18話 ゾンビ犬にはゴーレム犬をぶつけた
「んじゃあ、行きますよお」
晴れやかな早朝に鳥のさえずりが離別の唄を奏でてくれてる。気持ちのいいそよ風に誘われて、10トン車以上の屋根と砲台付きゴーレム車が海沿いにある道路へ向かって出発した。
車列の最前方は俺とグレースが乗っている小型の自走ゴーレム車、異世界でも愛用していたこいつはもちろん初めから砲台付きだ。
川瀬さん夫婦と従業員たちは乳用牛9頭に売る予定だったオス2頭と一緒にゴーレム車へ乗り込んでいる。一番後ろのゴーレム車には柚月さんたちが子牛10頭の世話しながら、道中で食べる料理を担当してくれてる。
周囲を警備する20体のアイアンゴーレムには魔弾ガンを装備させているので、ゾンビはもちろんのこと、軍隊以外の人間なら襲われても車列が乱れることはない。
独りだったときは山中を抜けていく計画だった。しかし川瀬さんたちが同行する今、遠回りになる海岸線のルートを選択した。
片方が海なので警戒するのは山のほうで済むし、海沿いなら町が多い上に港で漁船など漁業に必要な設備を回収したい。もし漁師さんが生き残ってたら勧誘するつもりだ。
「それじゃ、偵察に行ってきます。戻ってこなかったら昼食は待たなくてもいいですし、残さなくてもいいですよ」
「……気を付けてな。ちゃんと帰って来るんだぞ」
緊張した面持ちで川瀬さんが見送ってくれた。
ゴーレム車が停止する間は連結させているため、車から降りなくても行き来はできる。
元々は長距離の移動や魔王軍の拠点を強襲するために作ったミスリル製のゴーレム車だから、たとえ砲撃を受けても揺れるかもしれないが破壊されないくらいの強度は持っている。
港町はとても静かで心地いい海風が吹いてくる。
川瀬さんたちと話してから俺も戦術を変えることにした。
山で大量の木を切った俺は人海戦術で押し通す! 空間魔法で収納した300体の人型ウッドゴーレムに棍棒を持たせて、戦う場面になったら一気に呼び出す。ゾンビは殺して人間なら叩きのめして武装解除させる、これなら川瀬さんたちも文句はいうまい。
「行ってくるね」
「おう」
グレースは町の中で宝探し。
店の人がいないのなら持ってきていいよと言い聞かせてあるので、略奪にはならないでしょう。安全が確保できたら川瀬さんたちも町で日用品を探したいとお願いされたから俺はゾンビ退治に出かける。
物理バリアの魔道具は起動させてあるし、グリフォンレザーアーマーで軽装した俺はテクテクと町を歩く。
プレートアーマーは抜群の防御力を誇り、安全面では十分すぎる装備だと言える。だがしかし、通気性がないために暑いのが欠点で、金属製のアーマーはこの世界で目立つことこの上なし。柚月さんがすっごく変な目で見てきたので、黙ってレザーアーマーに着替えた。
なるほど、見た目も大事だということを学んだ。うかつだった自分がちょっと恥ずかしいかと思った。
魔弾ガンを撃つと脳漿とか血液とかが飛び散るし、人の頭が爆散するのは気持ち悪い。そんなわけで魔王軍の幹部たちとはまともに渡り合えなかったハルバードでゾンビの頭を刈り取る。
「ア゛ーヴ――」
「あらよっと」
「ヴーア゛――」
「ソイヤっ!」
ハルバードの扱いは副騎士団長から手ほどきを受けた。あいつがくり出すような途切れない連続技はできないけど、ゾンビの単調な攻撃なら横から振り払うだけで頭が次々と落とされていく。
足元に集まってくるゾンビ犬の集団は蹴りだけで倒せる。それでもゾンビの体液がグリフォンの皮で作ったブーツに付着するので、衛生面と感染性を熟考した末、新たな攻撃方法を用意した。
「汝らに命ず。ゾンビ犬を殺せ」
「グルル――キャンキャンッ」
20体の犬型ウッドゴーレムを作製したのだ。
ドーベルマンを模ったウッドゴーレムがチワワのゾンビ犬を前足で押さえてから鋭い牙で頭を砕いた。木製だから後で魔石を回収して本体は廃棄する。それならいくらでも替えが利くのでとても便利だ。
グリフォンレザーアーマーは魔法攻撃を防げたので異世界ではそれを愛用してた。
でもよく考えたらこの世界なら物理攻撃の耐性が高いオーガレザーアーマーで十分だし、収納してあるオーガの皮ならそれこそ捨てても惜しくないほど貯め込んでる。今後は使い捨てできるそっちを着用するつもりだ。
「ウォンウォンウォン!」
「うーん、ゾンビ犬が多いな」
ふ頭に近付くほどゾンビ犬の襲撃が多くなり、その咆え声に合わせて倉庫や事務所からゾンビが飛び出してきた。二十数体のゾンビと十数体のゾンビ犬がこっちへ走ってくるので、ハルバートを構えた。
「キャンッ」
「ウーウー――」
「ア゛ー――」
ゾンビ犬はあっという間に犬型ウッドゴーレムが殲滅した。ゾンビのほうはハルバートを振るう俺が斬首刑に処する。死体は一箇所にアイアンゴーレムに集めさせて、ガソリンを撒いてから火葬だ。
岸壁にいくと1体のゾンビ犬が海のほうへ注意を払っているようで動く様子は見られない。その視線先をたどると海の上で漂う船が見えた。
じっと目を凝らすと船の上で動いている物体が目に飛び込んできて、あれは生きている人間だ。
「汝らに命ず。ゾンビ犬を殺せ」
「キャン――」
川瀬さんたちに次いで、船にいる生存者を発見した俺は、船の監視で岸辺にいるゾンビ犬を始末させた。
漁船のほうへ向かって両手を大きく振ってみせた。これで船の上にいる人たちが気付いてくれたら嬉しい。
同行者を連れて旅立ちました。最初に加わったのは畜産スキル持ちの村人です。これでアイテム:牛乳ゲットしました。
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