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66話 知人を救助したいのは人の情けだ

 大橋には橋の両端に門を設けてるため、橋の向こう側の門が破られても、内側の門には射撃できる監視塔がある。


 設置したときはこの防衛体制ならゾンビを拒むことができると、当時の俺は相当うぬぼれてた。



「多いし、木を使った破城鎚ってのは反則だろう」


 ゾンビは生身で襲いかかるという攻撃しかしてこないと思い込んでた頃の自分を殴ってやりたい。


 数本もの木を束ねた上で扉の召し合わせ部へしっかりと狙ってるし、車懸りの陣で攻めてくるかのように、いくつの組も分けて交代で頑丈な扉を突き破ろうとする。



「グレース、焼き払ってしまえ」

「ちょっと待て。小賢しいドラウグルもどきたちが効きもしない魔法をチクチクと……

 ――ウザいわねっ」


 グレースとセラフィが中位魔法を起動させようとするときに、狙ったかのように下位魔法が彼女たちへ集中する。


 その都度にグレースたちは魔法の起動がキャンセルされ、彼女たちも速射に長ける下位魔法で対応せざるを得なかった。


「下等モンスターどもが調子に乗るなあ!」

「待て――」


 血染めの凶魔と呼ばれたサキュバスのフレンジー・グレースがついにキレてしまい、この場から飛び出してしまった。



 それを待っていたかのように、近くにあるマンションの屋上から()()()が川を越えるように投げ飛ばされた。


「――ぞ、ゾンビだっ」


 ――あれが新垣大隊を壊滅させた攻撃か!



「セラフィ! 市内に入ったゾンビを倒してくるからここは頼む。

 上位魔法が撃て――」


「ひかる様、上位魔法がどうされたでしょうか?」


「グレースがいるから上位魔法は使うな」


「わかりました」


 セラフィに上位魔法を使うタイミングがあれば、攻撃するようにと命じるつもりだった。



 だが前線でドラウグルと激戦するグレースを巻き添えにしてしまう可能性があるので、範囲魔法の使用が不可となってしまった。


 いくら魔法耐性があるとはいえ、上位魔法の破壊力は伊達じゃない。


 たとえ元魔王軍幹部であるグレースでも怪我くらいはするだろうし、それによって凶暴化したグレースが()()()()()()()暴れ出したら、自衛隊にも多くの損害が出るのは考えるまでもない。




 橋での攻防戦はグレースとセラフィに任せた俺は、投擲されてきたゾンビを倒すために市内に入った。


『汝らに命ず。ゾンビを倒せ』


 射撃では間に合わないと考えた俺は、ミスリルゴーレムにもメイスを持たせた。ストーンゴーレムとともに壊されてもいい覚悟でメイス持ちのウッドゴーレムをここで投入する。


 強力な敵と戦うときは戦力を惜しむだけ痛い目に合う。


「ゾンビが橋を架け始めたぞ」


 ゴーレムの参戦でどうにか戦線を立て直したところ、鋼板防壁で援護射撃する自衛官のだれかが声をあげた。



「ア゛ーア゛――」

「ふんっ」


 その知らせを聞いた俺は心底からため息が出そうとなった。


 手持ちの戦力はほとんど投下したので、これ以上は対応しきれないかもしれない。


 ここは撤退を視野に入れて、戦い方を変えるべきかなとゾンビを倒しながら思案しているときに、背後からだれかが声をかけてきた。



「あんたが芦田君か」


「おりゃあっ!

 ――はい」


 後ろに振り返ると中年の自衛官がいて、その横にいる十数人の自衛官が俺の周りにいるゾンビを銃撃で倒していく。



「私はここの防衛を担当する佐々木2等陸佐だ。

 いきなりで申し訳ないが北側で戦闘中の中隊を助けに行ってくれないか?」


「え? どういうことですか?」


 北側にいる部隊といえば前川さんが率いる中隊のはずだ。


「伊東1等陸佐から連絡が来て、北側の防衛ラインでゾンビに追い立てられた民間人を救助するための部隊が出動したが、ゾンビに包囲されたと救援の要請がきたみたいだ。

 伊東隊長からあんたがいたら、協力をもとめよと言われたので、こうして相談しにきた」


「わかりました。すぐにいきます」


 前川さんは和歌山に来て以来の付き合いだ、できれば彼らを助けてあげたい。



「そうか。ここは私たちが対応するのですぐに行ってもらいたい」


「了解です。

 ゴーレムは残していきますから頑張ってください」


「すまない、助かる」


 収納してあるミスリルゴーレムが10体、ストーンゴーレムは20体とウッドゴーレムが50体だ。この戦力で救助に向かうしかない。


「あのですね、俺からの提案があります」


「なんだろうか」


「これ以上は厳しいと思いますので、そちらのほうで撤退することを考えたほうがいいと思います」


「わかった。すぐに伊東隊長と検討してみる。

 ありがとう」


「じゃ、行ってきます」


 本音を言えば自衛隊さんの作戦方針に口出しはしたくなかった。だけどゾンビの数が多すぎて、今ある戦力でこの戦況は厳し過ぎる。


 損害が多くなる前に引いたほうがいいと俺はそう確信した。




「――前川さんはいますか?」


「だれだ――おお、芦田君か。

 救援に来てくれたのか」


 俺の顔をみて、喜びの表情を浮かばせたのは前川中隊ところの小隊長さんだ。


 歳が離れているため、小谷さんみたいに雑談を交わすことはなかったものの、それなりに仲良くしてもらってる。



「はい。それで状況はどうなってますか?」


「30分ほど前に検問所の前で行方不明だった市民たちが束縛されたまま、ゾンビに追い立てられてたんだ。

 俺らが出ようとしたが、検問所にいた隊長のほうが付近にいた隊員を連れて救助しに行かれたんだ」


 そういうところが前川さんらしいとしか言いようがない。



「そこへ潜んでたゾンビたちがいきなり現れて隊長たちに攻撃を仕掛けてきた。

 一部の市民は中にいれることはできたが、隊長たち救助隊と残りの市民は今も取り囲まれたまま動けないんだ」


「だいたいの事情はつかめました、ありがとうございます」


 人質作戦まで立ててくるドラウグルたちが恐ろしい。あいつらが本気になれば和歌山市どころか、四国も落とせるじゃないかと一瞬にそんな恐ろしい考えが脳裏をよぎった。



「今から行きますので、扉を開けてください」


「芦田君。隊長たちと市民を頼む」


 頭を下げてくる小隊長さんの願いを叶えてあげたいと思う自分がいる。



 幸い、ここへの攻撃はグレースたちがいる場所より弱めだ。


 前川さんたちの救助が終わったら、逃げる用意でもして、さっさとみんながいる徳島市(ところ)へ帰ろう。





誤字報告、ブクマとご評価して頂き、とても励みになっております。誠にありがとうございます。

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