表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/174

16話 うぬぼれの青年は恥を知った

 とある町でグレースが家々や商店で物を回収しているときに、俺はずっとゾンビの行動を観察してた。


 犬であれ人であれ、ゾンビに共通することがある。それは()()()()()()()をみせたことだ。



 やつらは川辺や溜め池に近付かないし、試しに水を掛けた結果、濡れたやつは慌てるような異常な動きをみせた。


 これはとても大事なこと、少なくてもゾンビに対して攻撃以外の迎撃手段を持てるようになった。



 それに城跡で拠点を作る俺にとって、ゾンビは明らかに水を嫌うことで明確な方向が得られたということだ。


 最初でこそ山城を考えていたものの、ゾンビ犬やゾンビタヌキはもちろんのこと、人間までもがやすやすと侵入を果たせそうに思える。


 城跡を拠点に利用する場合は、全周に渡って水堀がやはり必要な条件だ。



 列島には数多の立派な城がそびえていた。そのいずれも難攻不落であり、優れた防御性能を誇っていた。


 もしそれらすべてが残されていれば、津城や松阪城などは有力な根拠地になれたことだろう。だが残念なことに廃城令の後に多くが取り壊されて、時代の波に飲み込まれて大部分の水堀が埋められてしまった。



 高さのある石垣は今も敵を阻む能力を持っているために、ゾンビを拒むには十分な防御施設と言えるだろう。でも敵はなにもゾンビだけとは限らない。()()が攻めてきたときに、ただの石垣では防ぎきれないと考えられる。


 もしも入手可能なダイナマイトが使われたら、石垣なんかすぐに崩せそうだ。



 そんなわけで俺は大阪城に着目した。


 二重の堀となる外堀と内堀、しかもそれは水堀であるがためにゾンビは近寄れない。水堀は幅があるので、人間であっても石垣まで取りかかるのに手段が限定されてしまう。


 城内までの攻め口は大手門、玉造口、青屋門、京橋口の順で四つと守りやすく、内側の各曲輪は住居や農業の用地としてとても魅力的だ。



 住むだけじゃなく、生きるためにはご飯を食べなければいけない。大阪城の外側に河川が流れていて、そこから船で行けば大阪湾までたどり着けるため、それで漁業は可能になるはずだ。


 川で釣りするというのもアリ。こんな時代じゃ臭みがあるしても、川魚だって立派な食糧になれる。



 それに災害用浄水装置を使えば川の水で飲用水は確保できるし、北側限定ならゾンビを拒む天然の堀としても考えられる。


 城跡としての規模と隣接する河川、この二つが大阪城を拠点の候補地にした理由だ。



 問題があるとすれば、それは大阪メトロの存在。


 理由なんて知らないが、襲撃する対象がいないときのゾンビは日の当たらない場所でたむろすることが多い。


 そこで予測されるのが地下鉄の線路。


 張り巡らされた地下の迷宮を使って、ゾンビたちは大阪市内を自由に行き来することができる。このことは大阪城に入ったとき、地下鉄の調査はやっておくべき事案だ。



 時間をかけた俺の熱き解説にみんなが沈黙を守ってる。


 きっと俺が披露したあまりの深慮遠謀に言葉を無くしたのだろう。しばらくしてから柚月さんが小さな声で話しかけてくる。



「……えっとね。うまくいくといいね」


「ああ。鋼板とか木材とか必要な建材をもっとかき集めないといけない」


 建築工事でいい仕事してくれるウッドゴーレムがいるから心配はない。



 大阪城に生存者が立てこもっているのなら、海から少し離れている姫路城か、琵琶湖に近い彦根城などが拠点の候補として考えている。


 いずれにしてもそれは大阪城を見てからの話だ。



「……それとぉ、ゾンビが水を嫌うのは結構前から知られてるよ」

「? ……うぇえー!」


 おずおずと気遣わしげに声を出す柚月さんの言葉に思わずグレースを見る。


 ——なにそれ? ゾンビが水を嫌うことを教えてくれてないじゃん。



「うん? ……そうそう、確かにネットで書いてあったわ。キャハッ」

「くぁwせdrftgyふじこlp!」


 ——おいおいおいおい、グレースさん頼むよマジで。

 さも自分だけが発見したように自信満々で話してた俺はただのバカみたいじゃん。

 みんなしてそんな温かい目で見守らないでくださいよ、恥ずかしいぃ!




「――明後日の出発に合わせて明日は運搬用のゴーレム車を改造します」


 気を取り直して計画を川瀬さんに伝える。


「ごーれむ車? なんだそれは」


 もはや川瀬さんの目が点になっていた。


 連れて行く牛の数は川瀬さんたちが涙ながら数を絞ったらしい。



 牛にゾンビは感染しないとはいえ、ゾンビによる襲撃を考えて、連れて行ける頭数が限られてしまうのが川瀬さんたちの検討結果だ。


 家族の家財道具に当分の食糧や飲用水、大型車の運転ができるのは川瀬さんと古川さん、軽トラは良子さんと赤松さんが乗るみたい。普通の乗用車は柚月さんと刈谷さんが担当した。


 荷物のことを考えた川瀬さんは、古川さんと一緒に数十頭の牛を自分の手で引導を渡した。


 ——だからみんなの顔色が冴えなかったのか。ばっかだなあ。



「え? 物なら言ってくれたら別に車に積まなくても空間魔法で収納してあげましたのに、なんで言わなかったのですかあ」

「!――」


「それに牛なら殺さなくても大型ゴーレム車に乗せられましたのに、こんなときに変な気を遣われても困りますよお」


「……」


 無口の川瀬さんが無表情で涙を流しながら睨んでくるのがちょっと怖い。



「お父さん、何度も言ったじゃないの。芦田さんならなんとかしてくれるって」

「――」


 体を動かさずに、首だけを娘に向ける川瀬さんはゾンビウイルスに感染されているかもしれない。これは要観察人物だ。



「あ、でもステーキや焼き肉が食べ放題になりますね。殺してしまったもんはしょうがないですよ。せめての供養に美味しく頂いてあげましょうかあ」


「くぁwせdrftgyふじこlp!」


 解体用の包丁を手にした川瀬さんが理解不可能の叫びとともに俺に襲いかかろうとする。ゾンビ化する恐れのある川瀬さんの腕を後ろから掴んでいるのが柚月さんと翔也くんだ。


 ——ゾンビ菌が危ないから君たちは下がりなさい。



 川瀬さんの後頭部へ中華鍋を叩きつけようとするのは良子さん。


 なんてことだ。


 有能なサポート役として、異世界で頼りにされてた俺が川瀬夫婦を守り切れなかったのか。これは今後のゾンビワールドを生き抜くのに反省しなければならない案件だ。



 ものすごい音を立てて、解体用の包丁を手放した川瀬さんが後頭部を痛そうに両手で抱えている。



「じゃ、芦田くん。明日の朝に納めてほしい荷物を案内してもいい?」


「はひっ!」


 頬はまったく変化がないのに 口元だけ笑っている良子さんがとても怖い。


 ——この人がゾンビになったら対戦せずに逃げようと、厳守すべき決定事項の第1条がただいま決まりました。





 拠点の候補地について:


 先日にご感想を頂きまして、ここで城跡の候補についてお答えさせて頂こうかなと。


 実は皇居である江戸城は本作を考案するときに、候補地の一つとして考えていました。


 城としての敷地規模、残されている防御施設の良さ、川に接していないものの、江戸湾が近いことを含め、作中で表現する拠点としての条件は最適じゃないかなと思いました。


 採用しなかったのはストーリーの進行上、主人公は紀伊半島からのスタートなので、作中で出会った生存者を連れて移動するのに、関東方面は少し離れ過ぎでした。


 それと作中には書かれていませんが、裏設定として、第2次ゾンビ災害の後、それなりの避難民が各地の避難所で生きています。自衛隊の管轄重要施設ということで、皇居には普通科中隊が派遣され、一部の施設が避難所として都民に開放されてると想定してみました。そのために主人公が訪れても拠点としては改築させてもらえないじゃないかなと。


 大阪城公園は市が指定する広域避難場所ですから、執筆するに当たっての書きやすさがありましたので、本作での第1候補地としました。


 第1次ゾンビ災害の経験があって、原子力発電所などの重要施設は、二次災害を避けるためと復興時の再利用を考えて、政府も予めに運転停止させるなどの対策は打ったなど想定はしているものの、本編はあくまで主人公の視点で進めておりますので、本編の進行と直接関係しない描写はストーリーに影響しないよう、作中ではなるべく描かないようにしてます。


 この後書きがお答えになれれば幸いです。


 誤字報告、ブクマとご評価して頂き、とても励みになっております。皆様のご好意は感謝に堪えません。誠にありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ