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第2部外伝その三 ヒャッハーさんたちの願いを叶いましょう

 監禁されてた隊長さんは意識を失ったまま、自衛官たちによって運び出された。多くの民間人も自衛官の肩を借りて、宮内庁の前に集まってきた。


 その間に俺は自衛官にゴーレム車の魔道具を渡して、運転する方法を伝えたり、各車へすぐに食べる分の非常食と水を積ませたり、議員とその取り巻きの一同を縄で縛ったりと大忙しだ。



「あれは……なんですか?」


 妊婦さんと赤ちゃんを連れた女性たちが通り過ぎたので、思わず安井副隊長に尋ねてみた。


「その……

 議員がお国のためと言って、その……女性たちに――」

「わかりました、もういいです。彼女たちをゴーレム車に乗せてください」


 権力によるクソッたれなヒャッハーさんというわけだ。議員と一党の始末はこれで決定された。



「じゃあ、俺は後始末していきますので、先にグレースと出発してください」


「芦田くんは()()()()つもりですか?」


 ウッドゴーレムに囲まれて、縄に縛られて喚く議員とおっさんたちへ一瞥してから、安井副隊長は俺に質問してきた。



「いやだな、安井副隊長。

 皇居をお守りしたい議員ですから、彼の()()を叶えてあげたいじゃないですか」


「希望、ですか……

 わかった、それでは本官たちは先に出発します」


 背筋を伸ばした安井副隊長は俺へ敬礼した後にゴーレム車に乗り込んだ。


 ゴーレム船に乗船するために彼らはセラフィが待つふ頭へ向かう。一番前のゴーレム車にグレースが構えているので、途中にゾンビが現れても車列が止まることはないのだろう。



「き、君ぃ。私たちも連れて行きなさい」


「そ、そうだぞ。こんなとこに置いといたら承知しないぞ」

「訴えてやるからな!」


「汝らに命ず。ゴーレム車へ放り込め」


 ここにあった食糧や物資はほとんど収納した。


 手と足が縛られて動けない議員たちに目をやり、控えているウッドゴーレムへ指令を下す。ゴーレム車へ乗り込めることを聞いた議員たちが、安堵したかのように大きく息を吐いた。



 ゴーレム車の行き先は武道館だった。


 中にいたゾンビたちはメイス持ちアイアンゴーレムと一緒に大掃除してあげた。飛び散った体液で床は汚れてしまったが、そこまでサービスするつもりはない。


 汚れてしまった床は自分たちで掃除してくれたらいい。



 俺としてはこんなヒャッハーなやつらを皇居に置くつもりがまったくない。こいつらは江戸城跡にある武道館で、今まで通りに皇居を守ってもらう。


 ここにいるのは議員さんを含めて37人だ。


 皇居内に残されてた食糧や水をうまく食いつなげば、半年くらいは持つだろう。災害用浄水装置と太陽光発電システム一式くらいはお情けで渡してやってもいい。ただし、機材の設置は自分たちですることだ。



「きみきみ……ま、まさかこんなところに私を置いていくわけじゃないよな?

 こ、国会議員だぞ私は。国の重任を担う衆議院議員だぞ」


「……」


 震えながら聞いてくる議員の姿に、俺は笑いをかみ殺すのが大変だ。


 俺の周りで魔弾ガンを構えるミスリルゴーレムへおっさんたちは恐れてるような視線を向けてる。



「……さて、皇居をお守りくださる勇敢なお方たち。

 あなたたちには俺から気持ちを込めて、ふさわしい武器を贈呈しましょう。

 今後はこれで皇居を()()()くださいよ」

「――」


 収納から取り出したのはどこかで集めてきた日本刀や鉄パイプ。


 それらを無造作に床へ放り出した。どう考えたって、おっさんにはこれほど似つかわしい武器がほかに思い当たらない。



「ここから立ち去る前に、一つだけみなさんにお伝えしたいことがあります」


「な、なにかね君ぃ」


 プルプル震えが止まらない議員、初対面したときの雄姿がどこへ行ったのやら。


「政府は四国のほうへ移りました、()()の間は東京に戻って来れないのでしょう」


「はあ?」


「議員さんたっての願いで、皇居をお守りすることが雑賀防衛大臣によって認められました。誠におめでとうございます。今後のご活躍を心よりお祈りしてます。

 それではごきげんよう、さようならだ」


「ま、待ってくれい! 連れて行きなさいいいっ!

 私は議員だぞお――国会議員だぞおお!」


 沈黙するおっさんたちが床から武器を拾い上がる。


 これから上演する劇に、脇役の俺とアイアンゴーレムはここで退場すべきだ。



 憎らしげに議員を睨むおっさんたちによって、ここでどんな劇が演じられるかは知らない。


 寄生虫のようにさんざん甘い汁を吸ってきたのに、議員だけを恨むのはどうだろう。


 だけど救いようのないおっさんたちがなにをしようと、俺にはどうでもいいことだ。



 半年以上も食っていける食糧は残してやったから、人数が減れば減るほど、長く生きられるはず。


 議員さんとおっさんたちが仲良く生きていくのか、それとも憎しみで潰し合っていくのか、それは扉を閉めようとする俺が関知すべきことではない。



 もれてくる悲鳴を聞きながら、俺は別のことを考えてた。


 どこかの島でみんなを上陸させたほうがいい。


 熱いご飯を食べさせたり、お風呂に入れたりと東京を出たらみんなにゆっくりしてもらうつもりだ。


 東京にはお宝となれる多くの資源が埋もれているようで、それらはまたいつの日か取りに来ればいい。





 ヒャッハーさんは暴力だけじゃないと考えられます。権力を違う方向に使うのもまたヒャッハーさんではないでしょうか。



 裏の主人公は不死者(アジル)で、作中でたまに出演したのが傍観者(たにぐち)でした。


 中途半端なチート野郎(あした)が本作で主人公を務め、快楽主義者で気ままな悪魔(グレース)、忠実なメイドの人造生命体(セラフィ)が主人公のサポート役でした。


 明日が最終話です。お読みになっていただき、本当にありがとうございます。

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