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15話 農家の知り合いは全滅だった

 深夜まで川瀬さんたちと今までやこれからのことを話し合った。


 どこかの城跡で拠点を作りたいことを説明したところ、川瀬さんは父親が命を懸けた牧場から離れることを最後まで嫌がった。


 みんなが沈黙を続ける中、川瀬さんの母親がここに居ても未来がないと考えたところで俺の考えに賛成する表明を出し、奥さんと長女は魔法が使える俺ならこんな世界で生き延びられるだろうと、その後は夜通しで川瀬さんを説得した。



 粗飼料に濃厚飼料など牧場に必要な物を取ってきてほしいと頼まれた俺は、警備用の砲台型ミスリルゴーレムを仮設した電動シャッターの上に設置して、ひとまず川瀬さんの牧場から離れた。


 行き先は川瀬さんが教えてくれた付き合いのある酪農家だ。



「ステーキ、美味しかったね」


「よかったね、美味しいステーキが食べれて」


 グレースは良子さんが作る料理のとりこになった。


 俺が作る漢の料理に顔色を変えたことがないのに、良子さんが出した料理はすべてきれいに平らげた。嫉妬しないのは俺の懐が深いからな、くそぉ……




 川瀬さんの知り合いである牧場は、人も牛も死に絶えていた。


 人はゾンビになったし、世話されない牛は静かに横たわっている。汚染のことを考えて、大声を出しながら牛舎の外へゾンビを誘う。両手を挙げて近付いてくる、酪農家だったゾンビの頭を狙って魔弾ガンを撃った。



 置かれているロールベールラップサイロや飼料に添加物、とりあえず説明を受けた物を収納していく。どう扱うかは川瀬さんに任せればいい、専門じゃない俺がにわかの知識で理解できるはずもない。


 柚月さんから聞いた話では、酪農農家が扱うのは乳用牛で繁殖農家は肉牛を飼育するらしい。豚肉や卵を食べようと思ったら、それ相応の畜舎と設備が必要という説明も受けた。


 どうやら餌を与えるだけでは勝手に育たないものらしい。うーん、農家は奥深いなあ。



 豚バラ肉100グラムを150円で買ってたのに、今はお金があっても豚肉が買えないという悲しさ。養豚場を設置しようと思っても、人材がいなければ必要な設備についての知識もない。困ったことだ。


 電力が切れてから時間が経ち過ぎて、冷凍保存してた生鮮食品は腐敗して食べ物にならない。



 今に手に入りそうな肉と言えばお魚くらい。


 地方に行けば使われてない漁船が放置されてるだろうが、操船できない俺では港から出られない。


 扱える船といえば魔王軍の島を攻撃しようとしたときに、作成した各種のゴーレム揚陸艇くらいだ。それで漁ができるかどうか、海辺に行ったときに試してみないとわからない。



「ねえ、食べられる物とか日用品とか、みんな持って帰る?」


「そだね。ゴミ袋に入れて、川瀬さんたちに考えてもらおう」


 玄関扉から顔を出すグレースの質問になげやり気味で答えた。


 このままここに置いて朽ち果てさせるよりも、川瀬さんの知人なら、供養するなり処分するなり、ちゃんと考えてくれるのだろう。



「農業や漁業の専門書籍がほしいな」


 現代の産業は工業化されているため、専門の機械に頼ることが多い。


 川瀬さんの牧場で使っている設備もすべてが持っていけるというわけではない。施工や設置したのはメーカーの技術者だし、メンテナンス作業になると、俺みたいな素人にはできないことだ。



「身丈に合うように一つずつやっていこうか」


「ア゛ーアア゛……ヴーア゛ー」

「グルルル」


 軽トラの影からゾンビとゾンビ犬が現れる。


 魔弾ガンの先につけてある照星をゾンビの頭に合わせて、魔石と直結する引き金に指を当てる。発射された魔弾はスイカを割るように牧場の関係者だった者の頭を砕き、ゾンビ犬は連射じゃないと当てにくいので適当に掃射する。


 殺し切れない場合は、メイスなどの武器で直接攻撃したほうが早い。



 これがゾンビタヌキになるとさすがに頭を悩ませる。


 体が小さい上に予想以上の動きをみせ、当てにくいことこの上なしだ。こうなればどこかでショットガンを探してきたほうがいい。銃なんて使いものにならないと判断したが、無駄な武器などないと考え直しておくべきだ。




「ありがとう……ありがとう……」


 川瀬さんは目を真っ赤にしてしきりに感謝を伝えてくる。


「ようちゃん……う、ううう……」


 住宅の広いリビングで欠損した女子のゾンビが襲いかかってきて、メイスで頭を目がけて止めを刺した。


 長女の柚月さんと長男の翔也くんのスマホに保存されている写真を確認した後に、二人は仲の良かった幼馴染が亡くなったことに涙を流した。



 友人たちの遺体(ゾンビ)はさすがに持ってこれないけど、遺品を仕分けした良子さんと川瀬さんの母は亡くなった付き合いのあった方々の冥福を祈っていた。


 3日を使って、数ヶ所の牧場を回った結果、川瀬さんの知り合いの牧場は全滅してた。




「どうですか、引っ越しの用意はできましたか?」


「あらかた片付いたよ。ところで芦田くんはどこへ行くつもりだ」


 この三日間、川瀬さんたちは身の回りの物を選別した。


 牛舎で使う設備は水できれいに洗浄して、移設できない設備はここに置いて行くという。


 ()()()帰って来れることを願って、良子さんたち女性陣は整理整頓に勤しんだ。


 ここは厳重に戸締りしてから旅立ちたいのが川瀬さんの希望だった。もちろん、それについては川瀬さん一家は持つ未来への希望で、俺から異論など言えるもない。



「大阪城。そこで拠点を作る」


 川瀬さんたちは唖然とした表情で、なに言ってんだこいつはと思っているかもしれない。


 グレースに至っては興味がないばかりにゲーム機のコントローラーをカチャカチャさせて、翔也くんと格闘ゲームでバトってる。



 これは俺の中で予定事項。


 ゾンビが往来するこの世界で、天下の名城たる大阪城で籠城だ。





 拠点候補が出ました。


 候補地にする理由は明日の投稿に描写してありますので、以前に頂いたご感想に対するお答えは明日の後書きに記載させて頂きたいと思います。


 主人公は出会った生存者から依頼を受けて、少しずつ人間関係を築いていきます。

 いくら力があるとは言え、「おれつえぇぞ、ついて来い」ではヒャッハーさんと変わらないでしょうし、それでついていくとは考えがたいと考えました。


 人間の心を掴むのはそれ相応の言動が必要じゃないかと。


 ブクマとご評価して頂き、とても励みになっております。皆様のご好意は感謝に堪えません。誠にありがとうございます。

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