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41話 城跡を拠点にするのは大変だ

 ただいま大阪城拠点化改築工事中。


 春の桜と梅林が有名なここだけど、いつかまた観光地になれるようにと思いつつ、城内にある木は拠点用地にするためにとにかく伐り倒した。今は生きていくほうが大事だ。


 水は拠点の生命線、天守閣の隣に大手前配水場があったのでそのまま使わせてもらっている。これでしばらくの間は飲み水と生活用水が困らないはずだ。



「芦田くーん、空堀に降りる階段を作ってくれ」


「ほえ? 中谷さんですか。

 ——いいですけど、ちょっとだけ待ってもらえます? 建築班から釘を頼まれてるんで」


「手が空いた時でいいから頼んだよ」



 市正曲輪と二の丸の北部分、それに三の丸と西の丸が農業の予定地。空堀のほうも利用しないのはもったいないということで、普段は畑として野菜を植えることが決まった。


 土壌改良については各地のホームセンターで取ってきた土壌改良材を、農業班のリーダーである中谷さんに渡して、農業を営んでいた人たちの作業補助にウッドゴーレムを付けた。


 植える植物の種類については彼らにお任せする。田植えでは多量の水を使うので、北側に流れる第二寝屋川からどうやって取水するかは検討していくだそうだ。




「川瀬さん、アイアンゴーレム10体と操作する魔道具を置いていきますね」


「ありがとう。排せつ物を処理する施設を作るのにゴーレムに手伝ってもらえたら助かる」


「飼料は足りてますか」


「ああ。まだいけるから預かってくれ。劣化しない芦田くんの魔法保蔵法は助かる」



 リーダーを務める川瀬さんの畜産班が使う畜舎は、ホールの後ろにある野球場に新築する。


 家畜が出す排せつ物の処理などは建築知識がある人たちが集う建築班と話し合って、なるべく拠点に影響が及ぼさないようにするとのこと。


 今では水も大事な資源、川は近いが処理水を農地で利用する話が決まっているようだ。そうですか、みんな頑張ってくださいとしか言えなかった。


 今のところは少数の牛・豚・鶏・羊を飼育するつもりで、人手や用地が増えれば消費量に応じて拡張させていく計画を立てている。


 牛乳と卵はみんなからの要望が多いため、今のところはコンテナ改造した臨時の飼育施設で飼育してる。


 畜舎が完成してから移すと川瀬さんにお願いされた。毎日、牛乳を分けてもらえるので、快く即答する俺であった。


 それと言わせてもらえるのなら、魔法保蔵法なんてものはない。使ってるのはただの空間魔法だ。




「芦田ぁ! 今度また一緒に漁にいくか」


「ええ、いいですよ。時間が空いたら連絡します」


「おう。獲れたての魚を食わすからな」


「いおっし! 刺身、いただきぃ」



 畜舎予定地の北側にある砲兵工場荷揚げ門があるので、漁業班はその近くに小型の漁船を繋げるように、浄水装置付き桟橋を作った。


 すでに若きリーダー桝原さんの掛け声で、毎朝から漁をするために船団を組んでいる。第二寝屋川から寝屋川と旧淀川を経て、大阪湾の漁場へたどり着くという航路を使ってるそうだ。


 万が一に備えて、各船には魔弾ガン持ちのミスリルゴーレムを同行させてる。


 食卓に魚の料理が上ったことで、みんなから喜びの声が上がってるみたいだ。いずれは沖合漁業ができるようにしたいのが桝原さんたちの夢だそうで、どこか停泊地を見つけたいとのことだ。


 俺としては必要であれば、適切な人工島ならいいじゃないかと考えた。橋さえ落としてしまえば、孤島となるからゾンビに襲われる恐れが無くなる。


 とりあえず急ぎの話ではないから、今は検討するだけの案件だ。




「櫓の外壁はどうする?」


「ああ、それなら俺が鋼板で外壁材を加工しますんで、それを使ってください」


「芦田くんの錬金術は便利だな。本当に助かってるよ」


「そうですね……

 ——浄水装置の設置はどうですか?」


「うん、それは大至急に終わらせた。雨水も浄水すれば使えるから、どうやって貯めようと考えているんだ」


「手伝えることがあったら言ってくださいよ」



 拠点で一番に始めたのが太陽光発電を用いた設備の設置工事だ。既設建物の屋根にはパネルを! というスローガンで工事を進めた。


 それでも供給できる電気が足りないと見込んでるから、拠点における電気使用計画は建築班に所属する専門家が立てている。太陽光発電設備が必要な場合は俺が取ってくるつもりだ。


 大阪城公園にはトイレなどが設置してあるので、既設の汚水管を使用するらしく、拠点内の掘削工事は極力控えたい方針に基づいて、汚水管の場所に合わせて住宅を配置するだそうだ。


 専門分野のことについて聞かされても、俺としては良きに計らえと思うのが精いっぱいだ。


 給水は貯水槽水道方式という方法でやるらしい。なんのこっちゃと思えば、高置水槽という大きなタンクを錬金で作らされた。こちらも汚水管と同じく給水管が散らばらないように住宅が配置される。


 要するに水は大事だということなんでしょうと俺が勝手に結論付けた。


 ガスがないことと電気を節約したいことに悩んでた建築班の人たちを見て、しばらくの間は住宅内が使用するコンロに、魔石を用いる魔道具を提供した。


 石炭や薪の使用を視野に入れて、燃料の選定は今後の課題となる。



 新設する櫓はまずは設計と基礎の工事ということで、建築班の茅野リーダーにウッドゴーレムを預けた。外側に面する部分は攻撃に備えて、厚みのある鋼板を張るつもりだ。


 城門がある場所は多聞櫓を設けて、武装集団から回収した無反動砲や重機関銃が撃てるように、大きめの銃眼を作っておく。



 仮住まいとして利用したのがコンテナ住宅。階段を作れば積み上げるだけで階層を増やせるという優れものだ。開口部は錬金術で開けて、窓や扉は建築班の人たちが取りつけてくれた。家を建てるまでの間はそこで住むことが決議された。


 住まいと共同大浴場は先に建てるべきということで、木造三階建て共同住宅の建築工事が急ピッチで進められた。建築予定地である二の丸の南部分と本丸の一部に家族用の3LDKタイプと独身用のワンルームタイプに分けた。


 手が空いてる高校生やサラリーマンだった人たちが、自ら志願して建築の工事で汗を流してる。



 最初は異世界で設営した経験を活かそうと意気込んだが、全然役に立たないおれがいる。拠点といっても人が住むところだから、主に()()を作ってきた俺じゃわからないことが多すぎる。


 現代社会はすっごく便利だけど、その分、社会基盤そのものが複雑すぎた。



 ゾンビ災害(パンデミック)に遭ったために、運営する貴重な人的資源を失い、修復するのが不可能と思われるほど一気に崩壊してしまった。今さらロウソクで生きるわけにはいかない。


 ちなみに俺は本丸の北にある山里丸を独占させてもらった。建築班の人たちが最初の仕事として、工房兼二階建て豪邸を建ててくれた。




「漬物はいるわね」


「保存が効く干物も作ろうよ」


「それじゃ塩がいるわね。滝本さんに言って芦田さんからわけてもらっちゃおうかな」


「芦田さんは忙しいから、どうにか冷蔵庫でも置いてもらって保存できるようにしてほしいわね」



 本丸に旧軍第4師団司令部庁舎にして元大阪市立博物館の建物があったので、そこを作業場として活用する計画が進められた。


 茅野さんは生鮮食品に従事する主婦を初め、みんなから作業計画について聞き込みを行ってる。


 同じく本丸にある天守閣では、一階と二階に拠点の総務を行うための事務スペースを置いた。最上階に周囲を監視するために、大型望遠鏡や監視カメラなどの関連設備を最初に設置された。


 そのほかの階層に備蓄の非常食や水を搬入して、万が一ゾンビが本丸まで侵入してきたら、天守閣をシェルター代わりに使用するための準備がなされた。


 中にあったすべての文化財や資料は元博物館で厳重に保管するように搬出された。



「お食事は食堂で食べられるのはいいわ。でもね、滝本君。お菓子とか飲み物とかはいるでしょう? 子供が使う文房具もいるわね」


「確かにそうですね、良子さん。生活で使われる日用品と食べ物は色々とありますからね」


「そうなのよ。

 それを芦田くんが取ってこれるからと言って、()()であげてたら、ものなんてすぐに無くなっちゃうわ。

 どうにか考えないとダメなのよね」


「そうですね……わかりました。

 なんかいい方法がないか、考えてみます」



 衣類や各種の日用品について、おれが各地で収集してきたものを供給する計画が立てられた。


 ただし、無料では混乱をきたすと良子さんが懸念してたので、しばらくの間は必要な物品を申請するという制度での提供が、住民の間で決議した。


 良子さんが言いたいことはよくわかる。無制限に無料でものがもらえるなら、俺だって遠慮なんてしない。



 元博物館の一室を売店にする基本設計が茅野さんから提示され、異論無しで設置が決定した。近々建築班が内装工事の着工に取りかかる予定だ。


 労働に対する支払報酬をどのようにするかはまだ決定されていないらしく、滝本さんが言うには、現在の貨幣をそのまま使用する案が有力だそうだ。


 俺としてもできればそっちのほうがいいと思った。


 億単位のお金を収納してるから、現金で限定するなら俺が拠点で一番の大金持ちだ。



 いずれにしても600人を超える住民がここに住むわけだから、俺が当初に考えてたよりも、大変なことになるのは間違いなさそうだ。


 本当に滝本様に川瀬様だと頭が下がる思い、もちろん良子さんにも感謝したい。





中谷(なかたに)泰造(たいぞう)(43):農家。先祖代々から営んできた農業を誇りにしてる。

桝原(ますはら)啓介(けいすけ)(36):親から漁船を押し付けられて漁業を営むようになった。今は気に入ってる。

茅野(かやの)英治(えいじ)(29):工務店三代目の社長。建築が大好きな若手建築士。


 餅は餅屋です。


 作中で色々と描写してみましたが、とりあえず拠点として使える程度で綴らせて頂きました。本格的な拠点化は突き詰めるとそれ相応の土木と建築工事が必要と考えますが、先がまだはっきりしない今、住民が生活を送れること、防衛体制が築けること、その後は状況に応じて発展させていくという想定で描いてみました。


ご感想と誤字報告、ブクマとご評価して頂き、とても励みになっております。誠にありがとうございます。

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