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63話 ゾンビの攻勢は戦争そのものだった

 時折り市内に砲弾が降り注ぐ中、避難する人たちの間を抜けて、県庁に入った俺たちを小林知事と有川市長が出迎えてくれた。


「わざわざ来てもらってすまない」


「雑賀大臣から依頼を受けてますので、気にしないでください。

 ――今の状況はどうなってますか?」


 緊急時だからあいさつなんてそこそこでいい。


 ゾンビの処置についてはなにも言われないまま、できるだけ和歌山市の意向に沿って助力してほしいというのが雑賀のじいさんから受けた依頼だ。



「不明な武装集団による砲撃は、なにかを目標としたものではないと自衛隊のほうがそう睨んでるのよ。

 市内で混乱を引き起こすことを目的としているではないかと報告が来てるわ」


「……なるほど。

 そう言われてみればそうかもですね」


 有川さんの説明を受けて、現代戦については本やゲームでの知識しかない俺から見ても、着弾する場所がバラバラの砲撃だったよう見えた。


 混乱を目的としたのなら、市内に起こってる混沌とした状況を見れば、立派な戦果をあげてると言わざるを得ないだろう。



「来てもらったばかりで芦田くんには悪いが、南側のほうへ見に行ってほしい」


「南ですか?」


 そう言えば来る途中に市の南側から大きな音が聞こえたものだ。



「ああ。最初の特別保護地域の強化工事で、芦田くんが防壁を設置した堀北交差点までゾンビが攻め上がってきてる。

 前線のほうで自衛隊の連隊が頑張ってくれてるが、状況が芳しくない」


「北側と東側は大丈夫ですか?」


「市の東側は到着した大隊が交戦中で、前川くんのほうが北の守りを固めてる。

 どちらも防壁と川があるから、今のところはゾンビが侵入していないみたいだ。

 今から考えてみれば、元にあった防壁を芦田くんに撤去してもらったのは早まった考えだったな」


「いいえ。こうなるとはだれも想像できませんでしたから、仕方ないと思います」


 和歌山市保護地域拡大工事のときに市内の交通を遮ってたので、小林さんの指示を受けた俺が最初に設置した防壁を取り除いた。撤去した鋼板は錬金術で拡大工事の防壁用素材にした。



「しかし川幅があるのに、ゾンビはよく南側から侵入できましたね」


「橋をかけた。それと船だ」

「はい?」


 小林さんから信じられない話を聞かされた。


 自前の橋で渡河するゾンビと船を使うゾンビがいるということで、今まで考えてきた防衛策が根本から覆されたことになる。


 早い話、川や水堀がゾンビによって無効化された。この場合、ドラウグルの統率によるものと表現したほうが正しいかもしれない。



「自衛隊からの報告によると、夕方のときに和歌川大橋へゾンビが押し寄せてきたため、迎撃する部隊が派遣された。

 ところが前回の襲撃に劣らない激戦になったらしく、連隊のほうもすぐに増援部隊を出したよ」


「はい」


「河口近くで警備に当たった自衛官が組み立てるようにして、橋を架けていくゾンビを発見したと無線の連絡がこちらにも入った」


「火砲があるでしょう? なんで破壊しなかったんですか」


「30ヶ所以上が同時に橋を架けられたのでな、数が多すぎた。

 それでもなんとか食い止めようとしたが、河口にある公園へ船を乗ったゾンビが上陸してきた」

「――」


 絶句してしまった。


 これはもう対ゾンビ戦よりも、対人戦と考えたほうが間違いはなさそうだ。ヒャッハーさんたちなんて目じゃない、作戦を立ててから攻めてくるゾンビのほうがはるかに手強い。



「わかりました。用意したらすぐに行きます」


「ありがとう……

 市民たちが避難できるまで、なんとか食い止めてくれ。

 自衛隊のほうもできるだけ増援を出すと言ってくれてる」


「わたしからもお願いします。

 どうかお力を貸してください」


「……危なくなったら退去してください」


 沈痛な表情で頼んでくる小林知事と有川市長。責任感が強いお二人だ、きっと最後まで残ると覚悟を決めたと一瞬で悟った。


 それでも生きることが大事なので、ここは自分の気持ちを二人に伝えた。




 これはゾンビが襲ってきたというよりは、市街戦という戦争で例えたほうが早い。堀止交差点についた俺たちは、建物の窓と積まれてる土のうから銃で射撃するゾンビを目撃した。



「君が芦田君かね?」


「はい、芦田です」


「伊東1等陸佐だ。君の話は新垣と前川から聞いている」


 銃弾が飛び交う中、50歳過ぎのおじさんが恐れる風もなく、案内してくれた自衛官の横に立つ俺へあいさつしてくれた。



「伊東隊長、ここから俺たちも戦います。

 ただ戦い方があなたたちと違うので、俺たちのやり方で参戦します」


「前川が話してた魔法か……

 ――わかった。

 ただし、混戦になってるから自分の安全には気をつけなさい」


「大丈夫です。俺たちに火器は通用しません」


 心配してくれてる伊東隊長に返事してから、俺たち異世界帰り組はバリアの魔道具を起動させた。



「セラフィ。和歌山港までの防衛を任す」


「はい、ひかる様。お任せください」


 くるんくるんとトレイを回すセラフィには、魔弾ガン持ちミスリルゴーレム50体とメイス持ちストーンゴーレム150体を渡してある。


「和歌川までの一帯は好きにやってくれ」


「いいわよ。好きにやらせてもらうわ」


「自衛官もいるから上位魔法はなるべく控えるようにな、グレース」

「えー……わかったわよ」


 少しだけ不服そうなグレースはあっという間に飛び出していった。



「来たれ、我がしもべたち」


「なっ」

「これが噂のゴーレムか」

「魔法はちょっと面白そうだけど、あのセリフは嫌だな」

「言わないであげて」


 ――しっかりと聞こえてますよ、後ろ。


 恥ずかしいセリフは治った()()が再発したのではなく、自衛官たちが見ている前でお知らせするみたいなものだ。


 魔弾ガン持ちミスリルゴーレム40体とメイス持ちストーンゴーレム125体が交差点の前に現れた。


「汝らに命ず。敵を殲滅しろ」


 魔弾ガンは個体の殲滅には有効だが、このような大規模な集団では時間がかかりすぎる。それに俺はグレースとセラフィみたいに攻撃魔法が使えないので、今回の戦闘は使い慣れた得物で戦いに臨む。



「うおっりゃあああー」


 バリアの防壁で着弾する銃弾をものともせず、ハルバートを振りあげた俺は無反動砲を構えるゾンビへ突進した。





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