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24話 思いが異なるのは仕方のないことだ

 次から次へと出現するゾンビから逃げ切った俺は一目散にみんなが待つ野営地へ急いだ。


 スマホのオフラインマップで新たな進行ルートを検索して、以前は商業施設から物資が回収できないために使わなかった自動車道を使用することに決めた。


 夜中にたたき起こされた人たちは眠たそうな目をこすって、俺の偵察結果を聞いてた。



 今後のことを考慮して、反対意見も出るだろうと想定し、包み隠さずに自分が見てきたことをみんなに伝えた。


 案の定、逃走するつもりの俺と異なる意見が出された。



「――捕まえられた人たちを()()()()()だ」

()()()()()です?」


 反問した俺を驚いた目で見てくる中年の男性、彼はとある町で生存者たちをまとめていた人物だ。


「もしかして、俺の力で助けろと?」


「……」


 中年の男性は言葉にこそしなかったものの、さもそれが当たり前かのように視線を向けてくる。



「こちらの正体を確認もしないでいきなり銃を撃った連中ですよ? とてもじゃないがまともに対話はできないと思いますね」


「今でもそんな連中に苦しめられてる人がいるんだ。助けてあげるのが人の情けではないかね?」


「だれが()()()()()()んですか? もしかして、それは俺ってことですか?」


 あなたたちと口にしなかったのは俺の優しさと思えよ。



「……力がある人がそれをやるべきじゃないでしょうか」


()()()()()、ねえ……」


 黙るおっさんの横に座っている青年が、おずおずと小さな声でおっさんの代わりに意見を出してきた。



 たぶんだけど、一部の人たちは俺のことを()()()で苦境にある人々を救うべきの救世主と思っているかもしれない。


 この時を待っていた


 これから先は長い道のり、(たが)っていた双方の思惑を収束させるにはちょうどいい機会だ。



 ――それはそうとグレースさんや、興味なさそうにキョロキョロするなや。こっちまで緊張感がなくなるわ。



「たとえば、その意見を受け入れるとして、今から解放作戦を開始させるとしましょう。

 戦闘の中で敵も捕らわれている人たちも殺してしまう可能性があります。人が殺されることに賛成してくれるってことなんですよね?」


「君なら誰一人殺さずになんらかの方法で無力化ができるじゃないかね」


 異世界で散々と聞いてきたことがここでも聞かされるとは、腹を抱えて爆笑しそうになった。


 ――こいつはとんだお笑いだな。おっさんが憮然としてさも当然がごとく、責任を丸投げしてきやがった。


 

()が立て籠もる場所へ()()で突っ込んで、一人も殺さずにすべての人を助けろって?

 あんた、人様を頼りに随分とご都合主義のことを言うんだな。自分でそれをやってみるって思わないのか?」


 こういう輩らに払う敬意は持ち合わせていない。


 年齢や人生の経歴がどうあろうと、尊敬されるってのはそれなりの思想と言動を示してくれないと駄目だと俺は思う。



「そこにいる()と人形がいるじゃないか! それならなんとかやれるだろうが!」


「……プッ――アハハハハ! ――いやあ、笑わせてくれてありがとうな」


「なにを――」

「よう、グレース。このおっさんが人助けしろってさ、どうする?」


 赤ら顔で怒声をあげるおっさんを無視して、ゲームを楽しんでいるグレースに俺は笑顔で聞いてみた。


 ――悪魔に()()()()で人助けだって? 帰還してから一番笑える話を聞かせてもらえたぜ。



「ええ、今からでも行きましょうか?」


「おお、行ってくれるのか? そらみろ、あんたみたいな気味の悪い人を頼らずともちゃんとわかってくれる人はいるんだ。

 ——グレースさん、あんたの吉報をここでお待ちしてますから、すぐに行ってもらえますか?」


 グレースの返事に気を良くしたおっさんがにやけた顔で俺にドヤ顔を見せつける。



 ――まあ、待てっておっさん。グレースは()()条件を言い終えてないよ? 最後まで聞いてやりなって。

 それといいことを聞いちゃったね。俺のことを気味の悪い人と思ってたか? うんうん。異世界でも不気味と思われてた俺がここに再臨ってな。



 理解してくれようとしない人とは一緒にやっていく気なんかない。ここで放り出すのは無責任なので、どこかでこいつと同じ思想を持つ輩らを降ろさないといけない。



 ――それじゃグレースさんや、条件の提示をどうぞ!



「わかりました。生きている人をすべて殲滅してきたらいいんですね? ちゃっちゃと()っちゃいますよ」


「あ、いや、殺さない方向でお願いしま――」

「報酬は5人で済ませてあげますわ。帰ってきたらキッチリと殺させてもらうから、あなたの仲間から死んでもいい5人を選んでちょうだいよ」


「はあ?」


 奇声をあげて固まったおっさんとその周りにいる人たち。



 ――バカめ、悪魔にお願いするのに報酬を支払うのは当然だろうが。5人で済まされるのは俺を慮ってのことだ。

 よかったな、出血大々サービスで引き受けてくれるんだ。俺の奴隷じゃなかったら殺したい人数だけの生贄を用意しなくちゃいけないんだから。



「あなた、まさか悪魔にお願いしておいて、相応の報酬を出さないつもりじゃないでしょうね」

「――」


 魂が震えるほどの殺気を飛ばすグレースに、おっさんたちが青白い顔で立ちつくしてしまってる。アンモニア臭が立ちこもる中、失禁したやつらの名誉のためにここは無視してあげたほうがいいのだろう。



()()()寸劇が見れたところでお話の続きといきましょうか

 ――皆様は勘違いされてるかもしれないから今一度言いますね。

 俺は今後の方針を()()()()()だけであって()()()()()()()というわけじゃないんです」


「……」


「確かに囚われた人たちのことは可哀そうと思いますが、彼らは今のところ、弄ばれて命が脅かされている状況にいるだけで、殺されたわけではありません」


「……」


 みんなが無言で見つめてくる。ここは淡々とお話を続けるとしよう。



「彼らを助けるために多くの犠牲を強いるのは俺が望むことではないんで、市役所の近くを避けては通れない国道のルートから自動車道を使って北上するルートに変更します」


「……やはり()()()()にするしかないのか」


 川瀬さんからの意見は無視できない。


 彼と彼の家族はこのメンバーの中で一番長く行動を共にしてきたし、なんだかんだで川瀬さんたちは俺のことを助けてくれようと同行者たちのまとめ役になってくれてる。



「置き去りという言い方は語弊があると思いますね。

 俺はただの民間人で、皆様にお願いしてたのは大阪城で生きれる環境を一緒に作りませんか? ってことですよ」


「……そうだったな」


「今後もどこかの街で困ってる人たちとは出会うかもしれません。ゾンビが相手なら俺はできることをしておきたいと思うし、同行してくれるなら可能な限りの手助けがしたいと思います」


「そうか」


 川瀬さんの低めな声に導かれて、全員が俺の話に耳を傾けてくれてる。ありがたいことだから、この機会を逃さずに自分が考えていたことを伝えておく。



「人が作っているコミュニティによほどのことがない限り、今までのように支援と同行のお願い以外は()()()()つもりはありません。

 これは皆様にもご理解を求めたいなあと思ってます」


「理由を聞かせてくれないか」


「ええ。善良だった人たちがなぜああいう暴行に出たのは俺にはその経緯がわかりません。ただ()()()()()()を根拠に、こちらが暴力を働かせるのはどうも違う気がします」


「正義感、かぁ……」


 その言葉に一部の人を除いて、みんながなにか考えているようだ。



「今までゾンビから襲われたように、明らかに暴力でこちらの生命が脅かされたら即断で反撃に移ります。過剰かもしれないが、それこそ敵の命を絶ってでも正当防衛させてもらいます」


「……」


「ただ今回の場合は偵察してた俺が()()を受けました。彼らの行動は倫理や法律に反するとは思いますけど、彼らをその場で断罪することは俺にはできませんでした」


 ――まあ、やら(うた)れた分、いつかはきっちりと落とし前をつけさせてもらうけど。



「それはなぜだ」


「こんな世の中ですので、法律がどうこうと言うのは町で物を盗んでた俺が滑稽なやつに見えるでしょう。

 それでも()()()()生きていきたいんで、こちらの生きる権利が脅かされない限り、俺自身から殺める行為を働くのは控えたいと思ってます」


「……それが芦田くんの考えなんだな」


 子供たちが眠っているゴーレム車に囲まれて、話し合いを続けている大人たち。ゴーレム車の外側で警備員のウッドゴーレムが時折り襲ってくるゾンビを始末していた。



 携帯LED照明で照らされていたこの場所に夜明けが訪れる。朝になると市役所にいるやつらが捜索にここへくる可能性があるので、俺としては今すぐにでも出発したい。


 ただ最後に伝えておかねばならないことがある。



「俺が持っているように、皆様にもご自分の考えと信念があるのでしょう。

 そこでですね、どこか落ち着ける場所があったら、今後も俺と同行するかどうか、ちゃんと自分で考えてください」


「……」


「これまでと同じように、こちらの許容範囲なら支援はさせてもらいますので、そこは心配しないでください。誘い出しておいて、放り出すようなことはしないと約束します」


「わかった……ありがとう、芦田くん」


 やはり川瀬さん以外からの声は聞こえてこない、でも却ってそれが俺には都合がよかった。



 目の前にいる人たちは立て籠もった場所で、いつゾンビに襲われる危機感と食べ物が無くなっていく焦燥感に思考が乱され、苦しんでいたと思う。



 だから俺は彼らを強制するつもりがなかった。


 ただ十分に配給される食糧と守られてる安心感がある今、(おれ)を頼りに生きていくのではなく、自分たちで選びたい未来図へ思いを馳せてほしい。





 衣食住足りてなんちゃらということで話を進めました。いくら最悪な環境に居ても人はなにかしら考える生き物だと思います。無条件に誰かを従うことがないでしょうし、自分の視点で物事を動かそうとするのはじゃないかなと。

 なにかを進めようとしたらそれなりの苦難が発生するかと思い、人が増えれば声も増えるということでこのくだりを綴ってみました。

 ヒャッハーさんたちのことを主人公は思想が異なる同行者たちとの決別に利用しようと考えました。自分から言い出すより、相手に言わせることを主人公は狙ってたと想定しました。


ヒャッハーさんの説明:

 主人公視点で話を進めているがため、市役所をアジトとする狡猾なヒャッハーさんたちはしばらく出て来ません。主人公はやり返すと決めてますから、決着はきっちりとつけさせて頂きます。ただ話の流れでまだ先となりますので、お待ちになってくだされば幸いです。


ご感想と誤字報告、ブクマとご評価して頂き、とても励みになっております。誠にありがとうございます。

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