64話 血気に逸るドラウグルは争いごとがお好みだ
今回はドラウグル側の視点です。
「ライオットさま、真っ赤な人間じゃない者とピンクの人間が戦闘してます。
それと進撃する用意が完了しました」
「わかった。下がってろ」
アジルをマネたドラウグルのライオットはハーレムメンバーではなく、自分の親衛隊を作り上げた。
そのうちの数名を前回の攻撃の時に、偵察員として和歌山市内に潜ませて、その偵察員から無線連絡があったので、鎧を着た親衛隊の一人が報告してきた。
部下から話を聞いたライオットは横に置いてある十文字槍を掴む。
「ねえ、それはなんの趣味?」
「ヴィヴィアンからの連絡であの人間は斧を使うっていうじゃねえか。
対抗に槍を持ってみたけど、なんかおかしいか?」
「バカじゃないの?」
「うるせえな。石っコロ大好きなお前に言われたかねえよ」
和歌山市の東にある大日山の古墳から、燃える市内を眺めるアリシアがつまらなさそうに吐き捨てた。
「ふん。アジルもあなたも、あの輝きの美しさを知らないだなんて本当に俗物ね。
――いいわ、アジルが言うように感じ方はそれぞれだから好きにしたら?
それより、メリッサの策で人間がうろたえてるわね」
「ああ。面倒なことをしやがると思ってたが、人間の混乱を見ると中々いい方法だ。
まあ、ボクじゃ思いつかねえし、考えたくもねえがな」
「同感よ。アジルは同類の進化なんて言うけれど、なんのことかはさっぱりだわ」
「はんっ。授けられた策の通りにやりゃいいんだよ、そのほかのことはどうでもええわ」
アリシアと話しているときにライオットは隣にいる親衛隊たちに鎧を着せてもらってる。
「あなた、まさか自分で戦うとかいうんじゃないでしょうね」
「当たりぃ。そのまさかだよ」
「バカじゃないの?」
「なあ、アリシア」
好戦的な表情を作ったライオットは顔をアリシアへ近付ける。
「ボクらって、なんなんだ?」
「知らないわよ、そんなこと」
「大阪城で人間を飼ってみた。あいつらはボクらと違って、実に豊かな感情を持つんだよ」
「だからなあに?」
「人間を同類に変える、それがボクらの本能。
そのほかにボクらはなにをしたらいい?」
「なにもしなくてもいいんじゃない?
強いて言えば、宝石集めかな?」
「――それだよ、アリシア」
鎧の着付けが終わったライオットは兜だけを残して、和歌山市のほうへ目を向ける。
「アジルは言った、やりたいようにやれって。
ボクはな、アジルがここまで手の込んだことさせたあの人間とやり合ってみたいんだよ」
「なにそれ」
呆れ顔のアリシアへ視線を移したライオットは大きく魔力を吸い込んだ。
「家畜は土をいじって楽しそうにやってるし、アジルはハーレムメンバーを連れて同類の王国をつくるっていうし。
お前はお前で石っコロを集めて悦に入ってるしな。
ボクはな、自分でなにか楽しんでみたいんだよ。大阪城を攻めたときのようにな」
「本当にバカね……
ヴィヴィアンからの情報で、あの人間が持つ武器は鉄じゃ防げないっていうんじゃない。
それで消されたらどうするのよ」
「おや? 人間でいうと心配してくれてるってやつか?」
「バカ言ってなさい」
今のライオットは心から湧き上がる戦意を消せずに、高揚する気持ちを自覚してる。
「ボクらは永久の時間があるが、あの人間にはねえ。
せっかくの機会だから、逃がしたくはねえ。
あいつに力負けして消されるってのなら、それはそれで楽しいじゃねえか」
「呆れたわ……いいわ、好きになさい。
手伝ってほしいことがあったら、言いなさいよ。
——でもね あの人間はアジルがやりたがってるってことだけは、しっかり覚えてちょうだい」
「ああ、楽しんだら去るつもりだ。
もし、ボクが――」
なにかをしゃべりかけたライオットはいきなり口を閉ざした。
「なあに? なにか言いたいことがあるわけ?」
「いや、いい。
頼みたいことはあるが、今に言うことじゃねえな」
「そう」
「アジルたちへの連絡は頼むぜ。
あの人間とそいつの眷属が持つ力はボクが引き出してみせる」
「わかってるわ、任せなさい」
興味がないばかりにアリシアは短く返事してから、指に嵌めてるダイヤモンドの指輪へ視線を向ける。
「橋を架ける手と水を嫌う同類を船に乗せる手は、さすがアジルのハーレムメンバーが考えることよな。
あれで一気に壁の中へ入れた」
「なんでもいいけど、船だけは無しよ。
アジルのせいで嫌な思いでしかないのよ」
以前に川の中へ飛び込ませられたことを思い出したのか、アリシアは形のいい眉をひそめてみせた。
「小銃にしても迫撃砲にしても、人間の度肝を抜かすことはできたはずだぜ。
弾ならまだ残ってると思うがそろそろ遊びはこのくらいにして、直接乗り込もうぜ」
「川だけは嫌だからね」
「いや、お前に嫌がらせで動いてほしい。
連れてきた半分の同類は預けるから、好きにやってくれ」
「嫌がらせ、ね……
わかったわ、それでいいのなら今から行ってくるわ」
「ああ、頼んだぜ。
石っコロはまだまだあるから楽しみにしてくれ」
「それは本当に楽しみだわ」
従えてる部下を連れて、アリシアは山を下りる道へ向かった。
「市内にいるすべての同類を引かせろ! 砲撃はここまでだ」
指令を受けた部下が無線機のほうへ走っていく。
ライオットは置かれてる兜を手にすると、頭に被せてから兜がずれないために緒をきつく締める。彼が育てたドラウグルだけで形成する親衛隊の本隊がすでに麓のほうで待っている。
「命令は伝達しました」
「ライオット親衛隊、これより出撃する」
和風の大鎧姿のライオットは面具を顔に被せると、ここにいる数十人の部下を従えて、山を下る道へ向かって足を進めた。
主人公とドラウグルの本格的な衝突が始まります。その先陣をきったのがライオットの軍勢です。
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