51話 とあるドラウグルは貴金属が大好きだ
今回はドラウグルの視点です。
「迎えを寄越してくれてありがとう」
「いや、お礼を言われる覚えはねえな。
ボクにそうしてくれって言ったのはアジルだし」
「はははは。それもそうか」
大阪城の天守閣でアジルはライオットという男のドラウグルにあいさつした。
「ところで同類はどうした。
ドラウグル以外にほとんど見当たらないが?」
「ほら、メリッサが四国で空爆されたって言ったろ?
ここには来ねえと思うけど、念のために地下鉄へ潜り込ませた」
「メリッサが重い武器を先に四国へ運ばせたように、お前らは悪くない判断を下してくれる」
「メリッサの判断は知らねえな。
同類がいくらいなくなろうとボクには関係ねえが、犬死させるくらいなら共食いで消えたほうがいいと思うぜ」
「好きにしろ」
天守閣の最上階から大阪の街を見下ろしつつ、こともなげに言い放つライオットへ、アジルはその言葉に苦笑せざるを得なかった。
やはり人間のときが男だったためなのかと、アジルはライオットの冷酷さと好戦的な性格を推測してみた。だがアジルはすぐに何度か首を横に振り、自分が考えたことを頭から追い払った。
自分たちがなにものかがわからず、個性は個体によって異なるもので、自分たちには関係のない性別で決めるのは実にバカらしいとアジルはそう考えなおした。
アリシアとライオットに共通するのは、だれかの命令がなくても自分の考えで動くことだ。そのためにアジルは畿内をライオットに任せ、アリシアには西のほうへ行けとアジルは命令した。
「で、どうする?
こっちは用意できたけどよ、メリッサのほうは大丈夫か?」
「メリッサの軍勢は配置した。
囮に用意した同類は山の中で焼かれたが、あいつが鍛えた同類たちは洞窟に隠したのでな、難から逃れることができた」
大阪の街に目を向けたまま質問してきたライオットに、アジルは答えながら彼の隣へ足を運ぶ。
「それじゃ、ボクが担当する地域で精いっぱい嫌がらせしてくるわ」
「今回はメリッサが主役だからやりすぎるなよ?」
「ちょっとはしゃぐかもしれねえがそこんとこは気をつける。
ボクもバカじゃねえから、別にあいつの楽しみを奪うとは思わねえよ」
うざったそうにライオットは手をひらひらと振ってみせる。
「人間のことだけど、市内の大学という場所に籠ってたやつらはどうした」
「あいつらは同類を殺すから落としてやった」
「ふむ……工場に立てこもってるやつらは?」
「あいつらは同類が行っても水をぶっ放すだけだから無視だ。
それにあいつらは自分たちで食糧を作ってるから、見ていておもしれえよ」
「なるほどな」
アジルは大阪市内で、なおも人間たちが立てこもってた場所のことをライオットに聞いてみた。ライオットから得られた答えは想像以上のもので、アジルは思わず笑みがこぼれる。
「それと……あれはなんだ?」
「なんだって……人間だ」
アジルが指す方向は大阪城内にある畑で、そこに人間たちが野菜の世話をしている。
「なぜここに人間がいる?」
「うーん……なんだっけなあ……
……なんつうか、家畜?」
「はあ?」
ライオットが悩んだ末に出した答えにアジルはしばらくの間、ライオットの顔をジッと覗き込まずにはいられなかった。
「大阪市内でウロウロしたら、あいつらのグループと出くわした。
こっちがあいつらの天敵だってわかってるのに、あいつらは逃げようとしねえんだよ。
おもしれえから話を聞いてみたら餓死寸前だってさ。だからここで飼うことにした」
「人間を飼う?」
「おかしいか?」
「いや、続けて言ってみろ」
「人間っておもしれえ。
あいつらさ、こっちが手を出さないって理解してから、ここが安全だって出て行かねえんだよ。
食べ物も川で魚を釣ったり、近付いた鹿を殺したりと自分たちでやるんだ」
農作業を続ける人間たちに楽しげな視線を向けるライオット。そんな彼をアジルは興味深そうに見つめている。
「この前はここに設備があるから田植えをするって、勝手にやり出したんだよ」
「そうか……ライオットは人間と暮らせるのか」
「いや、こいつらは家畜だ。
人間でいうとペットってやつ」
「――そういう言い方を人間は屁理屈って表現するらしいんだわ」
ムキになって弁明するライオットの声を被せるように、下の階から上がってきた女ドラウグルが切り捨てる。
「っけ、アリシアかよ」
「ごあいさつね。
――あら、もう来たの? アジル」
「なにしに来た?」
「はああ?」
アリシアがここに来たことを素っ気ない声で聞いたアジル、信じられないような表情でアリシアはアジルを睨みつけた。
「あんたが来いって言ったじゃないの! バカじゃないの?」
「そんなことを言ったか……
――あ、言ったな。確かに」
「ちょっとお、しっかりしてよ」
頭をかくアジルに彼をなじるアリシア、その様子を興味なさそうに見ていたライオットは外の景色へ目を向ける。
「それでえ。なんの用なの?」
「用を言う前に聞きたいことがある。
アリシア、お前はなにをしてた。連絡がつかないからマリアが探しに行ったぞ」
「別に。ただ宝石とかを集めに行っただけよ」
「それは構わないが居場所だけは知らせろ。
お前を探しに行ったマリアはあの人間と遭遇して、危うく衝突しかけたぞ」
「それは悪かったわね」
謝ってるような雰囲気がまったくないアリシアの表情に、アジルは窘める気持ちを失せてしまった。
「あの人間って、アジルが強そうって言ったやつか」
「ああ、そうだ。しばらくの間にあの人間のことを探ってみたが……
赤く映る従者たちはサキュバスにホムンクルスらしい。
――あの人間は異世界から帰ってきたやつだ」
「はあ? 小説の読み過ぎじゃないの?」
「異世界帰りってやつか……
いいねえ、殺ってみてえ!」
呆れて冷やかな目をするアリシアに、目を細めてから口の端を吊りあげるライオット。
一つの情報に異なる反応を示す同類。
ハーレムメンバーならアジルのいうことを鵜呑みにするのだけど、この二人は違う個性を持っているため、アジルとしては二人にもっと成長してもらいたい思いがある。
「そうだ! アリシア、この前にお前の部下でプラチナってやつが食べ物を大量に持ってきてくれた。
まあ、食えねえものも多かったが、とりあえずありがとうな」
「お礼は別にいいわよ。人間を飼うなんて、あなたもいい趣味ね。
言葉よりもほしいものがあるのだけど?」
「わーってるって――これだろ?」
棚に被せた布を引き剥がすと、そこには金の延べ棒が積まれていた。
「あらあ、あなたにしては気が利くじゃないの?」
「なあに、こっちは市内を探し回ったんだ。欲しければもっと食糧ってやつを持ってくることだ。
言っておくけど、これからは家畜が食えるものしか受け付けねえからな」
アジルは二人のやり取りを面白そうに眺めている。
人間を同類にすることしか興味がない同類たち。
ライオットとアリシアのように独自の趣味を持つ同類を見ていると、アジルは同類にも個性があることに喜びを感じた。
「なにニヤニヤ笑ってんの、アジル。
人間みたいで気持ち悪いわよ」
「そうか、おれは笑ってたのか……
――さて、やってほしいことがあるからおれの話を聞いてくれ」
「はいはい」
「改まっちゃってなんだよ、アジル」
存在意義がただ人間を同類にするだけなら、死ぬことのできない自分たちにとって、それは寂しすぎることだ。
人間ではないほどにしても、同類が意思を持てるなら、緑が広がりつつこの美しい世界で、自由に存在するのも悪くないとアジルはずっとそう考えている。
ハーレムメンバーは未だにアジルを中心に物事を思考するが、メリッサやカッサンドラのように、やりたいことがあるのなら、アジルは彼女たちのために最大限の努力をしようとずっと前からそう決意していた。
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