陰謀の始まり
久しぶりの更新です。
初っ端から急展開です笑
お付き合いくださいませ~(^^
タドミールの町は、朝から活気づいていた。
焼き立てのパンの香り、飼っている鶏を追いかける子供、鉄を叩く音が聞こえてくる鍛冶屋、あちこちで一日が始まっている。
「アリアさーん! アリアさーん!?」
屋敷の玄関に入って来るなり叫んだエムリスは涙目だ。
階段の上から「うるさいぞ!」とユーリンに叱られる。
「ユーリ! アリアさんは?」
「執務室だ。 ティー!」
簡潔に答え、その場から彼女も叫ぶ。
執務室の扉が開き、呆れた顔で現れたのはティトルである。
「聞こえている。お前は人にうるさいと言っておきながら…」
「文句ならエムに言ってくれ。私は引き継いだだけだ」
「ひどい! いつもこれだよ」
「なにかあったの?」
三人のやりとりに苦笑しながらアリアも現れる。
エムリスは「大変なんです!」と手にしていた伝書を掲げる。
「支部長から、急ぎだって渡されて。王子が来るそうなんです!」
「ウィーリアンが?」
階段をおり、エムリスから伝書を受け取る。支部長宛になっているそれに目を通すと、確かに城から王子が訪問するという内容だった。それと合わせて、オーシャルン国の王子と姫も一緒だということも。
ウィーリアンならば、彼らが雇用されてから何度か来ていた。
なのでエムリスが驚いたのは、オーシャルン国の王子と姫という点だろう。
「僕、他国の王族って初めてです…!」
「大体の者は初めてだろう。しかし急だな」
「アリア殿、どうする?」ティトルに聞かれ、屋敷の者と町の者たちに伝えるよう手配するよう指示した。
しかし、ユーリンの言う通り急な話である。
なんだかんだと時間が取れず、オーシャルン国にはあれ以来訪れていなかったのだが、城ならばともかく領地にわざわざ来るとは。
考えるのは後回しにし、とりあえず準備を進めた。
城からの場所が到着したのは、午後を回ってからだった。
正門に馬車が止まり、まずはウィーリアンが降りてくる。
「ウィーリアン、久しぶりです」
「やあ、元気だったかい?」
そのあとにオーシャルン国の王子エリックと、姫のシャルウェナが現れた。
アリアはローブをつまみ挨拶をする。
「エリック王子、シャルウェナ姫、お久しぶりです」
「久しいな、アリア殿。相変わらずお美しい」
「王子は相変わらずの性癖ですね」
手の甲に唇を落としながら言うエリックに、アリアも笑顔で答える。
やれやれ、と肩を竦めシャルウェナを前に出してやる。
「アリアさま、お久しぶりです!」
「シャルウェナ様。だいぶ顔色が良くなられたようで安心しました」
オーシャルン国の城で見た時は青白く今にも倒れるのではないかと思っていたが、健康的な雰囲気になっている。
「わざわざ領地に足を運んでいただいて光栄です。本来であれば、私から訪問すべきなのに、申し訳ありません」
「いいえ。わたくしが無理を言ったのです」
お会いしたくて…と頬を染めながら言うシャルウェナはかわいらしい。
笑みを向け、「嬉しいです」と返す。
馬車からシルヴィンとフィネガンが降りてくる。そしてもう一人。
その人物を見て、アリアはぽかんとした。
「……えーと、ミラー?」
「久しぶりね」
かつてカーネリウスとコンビを組み、ギルド本部の冒険者であったミラーである。
ミラーはアリアの様子にくすくすと笑いながら、シャルウェナの横につく。
「…もしかして、城から派遣された光属性の魔術師?」
「ええ。知らなかったの?」
「知らなかった。だって、ミラーって城の魔術師だったの?」
「詳しいことは後で話すわ」
どうやらこの場では言いたくないらしい。
王子たちを立ったままにさせるのも無礼なので、そりあえずは中に招き入れた。
それから補佐官の三人を紹介し、ソファに座ると同時にローザが紅茶を出す。
「オーシャルン国も治安が良くなられたとか」
「ああ、君のおかげだ。私も父について公務に出ることが多くなったよ」
「近いうちに、僕も一度オーシャルン国に行くことになっているんだ」
どうやら二人はうまく友人付き合いをしているようだ。
エリックより、エバンナの報告も上がった。
目に見えて大人しくなった彼女を、周りもちくちく嫌がらせすることに飽きたのか、今は特に問題は起きていないらしい。ただ孤立しているのはエバンナの性格上仕方のないことだ。貴族に取り入ることも、かといって平民と共にいることも、元貴族の令嬢としてプライドが許さないのだろう。
これはやはり、一度様子を見に行った方がいいか…とアリアは溜息をつく。
しばらく雑談をしていたが、ふいにウィーリアンが「少し人払いしてもらっていいかい?」と口を開いた。
アリアは頷いて、ティトルたちに視線を向ける。ローザも最後に紅茶を補充した後、彼らと一緒に外に出た。
「ただの外遊とは思ってませんでしたが、何かありましたか」
「父たちの目が醒めたあと、一度城下町をくまなく調査した。最初に被害を受けたであろう孤児院もな。 そこで、ひとつだけ情報が入った」
当時から院長をしていた者の話では、ある貴族を名乗り支援金とあのガラス玉を持って来た者がいたという。
「貴族の名は、アレス・ティルザート。北方の国でも、名のある者だ」
「トルダタの、ですか」
「数か月前、城から密偵を向かわせたが、あれから音沙汰がない」
アリアは眉を顰める。
トルダタは、昔から警戒すべき国だった。
「…魔王が世界を支配しようとしていた時代、なぜ北の地を選んだのか、ずっと不思議でなりませんでした」
「それは、魔王が北の森に拠点を設けていたからじゃないのかい?」
「魔獣でさえ住むことが困難な森ですよ。だから死霊の森と呼ばれていたのです。いくら魔族だからとはいえ、留まるのは賢明ではない。事実、魔王もだいぶ弱ってましたからね」
いるだけで生命力を取られるような地だ。
寿命が長いとはいえ、魔王ですら気力を削がれていた。操られていなければ、きっとその場から立ち去っていたに違いない。
「……アリア殿がその場にいたような発言に聞こえるのだが」
「 あら、エリック王子。そんなわけありません。私はまだ十四歳ですよ」
書物をかじりました。
にっこり返すと腑に落ちない顔で「そうか…?」と呟く。
「まあなんにせよ、もう少し調査は必要でしょうね。ただ、密偵が帰ってこないともなれば、かなり危険な状態ではあるようですが」
「 師と、連絡が取れないの」
ミラーがぽつりとこぼす。
「アリア、城での夜会が終わった後、私が師匠に呼ばれたって聞いていた?」
「ええ、カーネリウスからはそのように」
「突然旅に出るって言ったのよ。 トルダタに」
帰省したミラーに理由も告げず、ただ北の国を目指すと言ったらしい。
何かの依頼だろうか、と付いていったのだが、師匠の様子がおかしい。
どこか緊迫したように、表情も暗く口数も少なかったという。
そしてあと少しで北の国の国境に入るといったところで、突然「破門する」と言い出したのだ。理由を聞いても答えてくれず、縋ったが魔法で吹っ飛ばされ、意識を取り戻した頃にはもう師匠はいなくなっていたらしい。
「しばらくは師匠の家にいたの。もしかして、すぐに戻って来るんじゃないかって。でも、ひと月たってもそんな気配はなかったわ」
「連絡も取れないの?」
「魔法伝書を飛ばしても、拒否されて戻ってきて…」
その後、セイディアに相談したところ「俺が調べておくからお前は動くな」と言われたという。なんだ、私は何も聞かされていないぞ。
アリアの考えていることが分かったのか「言うなって口止めされてたのよ」と苦笑する。
「絶対に何かやらかすに決まっているから」
「…私の認識、やっぱり納得できないんだけど」
そこで城に滞在することとなり、城の魔術師にならないかと王に聞かれ受け入れたという。アリアも城には行っていたのに会わなかったのはなぜかと言う問いには、配属されてすぐに長期任務についたため、すれ違いになっていたかららしい。
「カーネリウスにも言ってなかったんだ…」
「あいつは馬鹿だもの。言ったらすぐに口滑らせるでしょう。自分から言いたかったのよ」
「容赦ないね相変わらず」
否定はしない。
セイディアが調べているとなれば自分が手を出すことは禁じられるだろう。
だが、今の時点で何もわかっていないというのが不審だ。
(…師匠、実は何か掴んでるんじゃないよね)
むう、と不機嫌な顔をするアリアに「だから隠していたのよね…」と呆れた顔をされた。
「いきなり破門というのは、納得いかないだろうね」
「そうなんです。何か理由があったとしか思えなくて…」
ウィーリアンの言葉にミラーも頷く。
今回、バーティノンの件と関係しているのではないか、とアリアに話すことを決意したそうだ。
エリックが慰めるようにミラーの肩に触れたが抓られている。
はい、いまそういう場合ではありませんので。
すると、扉がノックされた。
「失礼します。アリア殿」
「どうしました」
「手紙が届いています」
速達だ。
受け取り差出人を確認して、その場で開け目を通す。
それから目を細めた。
その表情がどこか黒いものだったので「アリア…?」と全員が冷汗を浮かべる。
「どうやら現在、北の国の国境は閉鎖されているようですね」
「なっ…!?」
「私の情報屋からの手紙によりますと、その周辺では魔獣が大量発生していて、近くの冒険者たちが討伐に出ているようです。」
国境を塞ぐこと自体、異例のことだ。
本来であれば、各国の王の承認を得てから行われる。
伝染病の発生など、よほどのことがない限りそれはない。
無断で行うということはつまり、他国に対しての宣戦布告ともとれる行為なのだ。戦争に発展する恐れもある。
アリアは手紙をたたみ、若干据わった目で口元に笑みを浮かべた。
「何を企んでいるのかねぇ…」
全て、どこかで繋がっている気がする。
「神なる者」の存在も、ミラーの師匠のことも、そして北の国の閉鎖も。
ひやひやしている周りを尻目に、空気を読んで出ていこうとしたティトルを呼び止める。
「しばらく領地を空けます」
「アリア?」
「城に戻るとき、私もお供します。少々、確認したいことが出来ました」
「…やっぱり隠しておくべきだったわね」
ミラーが溜息をついた。
シャルウェナもいるので重い話はそこで一旦中断し、ミラーに教わった浄化魔法の成果を聞くことにした。予想していた通り筋がいいので、光属性の魔法に加えて治癒魔法の習得にも成功したらしい。
「もう少し落ち着いたら、国の医療機関を回ろうと思うのです」
「オーシャルンは他国に比べて医療システムが劣っているのだ。シャルウェナの力に頼るわけではないが、役に立つことをしたいと言うからね」
エリックが苦笑しながら続ける。
ずっとベッドの上にいた彼女にとって、町に出て自分から動けることが嬉しいのだろう。もしかしたらシャルウェナのように、魔力を備えた領民たちもいるかもしれない。可能性を見出すため、一度大規模な魔力検査も行うことにしたという。
「自分でも気づいていない者がいるかもしれませんね。私も師匠に会うまで魔法が使えると思っていませんでしたから」
「感覚的に初めから使える者と、後天性の者もいる。ありえないことじゃないわ」
それから遅くなる前に発つというので、アリアも後のことは補佐官三人に任せることにした。まだひと月ほどしか経っていないが、連携もとれているし領民たちともコミュニケーションを取り良好な関係を築いているようだった。
アリアはミラーたち従者と一緒に馬車に乗り込む。
「シルヴィンたちはミラーが城にいたことは知っていたんですか?」
「城の魔術師の名簿に載っていたので、私は知っていました」
だが、だからといってそれを深追いすることは通常ないので、城入りしたんだなというくらいの認識だったらしい。
「…シルヴィン、ちゃんと友達いますか?」
「…なんですか、それは」
「アリア殿、大丈夫だ俺がいる。ついでにカーネリウスもいる」
常に真面目なシルヴィンが円滑に人付き合いをしているか疑問だ。
彼が笑っているところを見たことなどあっただろうか。
それでもフィネガンたちとはうまくやっているようで、たまに食事も一緒にしているらしい。主に無理やり誘われているようだが。
シルヴィンは若干冷えた目で「必要であれば友好関係くらい築けます」と言う。
「うるさい方々は積極的に遠慮しているだけです」
「あれ、なんかいま俺の方見なかったか?」
「君に関してはもう諦めました」
「…なんだろうな。俺は少し傷ついているようだ」
アリアはミラーと苦笑する。
タドミールに来る前に、カーネリウスには会ったようだ。
アリア同様に知らなかったのでかなり驚いていたが、割と細かいことは気にしない性格のようで「言っておけよなー」で済んだらしい。
それからモールドに馬車に入り、城に続く道を進む。ふと、何かおかしいことに気付いた。
「…城から煙があがっていませんか?」
「なに!?」
フィネガンが窓から身を乗り出し確認する。
次の瞬間、地面に衝撃が走るほどの爆発音が響き、城の頂上の屋根から火柱が上がった。馬車を止め外に出すと、町の者たちも驚き悲鳴を上げている。
人波で馬車は動かせないので、全員降りて城に向かって走り出す。
正門にたどり着くと、門番たちが戸惑いながら他の者たちと共に消火活動を行っていた。
「何事だ!?」
「王子! それがわからないのです! 突然城の中で爆発が起こったようで…」
「ウィーリアン、エリック様達とここにいてください。ミラー!」
アリアが呼ぶと、ミラーは頷いて杖を掲げる。
水の柱が立ち起こり、燃え盛る炎を消し去った。火が消えたのを確認し、そのまま城内へと向かう。廊下には怪我をして倒れている者たちもいる。動ける人たちに救助しながら城の外に出るよう指示を出し、王の間に向かった。
「アリア!」
部屋に入るとカイルが王を庇いつつ剣を抜いていた。
対峙しているのはいつだったかオーシャルン国で襲ってきた、"人間兵器"だ。
アリアも背の剣を抜きなぎ倒していく。ミラーが防衛魔法を展開し、王の元に駆け寄った。
「王、ご無事ですか!?」
「あ、ああ…すまぬ」
「これはいったい何事ですか」
ものの数秒で敵を倒しアリアが聞くと、「詳しくはわからん」と王が眉を顰めながら言う。
「城に強い衝撃と、同時にその者たちが襲ってきたのだ」
「師匠は?」
本来ならば王の元にきているはずのセイディアがいないことに気付き聞くが、ここには来ていないという。とりあえずここにいても危険なので城の外に連れ出すことにする。
途中、ガルディオが息を切らし王の前に現れた。片膝をつき「報告致します!」と言う。
「町に魔獣が現れました!」
「なんと…」
「結界が、破れたのか?」
カイルの言葉に、まさか、と思う。
結界が破れたということは、その術者が発動をやめたか倒されたかのどちらかだ。
廊下を走りながら、窓の外を見ると先ほどまでは無事だったモールドの町からも煙が上がり飛行系の魔獣たちが見えた。
城の外に出るとウィーリアンが「父上!」と無事を確認しほっとした顔をする。
「ご無事で…! 兄上は?」
「セガールはクロエ嬢の実家に行っている。誰か伝令を」
「王、セイディア殿が施していた結界の範囲まで補うことが出来ていません!」
すでに他の王宮魔術師たちが結界の張り直しをしているが、何しろセイディアが受け持っていた範囲が広すぎるのだ。
アリアは左手に杖を持ち、「魔法効力は」と聞く。
汗を浮かべながら結界を張っている魔術師たちは驚きながらも、結界に施してある属性と効力を告げる。
「少し荒っぽくなりますよ」
「あ、アリア殿?」
「温存できる範囲に設定し直してください。 残りは、何とかします」
そういうなり、アリアの足元に魔方陣が現れる。
彼女の周りに風が巻き起こり、杖を空に向けるとそこから緑色の閃光が立つ。そのまま空で各方向に散らばったかと思えば、ベールを被せるかのように光の膜で覆われた。
「"大いなる天よ"」
ベール全体に大きな魔法陣が浮かぶ。
「"この身に宿りし恩恵のままに 幾億もの星を降らせよ!"」
あちこちで光が弾ける様に発生する。
城の近くを飛んでいた魔獣に当たり、そのまま光の泡になり消えた。
アリアはきつく目をつむっていたが、やがて肩の力を抜く。
「…結界内の魔獣はある程度抑えました。町の魔獣も、冒険者だけで何とかなるはずです」
「張りなおしたというのか? セイディア様の範囲を!?」
魔術師たちの驚きの声にアリアは頷き、それから城へと目を向ける。
まだ煙を上げている城のてっぺんに、三つの影があった。
バーティノン、コリン、そして……セイディアだった。全員が気づき、目を瞠る。
セイディアは表情なく、どこか濁った眼でこちらを見ていた。
「なるほど…」
バーティノンが大きく瞳を見開いたまま口元に笑みを浮かべた。
「似ているとは思っていた」
「…師匠に何をした」
「それほどまでの魔術を使える人間は限られている」
「答えろ!」
怒鳴りつけると、それでもくっくっと楽しげに笑う。
「"相変わらず"情緒に欠ける態度だな」
「あんたは…いったい」
「君の師ならば安心すればいい。少しばかり抵抗されたのでな。大人しくしてもらっただけだ」
そう言いながら自身の指輪を撫でる。
アリアはその仕草に見覚えがあった。
いや、あるのは「以前の自分」だったが。
ざわり、と全身の毛穴が開くような感覚だった。
「……っ 、ロキディウス…!」
「ようやく思い出してくれたか、"聖天の魔術師"よ」
見かけは違う。
だが今感じる彼の雰囲気は、かつて命を投げ捨ててまで倒した敵のものだった。
「なぜお前が存在している」
「おや、それはお互い様だろう。とはいっても、私の場合は苦しみ絶望を味わった上のものだったがな」
「お前はあの時、消滅させたはずだ」
「さよう。だが、決して消えぬ思念は残った。それは私に再び命を与えた」
びりびりとした殺気に、警戒していた兵たちも体を硬直させる。
アリアは「芝居臭い。茶番はやめろ」と吐き捨てるように言う。
「今度はいったいなにをしでかすつもりだ?」
「変わらんさ。最終的な目的はな」
「…ロキディウス、いや…バーティノン」
冷徹な表情を向け、アリアは眉を顰める。
「おまえがあの頃と同じことをするというのなら、わかっているだろ」
「…今回も、敵になるというわけか? だが状況が違う。私があの時のままの力で留まっていると思っているのならば、見くびりすぎだ」
「確かにね。結界をすり抜けたり、禁魔法を容易く使ったり、一筋縄ではいかないことくらい私だって気付いている」
バーティノンが愉快そうに口元を歪める。
恐らく、今回の肉体が持つ魔力属性やもともとの力も関係しているのだろう。
確実に力は強まっている。
「これから楽しくなってくるところだ。出演者は出番が来るまで待機するべきだろう」
「…拒否する、と答えたら?」
「その時は残念だが、他の出演者たちにも退場いただくしかない」
つまりその出演者と称した者たちの命はないということだろう。
拳を握るアリアに、「舞台はこちらで決めている」と続けた。
「北に来るが良い、英雄殿」
「……トルダタか」
「君の師は、丁重に預からせてもらうさ」
バーティノンの指輪が光ったかと思うと、三人はその場から消えていた。
全員が沈黙する中、アリアは背に剣を収め杖を消す。
それから振り返り、王に視線を向けた。
「北に向かう」
「アリア…」
「時期が早まったが、許可はすでに得ているはずだ」
普段とは違う口調に、王は思わず口ごもる。
今目の前にいるのは、セイディアの弟子であるアリアではない。
かつて世界を救った「英雄」だ。
王はやがて、静かに頷く。
それを肯定と取り、アリアは再び三人が消えた場所を見上げた。
「師匠……」
小さく呟いた名は、風によってかき消された。




