39話 生き延びるには運も必要だ
――アジトにいるヒャッハーどもは全滅だ全滅。
本来なら装備を剥がしてから、ゾンビの群れへ追いやるだけで許すつもりだった。
だけどやつらは俺と敵対しただけではなく、あろうことにアジトにいた女子供や囚われている男たちを俺に対する盾とゾンビ避けの囮に使おうとした。
隠形のローブを着た俺が背後からゴーレムを使って一瞬で制圧してやったので、やつらの企みは未遂で終わった。
「――違うんだ! おれらは悪くねえ、全部アッくんがやれっつったんだ!」
「……さいなら」
これはもうちゃんとお掃除したほうが世の中のためになると考えた俺は、泣き叫ぶあいつらを囚われた人たちの前で爆散の刑に処した。
かなり引かれていたがそこはご愛嬌ということにしてほしい。
――ところであっくんってやつはだれだ? 黒幕がいるのか?
まあ、いい。襲ってきたら返り討ちにするのみだ。
アジトにあった武器弾薬や軍用装甲車、それに多く積まれていた食料品はすべて回収させてもらった。
最初は生き残った人たちに必要な分だけ残そうとしたが、俺について来ると全員が言ったので、助けた手前で断ることはできそうにない。
それにほとんどの人は栄養不足のようにやせ細ってるし、特に女性たちは見るに堪えないくらいひどい状態だった。ここに置いて行っても良くなりそうにないので、とりあえず連れて帰って良子さんたちに投げるつもりだ。
「怨念をたっぷりもらったからそのお礼よ」
グレースがアジトの外で骨や死体を拾っていた。普段にないその行動を訝しむ俺に、彼女は笑いながら大腿骨を振ってみせる。
——ああ、あの大男にヤられた女性たちの遺体か。
グレースのことだから、そのうちに収納した遺体や遺骨のことを忘れてしまうのだろう。
大阪城についたら合同火葬して、どこかお花が咲いている場所に無念だった彼女たちを埋葬してあげるつもりだ。
「みなさん、どうぞこちらへお風呂でも入ってください。お食事はその後で用意してありますから」
良子さんたちがいい仕事をしてくれてる。
アジトにいた人たちの中には、元々はスーパーにいた人がいたみたいだ。再会を涙で喜んだ人たちは良子さんたちに手を引かれて、入浴施設になっているゴーレム車、通称お風呂車へ身を清めに行った。
「――今日は本当にありがとうございました」
スーパーでの戦闘後に話しかけてきた若い女性、四方田美紅ちゃんは精悍そうな表情で頭を下げてくる。
この子は女子高生だというのに、それはもう中々の面構えで、異世界なら即戦士にジョブチェンジできそうだ。
ゾンビ災害が発生したとき、ハキハキした話し方が特徴の彼女は就学していた高校から友達と一緒に隣にあるショッピングモールへ逃げたという。
彼女たちは指定避難所だった高校が乱入する市民で混乱をきたし、そのまま高校に留まれば すぐに全滅するだろうと考えたらしい。
ショッピングモールの建物が大き過ぎて、守るには人と装備が足りないと四方田さんは思ったという。
それにゾンビの襲撃がよりいっそう激しくなったということで、救助にきた自衛隊と警察が陥落寸前のショッピングモールから、程よい大きさとコンクリート造の好条件を持つこのスーパーへ移ってきた。
「最初は食糧や日用品は困らないし、自衛隊の隊員さんと警察の方があたしたちを守ってくれてたんです」
ショッピングモールから保存がきく食料品や衣類などを、自衛隊と警察の合同捜索隊が合間を見つけては収集してきたみたいだ。
そのうちに生き残った人が集まってきたので、太陽光発電パネルを屋上に設置したり、重機を使って廃棄された車両で周囲を取り囲んだり、鉄工所や工事現場から取ってきた鋼板や建材で補強工事したりとここの拠点が強化された。
「あいつら、アッくんというでかい体の男が自衛隊の隊員さんと警察の方を騙したんです」
――へえ、あの大男がアッくんっていうんだ。まあ、文字通り消滅したからどうでもいいか。
大男が率いる集団はボロボロの姿でスーパーへ車できて、近くにある指定避難所の小学校がゾンビに襲われているから子供たちを助けてほしいと、ここにいた自衛隊と警察に救助を求めた。
その際、わざわざ泣き叫ぶ子供まで用意したという手が込んだ策を用いて、戸惑っていた自衛隊と警察が救助隊を編成して、大男たちについて行ったまま二度と戻らなかった。
その後はショッピングモールへ行った物資収集隊を攫ったりして、捕まえられた人を人質に、スーパーに投降を呼びかけてきたみたいだ。
騙されたことを知った残りの自衛隊と警察が、大男が率いる集団の攻撃をその度に撃退したが、一度だけ侵入を許してしまったことがあるという。
その際に多くの女が連れ去られ、武器弾薬もたくさん奪取されたと美紅ちゃんは涙ながら当時を振り返った。
やっとの思いで集団は撃退されたが、その後は強奪した装輪装甲車で定期的に襲撃をかけてくるようになったらしい。
美紅ちゃんたち生き残った人は自衛隊と警察に頼み込み、自分の身を護るために、戦う技術を彼らから教えてもらった。
武装集団がどこかで手に入れた重機関銃を使った激しい攻撃が数度か続き、次第に自衛隊と警察の人員が減らされていく。
前回の襲撃で、まずは連れ去った女性たちを先に仕向けてきたらしく、怪我して動けない女性が駐車場に捨て置かれて、彼女たちを助けようとスーパーの外へ出た自衛隊が狙撃された。
しかもわざと足だけ打ち抜いたみたいで、駐車場で唸る隊員を助けようとした警察が出たところ、そこへまた狙い撃ちされた。
「……放っておけなかったんです」
泣きっぱなしの美紅ちゃんは横にいるおばさんに抱かれて、悔しそうに泣き声をあげている。よく使われる手だけど、有効であるから多用される。
――ただの民間人にしてはなかなかやるなと大男の知恵を評価してしまいそうだ。
まあ、消滅したけどね。
「あいつら、店に突入してきたから撃ち返してやったんです。
でも、自衛隊の隊員さんと警察の方がうちらを守ろうと……うう……」
「そうか」
――なるほど、自衛隊と警察は前回の襲撃で全員が死んだんだ。
「次はもう無理かなって覚悟したんですよ。せめて抵抗くらいはって思って……
助けてくれて本当にありがとうございました」
「いいえ。ついで――って言い方は悪いかな?
あんなヒャッハーどもくらい、返り討ちしてやるのが俺の流儀だから気にしないでくれ」
スーパーにいた人たち全員がお礼に頭を下げてくる。
俺が決めつけるのもなんだがあなたたちは運がいい。このご時世は運があることはとても大事だ。
そこでだ、あなたたちは俺とグレースの決まりで、助かる運があるやつは手を貸すという条件は満たした。
「ところで今後はどうする気だ?
ここは砲撃されて使えそうにないから、なにか手伝ってほしいのなら手は貸すよ」
「川瀬さんから芦田さんは大阪城にこもるとお話は伺いました。ぜひご一緒させてください!
お願いします!」
「了解です。一緒に頑張りましょう」
真っ直ぐにひたむきな目で見つめてくる武闘派女子高生の美紅ちゃん。
――わかった。俺からのお誘いじゃなくて自発的に求めてきたんだな?
ゾンビがいる世界は生き延びるに運が必要だ。
ここにいた人たち全員はその条件に満たしているので、ぜひともこちらから拠点作りのお供をお願いしたい。
新メンバーの加入で、旅の終点である大阪城はもう目の前です。
四方田美紅(16):武闘派女子高生。格闘技を好み、スーパーで籠城中に自衛官と警官からも手ほどきを受けた。
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