町の再建
タドミールの町では、大きな変化が起きていた。
それは、数か月前の「領主の追放」により始まった。
「西通りは全部チェックし終わったぞ」
「東も同様に」
「南も確認しました」
「北通りも問題ありません」
「了解。 では、以上を持って、全建築物の修復を完了とします!」
その言葉で、町の広間に集まっていた者たちが歓声を上げる。
中には抱き合ったり、涙を流して喜んでいる者がいる。
アリアはその様子に笑みを向け、「ラマ」と青年を呼ぶ。
「これが住民の名簿です。以前の住居通りにはなっていますので、不備がある家があったら報告してください」
「わかった」
あの日、魔獣の襲撃により破壊された民家や店は完全に建て直され、仮住まいに暮らしていた者たちもやっと自分の家があった場所に帰れるのだ。
ヴァーリアン家の隠し財産は、これでもまだ半分残っている。どれだけ荒稼ぎしていたのか、今となっては呆れてしまうほどだ。
タドミールは、町の者が中心となっていい環境に生まれ変わりつつあった。
潰された店も、希望者がいれば商業許可を出し、再び他の町との流通ルートが繋がる。元々、タドミールは美食の町だ。食材さえ手に入れば、賑わうのも当たり前の事。
それからアリアは、町の警備隊長であるフィラカスに声をかける。
「これからコルムに行き、城にも足を延ばします。何かあれば、いつもの方法で」
「了解しました」
フィラカスが敬礼する。
いつもの方法とは、ギルドに用意してある「伝書魔法」である。
メモ用紙に魔法をかけているので、そこに用を書いて燃やせば、アリアの元に転送されるようになっている。町には冒険者以外に魔術師はいないため、アリアが町の外に出た時すぐに連絡がとれないのでこういう手段をとった。
ちなみにギルドにも人員が補充され、新しい副長も来たのでその座を降りた。町の管理でそれどころではなかったのも理由の一つだ。
「お嬢さん、コルムに行くならアルドラさんに伝言してもらえるか?」
「いいですよ」
「この間見せてくれた剣、やっぱりほしいって」
少し恥ずかしそうに告げる。
コルムの町とは、いい関係を築いていた。むこうのギルド支部も完成し、冒険者の登録も順調に行われていた。先日、町との交流の際に「こういう武器も扱うことにした」と何本か見本として持ってきた剣を、ラマは気に入ったようだ。
彼自身、現在町の警備隊に入ろうと訓練を行っている。
アリアは了承し、ローザたちに出発したと伝えてもらえるよう頼んだ。
ヴァーリアン家に尽くしていた使用人たちは、一部は里帰りしたがそのまま残り、町の立て直しをするアリアのサポートに回っている。
もちろんローザも、そのまま屋敷に留まり、子供たちも近いうちにタドミールに移り住み仕事を探すらしい。
馬で少しかければ、数刻してコルムに着く。
町の中に入ると、兵たちがアリアに気付き敬礼をしてくる。
「こんにちは。アルドラ様はいますか?」
「はっ、役所におります」
「ありがとう」
馬を途中小屋に預け、アリアは役所に向かった。
役所の中に入ると、すぐにアルドラが見つかった。その隣には、領主であるヴォルトの姿も見られる。むこうもアリアに気付くと、「やあ」と片手を上げる。
「アリア殿、よく来たね」
「ヴォルト様、先日は町への援助ありがとうございました」
町の再建の協力だけではなく、商人を通じてタドミールの物流が良くなるようにと、尽力してもらっているのだ。ヴォルトは「私に出来そうな事だったからね」と笑みを浮かべる。
「町はどうだい? しばらく見に行ってないが」
「おかげさまで、本日建物の修復が完了しました」
「それはよかった! 町の者たちも、落ち着いて生活できることだろう」
応接室に招かれ、アリアはアルドラに口を開く。
「アルドラさん、この間持ってきた剣をひとつ売って頂けませんか?」
「ああ、あの青年か?」
「はい。アルドラさんが見せてくれた剣が気になっていたようです」
「すぐに準備させ、次回町に持っていこう」
「お願いします」
それから現在、ギルドの顧問役となっているアルドラが、コルムギルドの現状を伝え、アリアもそれに対し助言をしている。とはいえ、彼が見ているのだから問題はほとんどないだろう。あとは、冒険者に良い者が多いのを祈るだけだ。
「コルムもだいぶ賑わいましたね」
「ああ、周辺の村に臨時の馬車を出すことにした。老人や子供が多いし、その方が気軽に町に来れるだろう」
ヴォルトはちゃんと村にも目を向け、改善すべき点を明確にしていたらしい。
笑いながら「魔術師殿を怒らせたくはないからね」と言う。
アリアはこれから城に向かうことを告げ、ルーナたちがいるエニス村にも立ち寄ることを話した。見送りに来てくれた二人に、アリアは笑む。
「初めてこの町に来た時、村の者たちの前でヴォルト様に誓わせましたね」
「ああ、間違いを起こさぬようにと」
「実は契約の魔法なんてかけてないんですよ」
その言葉に、ヴォルトは目を丸くする。
「魔方陣はただのフェイクです。いかにも、魔法による契約が行われたと見せるために」
「……それでは、私が間違いを起こしたらすぐにわかるというのは」
「あら。私はあなたが間違いを起こすとは思いませんでしたもん。必要ないことは、面倒なのでしませんよ」
にっこり言うアリアに、二人は気が抜けたような顔をしていたが、やがて笑い出す。アルドラも珍しく声を出して笑っていた。
「ですから、私の存在に左右されないよう、これからもご自分を信じ町を治めてください。あなたなら、もう大丈夫です」
「 そうしよう」
求められた握手に応じ、アリアは馬に乗ってコルムを出た。
その後ろ姿を見つめ、ヴォルトは「アルドラ」と声をかける。
「私は、以前自分のしていたことが間違いだと気づかされ、それを教えてくれた彼女に恥じぬようにと、今日まで来た」
「…ええ」
「だが彼女は、初めから私を信じてくれていたのだな」
どこか泣きそうな震える声で、ヴォルトはアリアが行った道を見続ける。
アルドラは少しの間の後に、再び「ええ」としっかり返事をした。
改めて、魔術師の少女が領主に、この町に、大きな影響を与えたのか知ることとなった。
「アリア!」
「ルーナ、久しぶり」
エニス村に着くと、ルーナが駆け寄って抱き付いてきた。
自分よりまだ背丈の低い彼女を受け止める。
「これからモールドに向かうから、顔を見ていこうと思って」
「嬉しい! ねえ、うちに寄って行って。ばばさまも会いたがってるわ」
アリアの手を引きながら、村の中を通る。
村には男手が戻ったおかげで、以前よりはずいぶんと過ごしやすそうに見えた。もちろん、裕福とはいえないが生活していくには事足りる環境を得ているようだ。
ルーナの家に着くと、トムと両親、それから村で一番の長老、ばばさまが迎えてくれる。老人が一人ではなにかと大変だということで、ルーナの家で一緒に住むことになったらしい。
「おやおや、魔術師のお嬢ちゃん。久しぶりだねぇ」
「ばばさま、お元気そうでよかったです」
「聞いて、アリア。トムったら、剣士になるっていうのよ」
椅子に座るな否や、ルーナが呆れたように言う。
「いいことじゃない」
「でも、この子運動音痴だもの」
「修行すればなれるもん!」
姉に弱点を告げられ、むきになるトムは「お客さんの前で」と母親に叱られている。
その様子を見て、アリアは口を開く。
「トムはまだ小さいから、今から修行していけばきっと強くなれる」
「ほんと!?」
「もう、アリアは甘やかす~」
「でもね、強くなったからといって本当の剣士になれるわけではないんだよ」
アリアはきょとんするトムに、しっかりと目を合わせる。
「剣士に強さは必要。けれど、もっと大切なのは、決して折れない勇気と決意なの」
「ゆうきと、けつい?」
「正しいことをつらぬく勇気と、どんな場面でも守り抜く決意。トムは、剣士になって村の人たちを守りたいんでしょう?」
「うん」
「だったら、強くなる事だけにこだわっちゃだめだよ。勇気と決意がなかったら、本物の剣士とはいえない。だって、すごく強くても悪い人だっているでしょう?」
それにはルーナも頷いた。
この村を襲ったのは、まさに強い悪者だったのだから。
「もう少し大きくなったら、コルムのアルドラさんに剣術を教えてもらうように頼んであげるよ。トムが、心から剣士になりたいのであれば」
「なる! ぼく、絶対剣士になる!」
目を輝かせる弟に、ルーナは否定の言葉は返さなかった。
じっと、アリアを見つめる。
「…アリア、私もね。私も、ばばさまから薬草のこと習おうと思っているの」
「そうだったの? ルーナは頭もいいから、きっと飲みこめるよ」
「わしもこの年だ。ルーナがそういってくれて嬉しいんだよ」
ばばさまが目を細めながら言う。
ルーナは「なれる、かな」と自信なさげに呟く。
「ルーナ、最初は誰だって不安だよ。けれど、積み重ねていけばきっと大切な時に、それはルーナの武器になる」
「うん… そうよね。トムの事、馬鹿になんてしてられないわ」
この姉弟のいいところは、素直に受け入れられるところだ。
両親もそんな二人を見て、誇らしげな目をしている。
アリアはそこで、ばばさまに相談を持ちかけた。
「ばばさま、ひとつ聞きたいことがあったのです」
「わしに答えられればいいのじゃが」
「魔法薬の効果を軽減する薬草に、心当たりはありませんか?」
「ふむ…ちなみにどのような薬に対してかね?」
「幻覚異常、精神異常…というものです。魔法で相殺するには、それを摂取した者に反動がありそうで、できれば体内から副作用がないよう治療したいのですが」
密輸された魔法違法薬の調和剤だ。
あくまで、魔法薬として体に摂取したもの。強制的に反対魔法をかけたところで、逆に悪化させる恐れがある。
町の者も多くはないが、元伯爵が密輸した薬に手を染めていた。
多くの領民たちが立ち直る中、病に伏せたように気力のない人々が目につく。
「ずいぶんと、緊迫しているようじゃな」
「中毒になっている者たちが多くて、時々暴れたりしているんです」
「精神安定や鎮痛効果のある薬草を取り入れるのが筋じゃが…強い薬草だからのぅ。副作用は出てしまうかもしれん」
「やはりそうですか…」
「副作用の低さから選ぶとなれば、長期の治療になるじゃろう」
ばばさまは、それでもいくつか効果のありそうな薬草を教えて、小瓶に少量ずつくれた。アリアは礼をいい、それを鞄にしまう。
ふとルーナが「その違法薬って、本来の薬に魔法をかけたのよね」と聞いてきた。
「うん。出来上がった薬にさらに魔法の効果を浸透させていると聞いたよ」
「だったら、その治療薬もおんなじようにはできないの?」
アリアとばばさまがルーナを見つめる。
ルーナは変なことを言ったかと、「え? え?」と慌てるが、アリアが「それだ!」と手を握ってきたのでさらに驚く。
「ルーナ、天才!」
「え?」
「確かに、魔法や薬草を単体で扱おうとするから、悩むのであって、ふたつ合わせてしまえばいいことじゃな」
「魔法で解毒するか、薬草で治療するかしか考えてなかった! ありがとう、ルーナ! 城の魔法士に相談してみる!」
ルーナは役に立てたことに気付き、「うん!」と笑顔で返事をする。
アリアは慌ただしく礼を告げ、また来ることを約束して馬に飛び乗った。それから勢いよく走らせると、モールドに向かっていくのだった。
「シーラフォン殿!」
城の門の兵に入城を許可されるな否や、アリアは魔法士の研究室に飛び込んだ。
中にいた魔法士たちは、驚いて挙動不審になる。ぼふんっと鍋の中で小さな爆発が起こり、紫色の煙がたった。
名を呼ばれた魔法士のシーラフォンは、鼻の上の眼鏡を押し上げながら「アリア殿?」と目を丸くする。
「珍しいですね。いつもは逃げているというのに…」
「調べてほしいことがあるのです! 人体に悪影響を与えず、薬草と治療効果のある魔法の調合方法を!」
ほう? とシーラフォンは興味深げに身を乗り出した。
「もしや、例の解毒薬の件ですかな?」
「そうです。私、薬草と魔法を別物として考えていたのですが、友人から助言を頂きふたつ合わせて作ってみたいのです」
「なるほど、面白そうだ」
だが、タダで引き受けてくれるとは思わない。
アリアはもちろん、取引材料を持っていた。
「シーラフォン殿が今研究している題材は、確か"魔法陣の形成について"でしたね。魔術師たちが魔法で作り上げた魔法陣を視覚化し、魔力のない者が使えるようにするにはどうするか」
「さよう」
「今回の件を引き受けてくれるのならば、いくつか民間利用できそうな魔法陣を提供することは可能ですが」
魔法陣は本来、魔術師たちが魔力を使って自分たちにもわかりやすいように"図式"にしている。魔術師ではない魔法士たちは、それを手で書き起こしているのだが、城とトゥーラスを結ぶ移転魔法のように、継続的に使う魔方陣に関しては、印としてその場に刻み込むことが可能だ。
些細な違いや図式を手書きで再現するには、かなりの時間がかかる。
しかし、アリアが例えば紙に魔方陣の図式を移しこめば、それは一瞬のことだ。しかも、僅かながら魔力が宿る。シーラフォンの目がきらりと光った。
「よろしい。応じましょう」
「知人より候補として薬草を少しもらいました。これで試してみてください」
報酬は、ある程度の効果が確認されてからということで。
俄然やる気を出した魔法士たちを確認し、アリアは研究室を出て続いて城の魔術師の元へと向かう。現在、国に登録している魔術師は百人にも満たない。だが、国に認められた魔術師たちの多くは、少人数ながら優秀なものが多いのだ。
魔法士同様に、アリアは魔術師たちにも取引を投げかけ、魔法士たちと合同で研究してほしいと伝える。ちなみに取引内容は、アリアが独自に生み出した魔法の伝授である。各属性に合わせた魔法なので、魔術師全体が協力的な姿勢となるだろう。
もちろん、城の仕事を優先的にしてもらって構わない。
彼らの手が回らないのならば、自分が率先して協力すべきなのだから。
とりあえず方向性が見えてきたので、アリアは少し安堵してようやく王の元に向かった。
「アリアか。先ほど城内入りしたとは聞いていたが」
「挨拶が遅れて申し訳ありません。少々、急ぎの用事があったもので」
王の間に行くと、王は「構わない」と苦笑いする。
アリアは魔法違法薬の件を報告し、その他町での復旧作業が完了したことを告げた。
「そうか。それならばよかった。治療薬についても、私が許可しよう」
「ありがとうございます」
「それとオーシャルン国より、学院に入れたエバンナ・ヴァーリアンの報告があがっている。どうやら、彼女に対し周りの者がいい態度をしていないようだ」
ヴァーリアン家没落はオーシャルン国にももちろん広まっている。
そしてヴァーリアン夫妻が平民へと身分を落とされ、山中にある牢獄に投じられたことも知れ渡った事実だ。
「わかりました。一度様子を見に伺います」
「そなたも色々と大変であろう。城から遣いを出してもいいが」
「いえ、一応は身内だった者です。処罰内容も私が下したこと。責任を持って確認しに参ります」
疲れているのは事実だ。
正直、ここしばらく睡眠を削っている。
だが建物の復興が完了したのはひとつ肩の荷がおりた。
もちろん、気を抜くわけではないが。
アリアは少し考え、困ったように笑う。
「ですが、私も一人で領地を治めるのは少し体が足りません。町を留守にする場合もありますし、協力者を募集しようかと思っているのですが」
「領主となれそうな人物を探すのか?」
「いいえ、将来領主の右腕になれる者でも育てたいと考えています」
そこでカイルが部屋に入ってきた。アリアを見ると「来ていたのか」と笑みを向ける。
「セイディアと、そろそろ来るかと話していたんだ」
「久しぶりです、お父さま」
「…まだアリアがカイルを父と呼ぶのは違和感があるな」
それもそうだ。
実の親子ではあるが、四年も知らずに接していたのだから。
もちろん、変わったのは呼び方だけである。基本的に、態度は何も変えていない。
「カイル、いまアリアとも話していたのだが、タドミール領にふさわしい人物に心当たりはないだろうか?」
「領主ですか?」
「いや、右腕を彼女は希望している」
「少しずつ落とし込みをしたいのです」
カイルはしばらく考えていたが、「それならば」と口を開く。
「条件を絞って募集したほうがいいかもしれません」
「条件ですか?」
「長男は跡継ぎとして確定されている。だから、次男や三男ならば就職先を望む者も多いだろう。私も知人には当たってみるが」
「なるほど」
長男以外の男兄弟は、たいてい兄の補佐をするか城の兵を目指す。しかしそれでもこぼれてしまった者たちは、護衛や補佐官として他の貴族につく場合が多い。中には個人で事業を立ち上げる者もいるだろう。基本、言ってしまえば長男以外は自分の働く場所を自由に選ぶことができる。
「では、後ほど必要項目を上げ提出しますので、配布して頂いていいですか?」
「アリア、細かく条件を上げる必要があるからね」
「…なぜ?」
「そなたへの縁談が山のように送られている。募集にもそういう者たちが混ざる可能性が高いのだよ」
アリアは呆れた顔をする。
私に縁談申し込むとか、趣味が悪いな。
だが自分に対しての純粋な申込みではないのだろう。ヴァーリアン家の騒動で、アリアがカイルの娘だということが公になり、取り入るために申し込んできたというだけの話だ。アリアの考えていることがわかったのか、二人は溜息をついた。
「アリアよ…そなたが今、国中でなんと噂されているか知っているのかね?」
「さあ…私はほとんどをタドミールで走り回っていたので。自分の噂も、興味はありませんし」
「悲劇の幼少時代を過ごし、健気にも領民を守るため耐え忍んだ、美しき少女 だ」
「………誰ですか、それ」
美化にもほどがある。黒歴史が増えてしまった。
「それが傍観者の感想だ」と王が続ける。
もちろん魔術師としてのアリアの噂もあるわけだが、それを踏まえたうえで縁談がきているという。あまりにも多いので、城でも処理に困っているようだ。
「私は結婚する予定は立ててないのですが…」
「保護者もそういっているが、カイルとて全てを拒否できるものでもない」
「そうですよねぇ…」
「ただ、そなたはクローネス公爵家の孫でもある。無理に話を突き通すことも、周りの貴族はできん。だからこそ、城に縁談が持ち込まれているのだ」
これでクローネス家と血の繋がりがなければ、爵位の高い者の縁談をカイルも断ることはできなかっただろう。自分の立場が、ずいぶんと危なげになっている。
「では、私の結婚相手に関する条件も配布しましょうか」
「…結婚する気はないのだろう?」
「はい。ですから、私はこう述べます」
アリアはにこりとした。
「私を妻にしたいのならば、私より強い者とします」
「……いると思うのか、そなたより強い者が今の時点で」
「さあ。世界は広いですからね。楽しみに待っていますよ」
では失礼いたします、とアリアはローブを軽くつまみ王の間を出た。
後日、領主の側近募集の通達と共に、アリア・パードレ嬢の結婚相手への条件が共に発表され、ちょっとした騒ぎになることを彼らはまだ知らない。




