25話 ドラウグルは対決を決意した
今回はドラウグルの視点です。
「——アジル様。勝手なことをして申し訳ありません」
「なぜ謝るのか? おれは怒ってないぞ。
むしろメリッサが楽しくやってるようでおれは嬉しいのだが」
ドラウグルのアジルは謝ってくる配下の頭を撫でた。
メリッサが四国でゾンビの軍団を鍛え上げているとき、いつまでも戻らない配下から話を聞くためにアジルは四国入りした。
そこで彼が無線で連絡して、合流を果たした先で目にしたのは山中で武装したゾンビを鍛えているメリッサとヴィヴィアンの姿だった。
「メリッサはあの人間と戦いたいのか?」
「……」
アジルからの質問にメリッサは所在なさげに忙しく頭を動かして、主からの質問にどう答えればいいかがわからいない様子をみせてる。
「……人間は集団を組んで同類たちを撃退しました。
でもうちはアジル様が率いる同類なら、人間には負けないと思います」
「……そんなことを考えてたのか」
「——アジル様が迷惑するなら今すぐ取りやめます!」
少しだけ驚いた表情するアジルにメリッサは慌てて弁明する。
「——アハハハハハ!」
しかしアジルは見開いた目を手のひらで覆い、山の中で響かせる笑い声をあげた。
「アジル様?」
「ははは――良い、実に良い! 戦争好きは伊達じゃなかったってことか。
迷惑なんてとんでもない。
おれが言うこと以外で動いてくれるのは嬉しいことだ、メリッサ」
ホッとするメリッサにアジルは優しく彼女の頭を撫でる。
「犠牲を出してまでわざわざあの人間とぶつかるのは面倒だと思ってたのだがな……
やめだ」
「はい?」
「人間なんて適当に間引きしてやればいいと思って、あの人間以外は今の今まで気にもかけなかった」
好戦的な目の光をたたえて、アジルは口の端をゆがめて笑う。
「——いいだろう、ここはお前の趣味に乗ってやろう。
よしっ、戦争だ」
大阪城攻めして以来、アジルは直接人間に手を出すことに興味を無くした。
ライオットに大阪を任せて、アジルはドラウグル作りに余念がなく、水に強いドラウグルの試験と各種の魔法開発に日々を費やしてきた。
大阪城にいたあの人間を監視させてたのは、彼が大規模的に同類を滅ぼせるだけの力がありそうと考えた。
メリッサとヴィヴィアンを当てたのも衝突する場合に備えて、できるだけ詳細な情報を先に掴んでおきたい思いが存在する。
「ヴィヴィアン。手掘りでいい、同類を隠すための洞窟堀りは続けさせろ。それも多くな」
「はい、仰せのままに」
「メリッサ、東かがわ市に200体ほどの同類を建物に潜ませて、そのほかは俺からの連絡ですべて山中に引かせろ」
「はい」
「潜ませた同類は俺の合図で人間を追いつめない程度、ゆっくりと逃げる人間を追いかけろ」
「はい……?」
指令を受けたメリッサは自分の主が話すことの内容を理解できなかった。もちろん、アジルは困惑したメリッサに説明を続けるつもりでいる。
「ヴィヴィアンの話によると、県庁の屋上で人間たちの監視を続けてる同類から、あの人間と強い女二人が車で南下したと聞いてる」
「はい、昨日の早朝に同類からの無線連絡がありました。
それと港からも船が出たと追加の情報が入ってます」
「さすが情報戦ではハーレム一を誇るエキスパートだ。ありがとう、ヴィヴィアン。
――あの人間は人間の集まる街からいなくなった」
「はい」
「遠出か、それとも近場でなにかするのはわからない。それでもチャンスであることに変わりはない。
そこでだ、おれは自分の目で人間がいる街で、どのような防衛策を施しているかを見てこようと考えてる」
「アジル様お一人ですか? 危険で――」
「心配するな。
あの人間がいなければ、ただの人間には負けないよ」
両肩を掴んでくるメリッサの唇に、アジルは軽めの口づけを交わす。
人間の書物に触れることで、ハーレムメンバーの間でキスは親密な行為であることが認識されてる。そのためにアジルからキスされるのはご褒美とハーレムメンバーは全員がそうとらえてる。
「それになにも独りじゃないぞ? メリッサ。
おれと一緒に行くのはお前たちの仲間、おれ以外に初めて水を恐れないドラウグルが誕生した」
「え? それはフェリスのこと?
――あんたはもう水を恐れないの?」
驚くメリッサがアジルの後ろで控えていた小柄なドラウグルに声をかけた。
「はい、フェリスはついに克服できました。
雨にぬれても水に入っても、もうあのみっともないバタバタダンスなんてしません」
「というわけでフェリスがおれと一緒に人間の街を探ってくる。
ヴィヴィアン。お前は大阪に戻って、メリッサの軍団が使う武器と防具の作成をカッサンドラに言い渡せ。
それとライオットに手伝わせるから準備しろとな」
「はい、仰せのままに」
「メリッサは軍団の訓練を続けさせろ。
それとこの前は阿南市というところから武器弾薬を取ったらしいが、この島にある基地はもう手を出すな。人間たちにくれてやれ。
ほどほどの力を持たせたほうが、その場に留まって抵抗する気になるのだろう」
「仰せのままに」
「人間が田んぼを耕すのは邪魔するなと、この地域と和歌山地域の同類たちに手を出させるな。
こっちの準備が終わるまで、米くらい好きに作らせてやれ。おれたちはいらないが、人間はご飯が必要だからな。
元気がないやつらと戦争しても面白みがないし、一度は人間たちの全力を知っておきたいのでな」
「「アジル様の仰せのままに」」
ドラウグルのアジルは愉快な気分に包まれた。
このまま無限の時間を楽しむように、風景だけを眺めるのも悪くなかった。
だがこういうゲームをすることで同類の経験値と思考力が上がるはず。同類を進化させるのは先に目覚めた自分の務めとアジルは自任してる。
やると決めたからには人間たちにも盛り上がってもらえるように、色々と手を打つのが礼儀だとアジルはそう考えていた。
好敵手がついに自ら動き出しました。
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