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68話 異能があっても無双できるとは限らなかった

 荒ぶる気持ちとは別に冷静になろうとする自分がいる。


 ミスリルゴーレムは脅威となれる金属なので、戦闘する前に全部回収した。ストーンゴーレムは網で捕らえられ、魔法防御がないウッドゴーレムはすでにドラウグルが放つ火炎魔法で全焼した。


 バリアのおかげでこいつらが使う攻撃は俺に通用することがない。


 恐れることは身動きが取れないことだけだ。実際にこいつらは縄や網を投げてくるし、力ずくで取り抑え込もうと群がってくる。



「おらああっ」


 でもその攻撃もアダマンタイト製のハルバートで一掃される。


「おいおい。()()()だな、その武器。

 ちょっと反則的なんじゃねえのか」


「やかまし――くっ」


 俺の武器がチートというのなら、お前らの数もチートだと言い返してやりたい。先から魔法攻撃が束となって、体勢を崩されっぱなしでものすごく戦いづらい。



「ライオット、下がっ――」

「しゃべるな!」


 立ち阻もうとする鎧武者からは女の声が聞こえた。


 そいつは俺からライオットを遠ざけようと間に入ってきたので、ハルバートでその体を両断にした。


 ――人間らしい仕草をみせるな。お前らは化け物らしく振舞ってろ。



「おーおー、強え強え。親衛隊がやられっぱなしじゃねえか

 ——お前ら、一旦引け。矢で焼いてみるぜ」


 鎧武者が下がっていくとライオットの挙げた左手に合わせて、右のほうからゾンビたちが放つ火矢は次々と射られてくる。


 夜空を切り裂くように飛んでくる火矢が俺に当たると、やはり地面に落ちていくだけで、なんらかの傷を負うことはない。



「……お前、本当に人間か?

 その力はあり得ねえだろが」


「どう思おうとそっちの勝手だがな、俺は立派な人間だ」


 火矢が降り注ぐ中、避けることすら面倒となった俺はハルバートを掲げたままで前へ進む。


 ここまで派手に人を殺めたんだ、このライオットと名乗ったドラウグルを逃がすつもりがない。



「まあ、いい。

 ――おい。もう引いてくれって、アリシアに連絡入れろ」


「はい」


 ライオットが隣にいる鎧武者に命令を下す。


 なんのことかはよくわからないが今までの推移で考えると、進攻されてる戦線からゾンビの撤退が始まるのかもしれない。



「グレース、セラフィ!

 もしゾンビが後退したら北のほうに来てくれ」


『はい、わかりました』


 返事があったのはセラフィだけだ。


 グレースのことだから、今頃はゾンビを相手に無双していることだろう。その証拠に俺から見て左手の方向で、たまに上位魔法による巨大な火柱が一瞬だけ燃えあがってた。



「はてさて、人間。そろそろ決戦といこうか」


「はあ? なにを言ってんだ?」


「今までやり合ってわかったことだけどな、お前を殺すのにボクらには決め手がねえんだよな」


「……」


 片手で持つ十文字槍を肩にトントンと叩きながら、ドラウグルのライオットがにやけた顔を見せつける。



 あいつが話したことを俺は理解できずにいる。


 ライオットが察した通り、今のあいつらが持つ武器や魔法では俺を殺すことはできない。それなのにあいつは攻撃をやめようとしない。



 俺が行った異世界ではゾンビとゴブリンは死兵ともいえる存在だ。


 与えられた命令だけで動き、切り倒されようが消滅させられようが逃げることは絶対にしない。


 だがライオットみたいな高度な知恵を持つドラウグルについて、どう解き明かせばいいかが俺にはわからない。


 こいつは明らかに戦いを楽しんでいるようなそぶりをみせてる。



「なあ、教えてくれ。なんでそこまでして俺と戦うんだ。

 だれかに命令されてるのか?」


「ああ、そうだな。アジルからはお前とじゃれ合えとは言われたが、戦いたいと思ったのはボクだ。

 ……ところでお前に聞くけどよ、ボクらの存在ってなんなんだ?

 お前らのいうゾンビとはなんのためにいるんだよ」


「はあ?」


 まさかゾンビからゾンビとはなんだと聞かれるとは思いもしなかった。そんなことがわかるやつがいたら、逆に教えてほしいくらいだ。



「はははは! 人間はおもしれえなあ。

 お前がどんな反応を見せてくれるのか、期待させてもらおうか?

 ――総攻撃だああっ!」


 夜の大地を響き渡るような大声で叫んだライオット、その声に反応したゾンビたちが地響きと共に一斉に押し寄せてくる。


 やつと話している間はインターバルみたいなもの、息を整えた俺はハルバートを強く握りしめた。




 数は力そのもの、気が付けば俺は城北橋の前まで押されてしまった。


 そこで温存したメイス持ちのミスリルゴーレムを出して、切っても切っても現れるゾンビに対応するしかなかった。



「邪魔だあっ!犬」

「ウォン――」


 足元で噛みつこうとするゾンビ犬を蹴りあげ、頭を砕かれた犬がそのまま倒れた。


「くっ――うぜええ」


 親衛隊の鎧武者は魔法を絶え間なく撃ってくるし、何度か押さえ込まれそうになったところをゴーレムに救われた。



「消えなさ――」

「黙れええっ!」


 魔法を撃ってこようとする鎧武者の首を刎ねる。


 あいつらがいくら言葉をしゃべろうとゾンビはゾンビだ。俺がここで踏ん張ってる限り、ゾンビは市内に進撃することはない。



 どこを見てもゾンビしかいないから、学んだ斧術などどうでもよかった。乱暴に横方向へ振り払うだけで周りにいるゾンビを真っ二つにした。


 鋼板防壁の上からは自衛隊たちが援護射撃をしてくれてる。


 疲れのせいでハルバートが少しずつ重くなってきたものの、俺には希望があるからここは頑張らなくてはいけない。




「――お待たせぇ。苦戦してるわね」


「マイマスターひかるんです☆キラリン様、お任せください」


「ははは。お前らと会えて嬉しいぜ」


 検問所から飛び降りてきて、待ちに待った最高の相棒(グレース)頼れるメイド(セラフィ)がやっとここに来てくれた。



「強そうなやつらだな。人間、それがお前の部下か?」


「部下なんかじゃない。

 ――彼女たちは俺の大事な仲間だ!」


 最前線で指揮するライオットからの問いへ、俺は自信を持って答えてやった。


 今でもゾンビ兵なら数が減ったようにはみえないけど、親衛隊という魔法が使えるドラウグルたちは確実に減少した。



 激戦を交わしてきたライオットは尊敬するに値するドラウグルだ。


 こいつは最後まで前線から退かず、勝てる手段を持たないまま、俺と真っ向勝負し続けた。こんな指揮官は異世界でも中々いなかった。


 だから俺は心底からある思いが湧き起こる。



 ――ライオット。お前の魂は必ず俺が自分の手で送ってやる!





 中ボスのライオット戦は終盤となりました。


 主人公と違って、魔法が使えても魔法戦に慣れてないライオットは絶対的な優位に立てませんでした。ライオットとその親衛隊が魔法を中心とした戦術を組み立てていれば、主人公はこれ以上に苦戦を強いられたかもしれません。このあたりが主人公のライオット戦でのアドバンテージとなりました。


ブクマとご評価して頂き、とても励みになっております。誠にありがとうございます。

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