけにもいかないよな」


「あなたらしいね。悔いなくやっておきたいんだ!

 なんてよく叫んでたもんね」


 ひじきの煮物をご飯の上に乗せてから口の中でよく噛む。


 大勢の人といるのは大変なことだけど、そうしていなければこのご馳走は食べられなかった。



 ここまでにいくつかのコミュニティを見つけたが、訪れようとは考えなかった。


 これまで和歌山県庁に和歌山城、ほかの地域で拠点の強化を協力した市役所、それに自分たちの拠点。放出した大量の物資は補充できてないのが現状。


 この先の日々を考えると、これ以上の供給は正直に言って厳しい。



「もう人助けなんてしないぞって、帰ってきた当初言わなかったかな」


「皮肉いうなや。さっさと飯を食ってしまえ」


 にやけた表情で見つめるグレースへ憎まれ口を叩いてやった。



『偽善者のお前がなにを言う!』


 ——異世界で、とある転移者にそう蔑まれたときはグサッときたもんだ。


 生きていくのに、理想と現実が食い違うのはどこの世界でも同じということだろうか。




 回り道しないでひたすら駆け抜けた結果、思ったより早く自衛隊の駐屯地へ着くことができた。


「やっぱりかあ」


 駐屯地は至る所に自衛隊員や民間人のゾンビがうろついてた。地べたには頭が撃ち抜かれた死体が腐敗して、鼻をつく異臭を放っている。


 小学校が隣接しているために子供のゾンビが少なからずいる。民間人がこれだけいれば、自衛隊さんもさぞかし守りづらかったことだろうと想像してみた。



「フェンスだけで囲まれているからなあ。

 しかもここ一帯に住んでた人が押し寄せてきたのだろうな」


 小銃を吊り下げたままの自衛隊ゾンビがいたので、コソ泥のようにスリングを切り落としてから、小銃とマガジンを回収する。これは俺がほしいというより、だれかに奪われないための処置だ。


 ゾンビは俺の姿が見えないので、しばらく所在なさげに動き回った。



 今は駐屯地の中にある弾薬貯蔵庫を探し出して、ありったけの資源を空間魔法で収納していくことだ。



 武器や備蓄品も見つかった分だけお持ち帰りする。


 缶詰とレトルトパウチのレーションが大量に入手できたのはちょっと嬉しい。報酬としていくらか分配してもらえるように中隊長さんと掛け合ってみるつもりだ。


 前までは自衛隊が使う野外無線機が欲しかったが、今は桝原さんが持たせてくれた無線機で拠点と定時連絡を交わしてるので、ここにある無線機は彼らに返還する。



「どうすっかなあ」


 判断に困ったのが各種の車両。


 トラックや装甲車が駐屯地内のあっちこっちに、割と残されている。ガソリンのことを考慮すると、この先は使えるかどうかがわからない。


「判断は前川さんに任すか」


 ここにおいても使われそうにないので、持っていくことにした。


 もしいらないと言われたなら、拠点補強用の素材でバラしてやるか、臨時のバリケードに使う。



 報酬というわけじゃないが、重機関銃を含む銃器と迫撃砲など火砲、それに適量の弾薬を無断で頂くつもりだ。


 拠点が攻撃されれば、反撃する必要がある。


 これらはおれ自身が使うのではなく、拠点で自警団に持たせて、抑止力としての役割を果たさせる。それに従来の火器による攻撃にしたほうがわかりやすい。


 魔法は相手からしたら不明な力となるため、混乱させることができる分、谷口のように不要な憶測を招きかねないし、初見殺しで使いたい気持ちはある。


 ミクが扱える銃器はともかく、迫撃砲の撃ち方などはなじみの小谷小隊長さんからそれとなく聞き出してみるつもりだ。



 今日も近場の倉庫かお店で物取りした後に、どこかで良さそうな豪邸でも探し出して、そこで夕食を取ってから寝泊まりするつもり。


 これがゾンビ世界の特典、人がいなければ、置いてある物はすべて独り占め。


 ――なんてね。





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