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45話 ホムンクルスメイドは大人気だった

 神魔錬金師のヴェナ師匠が丹精を込めて創りあげたホムンクルスのセラフィは伊達じゃなかった。


 俺の全魔力だけじゃなく、放出しながら漂う魔力を吸収できるグレースが膨大な魔力を送り込んだので、彼女の魔力保有量が拡張され、俺の数倍はある魔力を保有することができる。


 それによってグレースが教えたすべての魔法を使うことができる上に錬金術を含め、ヴェナ師匠が生涯最後に創り上げた渾身の一作であるホムンクルスは、俺以上のスキルを所持している。



 セラフィは俺と同じくらいの量をしまえる空間魔法ができるため、これからは各地で物資を回収するときに手分けすることが可能だ。


 そのおかげで作業がだいぶ楽になった。


 それに基礎的な体術と武器の扱いは俺が毎朝に時間を作って伝授してるし、ミクちゃんが喜んで組手の稽古するから、セラフィは格闘を含む武術がメキメキと上達してる。


 人造生命体のホムンクルスだけあって、セラフィは極めて高い身体能力を持ってる。そのうちに俺よりは強くなると思う。



 セラフィは今、農業と漁業や畜産、建築の工事に各種材料の加工、それに授業の出席や運営チームのお手伝いと、拠点に関わるすべての作業に参加してる。


 たとえ俺が物資の収集でここにいなくても、強力な魔法が使える彼女なら、俺とグレースの代役を果たしてくれるはず。



 でも俺は強いメイドが欲しくて無理してまでセラフィを起動させたわけじゃない。



 俺がセラフィに期待しているのは、この世界で学べる限りの技能を学習することで、特に彼女が生産に関わる技術を習得してくれと伝えてある。


 最悪の場合、みんなと反りが合わなくなった俺が()()()居られなくなったら、彼女がいるだけでゴーレムを統率して、俺たちはどこかで新たに拠点を構えることができる。


 俺がセラフィに与えた使命は、()()()()()()生きていける力を手にすることだ。




 拠点の食事はセルフサービスを取り入れてる。


 お金は最初に全員が持っていた分を記載した上で一旦回収して、全員が資産を持たない状態となったみたい。


 話し合いによって決めた職種と労働時間に応じて、今までの通貨を用いた金銭が時給で支払われ、それで元博物館に設置された売店で日用品や嗜好品を買ったりする。



 もちろん、食堂のメニューもちゃんと価格が決められている。


 これは滝本さんと高橋さんが立案して、全員にアンケートで調査した上で決定された運営方法と川瀬さんから教えてもらえた。



 なんでも運営と労働に対価を用意したほうが効率いいし、新たに通貨を決めるのも適切ではないし、それならばと今まで使っていた通貨を使用してはと、初期の運営会議で通貨制度の意見が出された。


 小早川先生が運営会議で子供たちのためにも、交換の媒介と価値の尺度を知ってもらえる通貨制度を用いたほうがいいと意見を出した。それにより、本案が全員の賛成を得て拠点で執行することとなった。



 ただし、公平を期するために全員が持ち金無しの状態でスタートしようと、全員の合意がなされた。


 労働能力が劣るお年寄りは勤務時数に対する補助金、生徒は授業時数に応じての奨学金を給付している。



 今のところはみんなが持ち込んだ分によって流通されてるが、使用する通貨は足りないときは、外から取ってきてほしいと滝本さんから頼まれてる。


 近々に拠点内で大阪城銀行が開店するそうで、貯金ができたら現金の使用が限られてるはず。そんなわけで通貨の使用に大きな問題はないだろうと、高橋さんからお墨付きがもらえた。



 俺が収納してある2億円のお金が未だに死蔵してる。滝本さんへみんなと同じように納付しようかと申し出たが、彼から苦笑いで断られた。


「欲しいものは自分で手に入れるヒカルくんがお金を隠し持ったって意味ないでしょう」


 ――まあ、そりゃそうか。


 拠点で販売されている物は俺が収納した物ばかりだし、欲しければ外から取って来ればいい。



「100万は多すぎなんで、少なくしてもいいですよ」


「温子のところで使()()()来ても——」

「勘弁して、滝本さん。

 こっちはグレース一人だけでも()()っすから」


 俺とグレースだけ、は賃金に対する評価基準がわからないということで月給制にしてもらい、一月100万の提案を30万に変えさせてもらった。


 そんなにもらっても使うことと言えば食事するくらいで、嗜好品は自分で調達してるからお金にこまってない。


 たまには通貨を流通させるために、グレースと一緒に拠点で生産された食料品を購入するようにしてる。




「じゃあ、セラちゃん。本日の夕食は炊き込みご飯と焼き魚よ、ついてらっしゃい」


「はい、よろしくお願いします。マイスター良子様」


 足音を立てない歩き方で、静かに良子さんと行動するセラフィ。



 彼女に教養と料理を教える先生役に務めてもらってるのは、拠点一の常識人である良子さんだ。


 川瀬さんの母である益美さんも、おしとやかなセラフィのことを気に入って、郷土料理や裁縫など色々と教え込んでいるみたいだ。



 ――さすがは俺、自分の慧眼っぷりに惚れ惚れしちゃいそうだ。ところでマイスターという言葉を誰が教えたのかな?

 よく知らないけどあれはそういう使い方だったっけ。どうでもいいか。




 セラフィ効果で拠点が活気に満ちていると、滝本さんが嬉しそうに話してくれた。


 彼女がホムンクルスであることをみんなに紹介したときに、少しは拒まれるかなと心配したが、俺とグレースという非常識があるので大丈夫だと、太鼓判を押したのは川瀬さんだった。



 ――だれが非常識じゃだれが、この拠点にいるのは失礼なやつばかりだ。



 あっさりと受け入れられたセラフィは現場の人たちに大人気。


 しかも教えたことを一回で覚えちゃうものだから、みんなが嬉々として色んな技能を教え込んでる。


 大工のおじいさんなんかは、いつも厳しい顔で怒鳴り散らしているなのに、セラフィがいくだけでだらしのない顔で迎え入れてる。そのせいで滝本さんのところには、弟子入りした大工さんたちがセラフィの建築班専属を申し入れてるらしい。



 もっとも、ほかの班からはセラフィ独占禁止コールが出ているので、大工さんたちの夢は果たせそうにない。


 そんなわけで昼間は拠点の各所で仕事をこなし、夜はメイドとしてグレースが遊んでるゲームの相手を務めたりしている。無理して運よくセラフィが起動できてよかった。




「この頃、ゾンビがこっちに来ないんですよ」


「ああ、監視カメラもそう映ってる」


 異変と言えば、ゾンビが拠点から一定の距離を保つようになった。


 今までは早朝になると大阪城の各城門やホールへ突撃してきたが、ある時期から砲台型ミスリルゴーレムが作動する距離の外側でうろつくようになった。


 試しに俺がホールの外へ行くと、ゾンビは攻撃しようと近寄るものの、俺はホール内へ戻れば、ゾンビも俺に合わせるかのように引いて行く。



「学習してると思うから気を抜かないようにな」


「うん。了解です、師匠」


 今のところ、城外の西と南側は手を付ける予定がないので、距離を置いてくれるゾンビの動きはありがたい。


 万能型メイドセラフィに城内の防衛を任せる日が近い。




 住宅の建築と並行して、大阪城にあった櫓の再建工事が進められてる。工事が終わった櫓は監視塔としても機能しているので、外の様子はカメラを通して当番の担当者が目を光らせてる。



 最初にこちらへ向かってる車列を発見したのは、鋼板による外壁強化工事が終わったばかりの乾櫓だった。


 外に取りつけたカメラが交差点を通った車列をとらえ、モニターで異変を察知した総務班観察係の担当が俺へ無線で連絡してきた。


 グレースを連れて急ぎ足で城内の桜門を潜ったとき、外から来た車列が先に大手門の前に到着していた。





 昨日に予告した通り、新キャラのホムンクルスについて説明いたします。


 異世界帰り組三人衆の最後の一人、ホムンクルスのセラフィはここで投入ですが、これ以上は増えないことをここで明言させて頂きます。


 グレースはパートナーとしての役割があるのですが、悪魔ですから性格的に主人公の分身にはなり得ません。作中の社会で時間が経つほど、使えなくなるものが増えていきます。構築中の拠点で信頼できる代役を置き、作中で主人公が動きやすいように、最初から用意されたキャラクターがホムンクルスのセラフィでした。


ブクマとご評価して頂き、とても励みになっております。誠にありがとうございます。

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