36話 自分たちだけが強いと思わないことだ
『やれ!』
大男の短い指令で周囲から一斉にスーパーと俺たちの車列を狙った射撃が始まった。
辺りがけたたましい音で包まれ、こっちのゴーレム車はバリアのおかげで銃弾が落ちていくが、スーパーの壁面はコンクリートが破片を飛び散らかせている。
トランシーバーはオフにしていないので、各車からの悲鳴が耳に飛び込んできた。
絶叫する女や怒声をあげる男、とぎれとぎれに聞こえる各車のリーダーが宥めようとする声。だが滝本さんたちが努力しても、混乱を鎮めることはできない。
銃を使った制圧射撃は初めて見た。
おもにゴーレム車の上部やスーパーの壁が撃たれているところを見ると、大男たちヒャッハーさんも射殺を狙ったものじゃないと理解できる。こいつらはこういういたぶるような戦闘に慣れてる。
射撃が続いていくうちに貫通するどころか、凹みすらないゴーレム車に苛立つ大男が片手をあげた。それに合わせて激しい銃撃が中断し、辺りを見回すと十数体のウッドゴーレムが破壊されてしまった。
『10秒だ! 最後にもう一度だけ機会をくれてやっから投降するなら今しかねえぜ。
10、9――』
片手で軽機関銃を持つ大男はルーフの上で宣言してから、カウントを数え始めた。
「数えても無駄だ。前に連れ去られた人が殺されたのは知ってる!」
『ッチ』
大男の声を遮るように、スーパーにいる女性は拒否する意思をはっきり示した。それを聞いた大男の舌打ちがメガホンから漏れて、すぐさま大男は軽機関銃を上に向ける仕草をみせた。
——あいつはなにがしたいのだろうか。
――スーパーの上で爆発が起きた!
辺りを見回すと、後ろにあるマンションの上層階に筒みたいなものを担いだ人が目に映った。スーパーの屋上が立て続けて砲撃に晒され、中から人の悲鳴が聞こえてくる。
——なるほど、こいつらは準備万端だったというわけだ。
『ハハハハ――
無駄な抵抗すっからこういうことになるんだよ。優しくしてやりゃ付け上がりやがって』
マンションから重機関銃による掃射がスーパーの屋上駐車場に着弾し、壊されていくスーパーの二階部分から粉塵が舞いあがった。遮音していないゴーレム車の中で、耳鳴りがするくらい爆発の音が響いてくる。
これはもうただの戦争にしか見えない。
こういう容赦のない輩に捕まったら、生き続けられる将来が予想できそうにない。
大男が軽機関銃を下げると激しかった攻撃が止み、屋上駐車場へ上る車道に築かれてたバリケードが破壊されてしまってる。
装甲自動車から次々と小銃を持った男が下車し、彼らは小銃を構えたまま、スーパーへ近付いてきた。
視線をスーパーのほうへ向けると銃による反撃はなく、先ほどの砲撃で中にいる人たちが混乱に陥ったかもしれない。
『車の中にいる人、お前らは後回しだから大人しくしてろ。
――てめえら、突撃だ!』
これからスーパーの中で働く暴行を想像してか、走り出した男たちの表情は、やけに卑しさが強調されてるように感じ取れた。
専用の高出力型魔弾ガンにソフトボール大の魔石を装着させる。ヒャッハーさんを相手のヒャッハー行為なら、心が痛まないから俺も大好きだ。
「ねえ、やっちゃっていい?」
「ああ。後ろにあるマンションは任す。
上位魔法は無しだからな」
「やったね」
とても嬉しいそうなグレースは一瞬で戦闘服である黒いローブを身にまとう。
グレースに細かい指示はいらない。目標さえ与えたら勝手に殲滅してくれる。
「汝らに命ず。敵の攻撃に反撃しろ」
無線機を通して開戦の命令をゴーレムに下して、俺とグレースは小型ゴーレム車から飛び出す。
純然たる暴力。
――さて、あんたらのルールで殺し合いを始めましょうか。
人型ミスリルゴーレムや砲台型ミスリルゴーレムからの射撃に驚いてしまい、足を止めてしまった男へマテリアルライフル並みの大型魔弾ガン向ける。
「バン」
魔弾ガンは射撃するときに音を立てないから、気分的に自分で叫んでみた。撃たれた男の上半身が爆散して、遺された下半身が地べたに倒れた。
崩れたスーパーの屋上に飛び乗ったグレースは火炎魔法の炎の槍で、マンションで重機関銃や火砲を構えるやつらへ向かって投げつける。魔法の爆炎でマンションから男たちの悲鳴がここまで聞こえてきた。
「——な、なんだこいつら」
「やべえよ、やべえよ」
「撃て撃て! 撃ち殺せ!」
次々と着弾してくるけどバリアのおかげでパラパラと身体から落ちていく銃弾を無視する。俺はひたすら照星に入る標的を爆ぜさせるだけの作業に集中する。
装甲自動車からも小銃や拳銃で乱射してくるので、うっとおしく思った俺は一撃で装甲自動車を撃破してみせた。
「——無反動砲でやれ!」
大男はメガホンを使うことなく、大声で男たちに指令を出した。周りへ目を配ると、肩に筒を抱えた男が俺へ向けてくるのが確認できた。
発射された砲弾が真っ直ぐに俺を目がけて飛翔中のため、すかさず大型魔弾ガンで砲弾を撃破するために引き金を絞る。
空中で迎撃されて砲弾が轟音とともに爆発を起こす。
――異世界で強化された動体視力と身体能力をナメんなよ。まあ、さすがに急激すぎる運動は体に多大な負担がかかるから、多用することはできないけどな。
「車を出せ!」
煙の中から現れる俺を開いた目で見てから大男は無線機で次の指示を出した。あれとはなにを指してのことは知らないが、撃ってくる銃弾がウザいので、大声で叫ぶ野郎どもを撃ち殺していく。
気が付くと府道のほうから、男たち以外にぞろぞろと人の影が現れる。こっちへやってきたのはゾンビだ。
「ア゛ーア゛ー」
「う、うわああ! ゾンビがああ」
「ヴーく゛ーわ゛ア゛ー」
「クソがあ! あいつのせいでゾンビを倒すはずの車にいるやつらが殺された」
これだけバンバンと撃ちまくってたらゾンビが音に引き寄せられるというものだ。
ちゃんとゾンビ対策を練ってきたことは、ヒャッハーさんにしては大したものだと褒めてあげたい。
だけど相手を見誤ったところが減点だ。
ヒャッハーさんたち、俺とグレース、それにゾンビを交えての大混戦となって、カオスな絵図がここで出来上がったというところか。
――って、待て。今、ゾンビがア゛ーヴー以外になにかしゃべらなかったか?
「――もう、しつこいわね!」
ゾンビの異変に驚愕した俺がそのゾンビを探そうとしたときには、すでに機嫌を悪くしたグレースの怒りに満ちた声が聞こえてきた。
「お、おい――」
スーパーの屋上を見上げると、大きな火球を頭上に浮かばせたグレースの姿が目に映る。
絶え間なく撃ち込まれる重機関銃の銃弾と火砲の砲弾でキレたグレースが、中位火炎魔法の中で高威力を誇る燃焼魔法を起動させた。
あいつは攻撃し続けるヒャッハーさんたちを、マンションごとまとめて焼き払う気だ。
ヒャッハーさん相手に無双開始、ゾンビの世界で暴力には暴力を! というテンプレですね。
高出力型魔弾ガンはバズーカをイメージとした爆破する魔弾ガンです。魔法に比べたら威力は劣るものの、攻撃魔法が使えない主人公が異世界で愛用する武器の一つです。ただ魔石をエネルギー源とするので、帰還してからはあまり使わなくなりました。
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