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76話 午前中の攻城戦は防戦一方だった

 決戦の朝は晴れやかな空が広がっている。


 最後まで城内の監視室で待機してくれた熊谷さんからの通知で、野川の北にいたゾンビの軍勢が川を越えたとの知らせが深夜に入ってきた。



「あいつら、なにを考えてるんだ?」

「どしたの?」


「いや。眉山公園の展望台で本陣を構えてるのはいいけど、のぼり旗まで立てているよ」


「んー……ゲームって言ったからそのつもりなんじゃない?」


 ふざけたマネをするやつらに一泡を吹かせてやりたい。



「武装したゾンビと言っても、俺たちのアダマンタイト製の武器ならスチール製の防具じゃ紙装甲でしかない。

 とにかくアリのように押し寄せるゾンビ兵をさばきつつ、()()()()()()()までうまくあしらえ」


「ふーん……ねえ、こっちから打って出ないの?」


「それも考えたけど、地の利ならここだ。

 戦いは数だよ、姉貴。伏兵でもされたら困る。

 手は考えてあるから任せろよ」


「わかったわ。マスターがそういうなら従ってあげる」


 興味なさそうに城下でひしめく武者ゾンビへ目をやるグレース、ここで彼女とセラフィに大事なことを言わねばならない。



「グレース、セラフィ。避難所の方向でないのなら、危なくなったら上位魔法を使ってもいい。

 賀島市長から許可はもらってる」


「え? ぶっ放していいの? やたー!」

「わかりました、ひかる様」


「絶対に避難所に向けるなよ」


 くるんくるんとトレイを回すセラフィは嬉しそうだ。グレースと違って、こっちの世界で起動した彼女はまだ上位魔法を撃ったことがない。



「それと撃つのはいいけど、午後のこともあるから魔力の残量を考えろよ」


「わかったわ」

「……」


 先からトレイの回転が止まらない。


 上位魔法は威力が高い分、消費する魔力は半端でなく、元魔王軍の幹部にして血染めの凶魔と恐れられたグレースであっても、十数発がせいぜいだと彼女自身が打ち明けてくれた。


 あのクソッたれな賢者が魔王軍に警戒されてたのも、やつが数十発の上位魔法を撃ってたからだ。



「朝のうちはドラウグルをじらすために、できるだけ接近戦に集中しろ。

 俺は大手門でゴーレムと迎撃に当たるから、グレースは本丸で東から登ってくるゾンビを落としてくれ」


「任せてよ」


「麓にある小学校は捨てるから、セラフィは西三の丸を守ってくれ。

 守り切れないと思ったら西二の丸に引いてもいい」


「わかりました、ひかる様」


 金属のゴーレムは扱える数が少ないので、ドラウグルたちに捕獲されてしまった50体のアイアンゴーレムは正直にきつい。ストーンゴーレムに至っては183体が戻らないままだ。


 ウッドゴーレムをちゃんと回収したセラフィはえら過ぎる。魔石が切れたときにゴーレムの指揮権が戻り、そのときに新しいゴーレムが作れる。そのために今日は欠員を出したままで戦わないといけない。



「あなたと砦を守るのは久しぶりね、ワクワクしちゃうわ」


「ご期待は背きませんのでお任せください、ひかる様」


「異世界帰りの俺たちは最強だ! ゾンビどもに目にもの見せてやるぞ!」


 厳密に言うと異世界()()は俺のみ。


 師匠が作ってくれたホムンクルスであるセラフィはこっちの世界で()()したのだし、グレースは俺の帰還に()()()()()()こっちへ来たみたいなものだ。でもそんなの関係ない。


 異世界の異能があるのは俺たちだけなんだから。




 ――ウザい、ウザ過ぎるくらいウザい。


「アララララーイ!」


 斬っても払ってもゾンビが湧いてくる。


 矢が効かないとわかったのか、やつらは網や石を投げたり、取り押さえようとゾンビたちが俺へ押し寄せてくる。特に鉄の盾を構えた盾武者に少々手こずった。


「おっらああああ!」


 大手門はとっくに破城鎚によって破られた。


 博物館は防衛陣地としてすでに半壊だ。でもなんのことない、がれきで武者ゾンビたちは足を取られてしまい、俺としては攻撃しやすくなった。



「汝らに命ず。東二の丸へ後退しろ」


 数が勝負とはよく言ったもの。


 いくら紙装甲とは言っても、武者ゾンビたちはありふれたゾンビのようにただ襲てくるだけではない。ハルバートが届かない場所から俺を長い槍で突いてきたり、壊れた建物から大きめの石を足元へ投げてきたりと工夫をみせつける。


 このままここで包囲されれば、いずれは数で押されてしまう。



「西三の丸は落ちたか」


 東坂口から東二の丸へ逃げようとしたときに、西二の丸の石垣をよじ登ろうとする足軽ゾンビが目に入った。


「汝らに命ず。開門したのちに閉門しろ」


 20体のウッドゴーレムを使い捨てにして、門の外へ置いてきた。


 グレースやセラフィと違って、俺は無尽蔵の体力があるわけではない。東二の丸の城門で武者ゾンビの進攻を一時的に食い止められたので、今はしばしの休憩を取ろうと体力の回復に努める。



 梯子で越えようとする足軽ゾンビがゴーレムによって梯子ごと押し倒された。


 ゾンビからの援護射撃で多くのウッドゴーレムが壊された。城内で休憩しながら補充用のウッドゴーレムを作り、気が付いたときは時間が正午前になった。



「セラフィ、ウッドゴーレムを使い捨てていいから本丸へ引き上げろ」


『……』


 無線からの返事はないがセラフィのことだ、確実に指令を実行してくれるはず。


「汝らに命ず。ここを死守しろ」


 本丸へ後退する俺は50体のウッドゴーレムに時間稼ぎを命じた。少しでも時間を稼いでくれたら、俺は次の対策が打てる。




「グレースもセラフィもよく耐えたな。お疲れ」


「我慢できなーい! もっと撃っちゃっていーい?」


「お疲れさまです、マイマスターひかりすぎて素敵んです☆キッラキッラリンゴ様」


 ――名前の原形がひかの二文字しか残ってないけど、ツッコまないからなおれ。それとリンゴが食べたいなら、いつか東北のほうで野生化したリンゴを探してきてあげよう。



 グレースが守る本丸からたまにものすごい魔法が放たれた。それによって群がるゾンビ軍団に()が開いてしまったくらい、一回の魔法で数百体ものゾンビが消滅させられた。


 だがドラウグルの対応も早かった。やつらは避難所がある方向へ魔法は放たれないことを観察したのか、すぐさまゾンビ兵士をそっちのほうへ移動させた。



「グレース、それはあいつらが来てからにしてくれ。

 ――バリアを起動する。中にいる犬とタヌキにキツネはすべて殲滅だ」


 早朝のうちにカトル石を使って本丸でバリアの魔道具を仕込んでおいた。


「もう……わかったわよ」


「……」


 トレイをすくいあげるように殴りつけるセラフィがとても強い。叩きつけられた武装キツネが城外ホームランされた。



 これからが第二ラウンド。


 ここからは持久戦、ドラウグル野郎(あいつ)が耐えきれなくて眉山から下ってくることを待つのみ。俺の予測では通常の攻撃が効かなくなったら、あいつらが直接ここへ攻め込んでくる。


 そう思わせるように、午前中はゾンビを消耗させるとともにゾンビ軍団の善戦を()()した。





ブクマとご評価して頂き、とても励みになっております。誠にありがとうございます。

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