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実家騒動





「冬が短いってのも、物足りないなぁ」


アリアは、ここ数日ですっかり溶けてしまった雪を見ながら呟いた。

この世界の天候はアンバランスだ。

東西南北に別れているにも関わらず、どちらかというと東寄りなのにこの国は基本的に暖かく、そして寒い時期が少ない。かと思えば、今は南の国が猛吹雪だという。

いうなれば、異常気象のようなものが常に起きている、とでも思えばいいのだろうか。

風はまだ冷たいが、そこまでの防寒着はもう必要ないほどに、国の気温は上がっていた。

ローブを羽織り直し、後ろ髪を束ねている飾りを落としていないか確認する。ターコイズブルーの皮ひもに小さな石がいくつか下がっているそれは、先日の自分の誕生日にセイディアからもらったもので、防衛効果があがる優れものである。ドレスを送ると言っていたが、結局は実用的な物に目を留めたらしい。

ドレスを贈ってくれたのはカイルで、宿屋には普段着の服が数着だったが、他は城で預かっているよ、と言われた。近いうちに行って、礼を言いがてらお披露目しなくてはならないだろう。

誕生日という特別な日を、アリアはあまり重要視していなかった。もちろん祝われれば嬉しいが、プレゼントをもらうというのは少し恐縮してしまう。

カイルの贈り物と一緒に、ウィーリアンたちからのプレゼントも届いていた。ウィーリアンはまあわかるが、フィネガンとシルヴィンまでくれるとは思っていなかったので、少し驚いた。ウィーリアンからは小さな星のついたネックレス、フィネガンとシルヴィンは折半したらしく羽ペンときれいに染められた紙の便箋セットをもらった。

それぞれに礼の手紙を書き、アリアの手帳には祝い返すため、彼らの誕生日の書付が増えていった。

この国の人達が実にまめであるがために、自分もそうならねばいけないプレッシャーと常に戦っているアリアだった。


十四歳になったが、基本的に何も変わらない。

白金ランクの依頼を受けながら、支部長の手伝いをしている日々である。どうやら以前で味をしめたらしく、たまに妻であるメリアヌと出かけるから、とアリアに決定権をぽいっと投げつけて行くことが増えた。ラロッドによると、副長が辞めてから一度も休んでいないので、ようやく息を付けるようになったのだろう、と肩を竦て笑っていた。それを聞いては断るのも申し訳ないし、支部長は家族サービスをすべきだと思うので、アリアも協力的ではあった。


何はともあれ、アリアがセイディアの家から出て、一年が経とうとしている。






「お、アリア。客だぜ」


昼にダリと宿屋に帰ると、常連のジーサがカウンター席でひらひら手を振っている。アリアはその隣に座っている人物を見て、思わず笑みが引きつった。


「やあ、アリア殿。見ないうちに背が伸びたかい?」

「……何してらっしゃるんですか、セガール様」


アリアの問いかけに「この店の客と食事を共にしていたが?」と何のことなさげに返す。畏まった口調と、国の第一王子と同じ名を聞き、場は凍り付いた。


「なっ 、せ、セガール様って、 え」

「…っ 王子様!?」

「隠していたのに、ばれてしまったではないか」

「バレるとかそういう問題じゃありませんよ。護衛は?」


つまらなさそうに漏らすセガールに溜息をつきながら聞くと「自由にさせている」と眩暈がしそうな答えをつきつけられる。とはいえ、さすがに視界に見えなくても隠れて守護するものはいるらしい。それらしき気配がする方向をちらりと見れば、「さすがだ」とセガールは笑う。ざわざわと、次々に床に手をつく者たちには「今日はお忍びだ。そういうのはやめてくれないか」と制した。


「あなたがこういう場に出るから騒ぎになるんですよ」

「近くの町に視察しに来ててね。ついでだし、君のところに寄ってみた」

「そうですか…」

「後ろがダリだな? ウィーリアンの兄だ。よろしくたのむ」

「…ああ」


自由だな、この第一王子。

頭も切れるし油断できない人物なのだが、ついでに寄ったのは本当だろう。そういう嘘はつかない人物だと接してきた中で知っていた。だがその「ついで」こそが面倒事の前触れであるということも悟っている。


「時に、ウィーリアンから便りがきているだろう?」

「ええ、モールドの学院にしばらく通うと」

「どうやらご令嬢たちに押しかけられて、ずいぶん困っているみたいなんだ」


第二王子で優しい顔立ちのウィーリアンだ。女の子たちは騒ぐだろう。シルヴィンやフィネガンもついているのに困っている? と首を傾げれば、どうやら彼らもその困らされる方の人間らしい。

座りなさい、と隣の席を指さされ、ジーサが譲ってくれたので腰を下ろす。おかみさんに二人分の飲み物を頼むと、「いいのかねぇ、こんな宿屋の食べ物を口にされて…」とさすがに恐れ多いのか、伺いを立てる。


「他の町の宿屋の食事より、ずいぶんと美味しいよ。アリア殿がここに拠点を決めたのも頷ける。食事だけではなく、店主も客も人柄がよい」


セガールが微笑みながら言うと、おかみさんはほっとしたように紅茶を出してくれた。


「それで、困っているからどうしろと?」

「女の子が間に入れば少しは緩和するだろう」

「そうでしょうね。平面上は。全ての矛先が私に向くくらいです」

「ならば問題ない。君は、誰だ?」

「ひどいですね、セガール様。私のようなかよわい子供を、女たちの目を伏せたくなるようなドロドロの戦いに巻き込むおつもりですか」


きっぱり言いのけると、「かよわいか…」と小さく呟かれる。様々なところで暴れた結果、彼の中ではすでに「かよわい」部類には入れてもらえないらしい。


「ならば、様子だけ見に行かないか? 私もちょうど、婚約者を迎えにいく予定がある」

「ご婚約されてたんですか?」

「ああ。今日で学院を卒業することになってね」


というと、相手は十七歳か。おめでとうございます、と祝いの言葉を向けると、ありがとう、と嬉しそうにする。ちなみに、アリアが初めて行った夜会でダンスパートナーにしていた、あの女性のようだ。


「しばらくモールドには帰ってないのだろう?」

「そうですね…  では、護衛としてお付き合いいたします、殿下」


どうやら断ることは難しそうだ。

ダリはどうする? と聞くと、依頼をいくつか受ける予定がある、と留守番を申し出た。街には全く興味がないらしい。まあ、学院にダリのような大きな人物が現れても、それはそれで騒ぎになるだろう。ギルド内だから違和感がないだけで、かなり悪目立ちする。

アリアがトゥーラスに来るために通った道ではなく、山の中の細道を行くらしい。その方が距離を短縮でき、馬だと半日で着くらしい。数日アリアがかかったのは、徒歩だったせいもあるし、問題に巻き込まれたからだ。

セガールもアリアが馬に乗れるか心配したが、カイルに乗馬を習わされていたので特に問題はない。セガールの護衛もようやく顔を出し、三人で出発することとなった。

護衛の名はローディーと言い、セガールよりひとまわり上で、城の兵には属していないが戦闘能力は高いらしい。主に隠れながら行動するので、密偵、影、と言った方が近いのかもしれない。


「ローディーは、私が学院に入る頃に出会ってね。なんとか口説き落としたんだ」

「では、城の兵というわけではないんですね」

「ああ、あくまで私の傍仕えだ。父上の許可は得ているし、公式な場では正装させているよ」


ローディーは不愛想な男だったが、セガールが信頼を置くのも頷けそうな雰囲気を持っていた。まず隙がない。試しに軽く殺気を飛ばしてみると、ぴくり とこちらにようやく目を向けてきた。少々驚いた顔をしている。


「…さすがに英雄だというのは、セガールの戯言だとばかり思っていたが」

「戯言とは失礼だな。私は嘘は言わない」

「嘘は言わなくとも、俺をからかうくらいはいつもしているだろ」


大変仲がよろしそうだ。

孤児として暮らし、そのまま大人になったローディーは、殺しや汚い仕事についていたらしい。その現場を視察中のセガールが見つけ、どうにか自分の下につかせたいと頑張ったようだ。王族だと知らなかったこともあり、ローディーは「ならばここら一体のガキどもをなんとかしろ」と、自分と同じように親や家のない子供の問題をつきつけてきたのだ。せいぜいいいとろこの坊ちゃんだ。どうせできるはずがないと。しかしセガールは一言「わかった」と告げ、一週間で大きな孤児院を作ったという。それが現在、モールドで一番大きな孤児院となっている。


「…豪快ですね、セガール様」

「ぐずぐずしていたら、逃げられると思ったからね」

「王子だと知らなかったのが運の尽きだ。知っていたらとっくに逃げた」


ちっ、と舌打ちをするローディーにセガールは声を上げて笑う。

そんなことを話しながら、薄暗くなる前にモールドの町に入ることができた。かなりの速さで馬を走らせていた計算になる。


「学院で小さなパーティを催しているらしい。そろそろ終わる頃だとは思うんだけどね」


セガールが入り口から入るので、ローディーは静かに消え、アリアだけが横についている。何度も来たことがあるのだろう、入り口の警備員はセガールに深く頭を下げ、中に通してくれる。黒いローブと剣を背にしているので、アリアの事も護衛だと認識したのだろう、止められはしなかった。

建物内に入り開き放しにされた大きな扉の奥は、まだにぎやかにわいわいとご令息、ご令嬢たちがダンスをしたり話し込んでいた。セガールが来た事に婚約者が気づき、ぱっと表情を明るくして近寄ってきた。


「セガール様」

「クロエ、少し早かったかな?」

「いいえ、そろそろお時間ですもの」

「ならよかった。 アリア殿、婚約者のクロエ・メリーソンだ」

「アリアと申します」


ちょこん、と礼をすると「まあ、ではあなたが?」と笑みを浮かべる。


「嬉しい! 颯々の魔術師さまにお会いしたかったのです。かわいらしい方だと町の噂で聞いていましたので」

「それは光栄です」


どんな噂が広まっているのか恐ろしくて聞けなかった。

ふと遠くに顔を向けると、ウィーリアンたちが女の子たちに囲まれているのが見えた。ウィーリアンは苦笑し、フィネガンは少し嬉しそうだが、シルヴィンの顔が明らかに苛立っている。ちらりとセガールを見ると、無言で頷かれた。

はあ… と溜息をつき、アリアは「少し失礼します」と歩き出す。

アリアが進んでいくと、周りの目が集まってきた。

黒いローブ姿は、この祝いの席では場違いだろう。

すると三人がアリアの姿をとらえ、驚いたような表情をする。


「ウィーリアン王子、そろそろ城へ戻るお時間ですが、いかがなされますか?」

「 あぁ  、うん。戻ろう。すまないが、またの機会にしてくれるかい?」

「まあ、ウィーリアン様! そんなことおっしゃらないでください!」

「もう少しくらいよろしいじゃないですか!」


おおう…女の子は怖いな…。

じろりと集団に睨まれながら、アリアもさすがに腰が引けそうになる。

だが早く面倒なことは済ませたいので、何とか気を取り直し、ご令嬢たちに上品な笑みを向ける。まだあどけなさの残る表情なのに、どこか大人のような雰囲気に令嬢たちは息を呑んで口を噤んだ。


「王子? 行くのですか?」

「  ああ」


静かになったので再び聞くと、ウィーリアンが頷き「では、また」とアリアの元に向かう。フィネガンとシルヴィンもそれに続いた。


「… 兄上が連れて来たのかい?」

「婚約者様を迎えにくるというので、その護衛に。あと、ウィーリアンたちがご令嬢の波に押し寄せられていると言われましたので」


何かいうことは? と首を傾げれば、それぞれが礼を言ってきた。


「それにしても学院って、こういうこともするんですね。ドレス着て、夜会みたい」

「貴族たちの集まりだからね、仕方ないさ」

「今日は城に戻るのか? アリア殿」

「せっかく来たので、師匠たちにも会っていきます」


セガールに挨拶をして帰ろうとした時だった。

アリアは強い視線を感じ振り向く。

目が合ったのは、一人の女の子だった。アリアより、一つ二つは上だろう。

驚きで目が見開かれている。


ああ、失念していた。


一瞬焦りはしたが、それももう手遅れなのでその感情を投げることにする。

さすがにセガールが、知ってこの場に呼んだとは思えない。

ウィーリアンたちがアリアが立ち止まったので不思議そうにしている。女の子を見て、「知り合いかい?」と聞いてきた。

アリアは、ふいっと顔を背け「…さあ?」と呟く。


「…すごい睨まれているが? アリア」

「知りません。私は何も知りません」


フィネガンの言う通り、女の子――義姉のエバンナはすごい剣幕でアリアを睨みつけていた。溜息をつきエバンナに視線を戻すと、エバンナはこわばった顔のまま、人だかりに消えていく。


「  馬で駆けてきたので、少し疲れました」

「アリア…?」

「城に着いたら、王にも報告しますので聞いてください」


話は確実に父の耳に入る。

そうなれば時間の問題だ。

ウィーリアンもしばし考えていたが、それ以上は言わずにアリアの手を取り歩き出した。セガールとクロエに挨拶をして、学院から四人で出ていく。

ウィーリアンが待たせていた馬車に乗り込み、城へと向かい始めた。

アリアは城についても無言のまま、王の間に向かう。後ろを戸惑った様子で三人がついてくるが、思った以上に心が落ち着かず気にしていられなかった。

扉を守る兵に王の取次をしてもらい、中に入るとカイルとセイディアがちょうどいた。


「アリアか。ウィーリアンたちと一緒だったのか?」

「お久しぶりでございます。セガール様にトゥーラスで会いまして、そのまま学院に行って参りました」


頭を下げ挨拶をする。

上げるように言われたのでそれに従い、アリアは困ったように笑った。

「面倒なお知らせがあります」と告げると、セイディアとカイルの顔が「またか…」というようにアリアを見る。


「今度は何をした、馬鹿弟子が」

「失礼ですね。してませんよ、まだ」

「まだ、か…」

「……学院で、予定より早く見つかりました」


その言葉に反応したのは、やはり保護者の二人のみ。王が「見つかった?」と疑問の声を向ける。


「王、私の家名をご存じですよね?」

「…  ああ、そういうことか」

「アリア、どういうことだい? さっきの令嬢が関係してるのだろうか? 確か、ヴァーリアン家のご令嬢だったと思うけれど…」

「  私は十歳の時、カイルさんと師匠について家を出ました。言葉の通り、家出をしたんです」


そこまで言うと、気づいたのか驚いたようにアリアを見る。


「私は本来、アリア・ヴァーリアンと申します。先ほどの子は、義理の姉です」

「義理…」

「私の母が亡くなった後、後妻として嫁いできた者の子ですから」

「ならばすぐに、伯爵に話が行くだろうな」

「ええ、ですから問い合わせが城に来ると思うので、王にも話をしておこうと」


正直、予定が少し早まってしまった。

あと一年は猶予があるのだと思っていたが、覚悟はしていたので今更逃げることは出来ない。というより、アリアがではなくヴァーリアン家が、という意味でだが。


「アリアよ、私はセイディアよりその辺の話は詳しく聞いていない。四年前も、弟子をとるということで素性を調べただけで、ヴァーリアン家の娘であり、いずれ家を潰す計画を企てている…ということくらいしか把握していないのだよ」

「そうなんですか。えーと… 師匠、なんでしたっけ。私の当時の噂は…」

「愛しき妻を亡くした領主は、瓜二つの娘を屋敷に閉じ込めている というものだ」

「ああ、それで愛しきは不要です、と答えたんでしたっけ」


そうだそうだ、思い出した。


「十歳になるまで、私は家族から冷遇されていました。病弱だと周りに言いふらされ、屋敷から出ることを許されずにいたのです」

「…あの領主はあまりいい噂を聞いていなかったが、そのような事をしていたのか」

「幸い、使用人たちにいい人が多かったので、普段の生活も、食事もある程度は与えられてましたが」

「待って。体型が細いとは思っていたが、ある程度とはどの程度だい?」


カイルが珍しく眉を顰めて聞いてきた。

アリアは「…基本、一日一食くらいでしょうか?」と答えると、その眼に怒りが宿っている。


「あ、いえ! 使用人に食事はこっそり運んでもらっていたので、飢えていたわけではありませんよ!? 」

「その話をなぜ初めにしなかったんだい?」

「え…だって、お腹そこまで空いてなかったし…」


ささやかながら、おやつを持ってきてくれた時もある。豪華なものは食べたことはないが、栄養失調にならない程度は摂取できていた。家を出てからは今ではすっかりこの通り、太ってはいないが健康的な体型である。


「それで話を戻しますけど。正直子供だしお金もなかったので、すぐに家を出るのは無理だと思っていました。でも、ちょうどそこに二人が屋敷に現れたので、これを利用しようと」

「十歳で利用するとは… ああ、その頃は前世の記憶とやらが戻っていたのだったな?」

「はい。なので、どうにかなるかと。コネさえ作ってしまえば、タイミングをはかって家を出けるって。でもその前に、老侯爵を婚約者として宛がわれたので、我慢できず飛び出したんです」


保護者以外、目を見開いて驚いていた。そりゃそうだ。十歳のまだ適齢期ではない子供を、爺さんのところへ嫁に出すという親がおかしいのだ。


「…家に行くのかい?」

「まあ、一度は行かなくてはならないでしょうね」

「僕も付いていっていいだろうか?」


きょとん、とウィーリアンを見ると、心配そうな顔をしていた。

シルヴィンは、また彼の癖が出た…と言わんばかりに溜息をつく。


「君をそんな扱いをする家族の元に、一人で行かすのは不安だ」

「王子が屋敷にくるとか、領地全体がざわめくとは思いますが…」

「  そのまま家に戻るつもりはないのだな、アリアよ」


王が聞いてくるので頷くと、「ならば」と笑みを浮かべる。


「友人が見送りをしても、さほど問題にはなるまい。四年も音信不通の娘が、いまどのような立場にいるのか、ご家族も知りたいことだろう」

「王のそういうところを保護者二人が気に入ったんだな、とわかりました」


保護者も苦笑している。

どうやら、全面的に協力はしてくれるらしい。だがひとつだけ条件をつけた。

「国が納得するような結果を出すこと」

アリアは不敵に笑って「そのように」と答えた。


「アリア…本当にいいんだね?」

「もう、わかっているはずですよカイルさん。彼らにとって私が家族ではないように、私にとっても彼らは家族ではないのです」


最終確認をするカイルにアリアは静かに首を振る。


「私にとっての家族は、苦しくて辛い環境から連れ出してくれたカイルさんと師匠の他にいないのですから」


その言葉に、二人は少し面喰らったような顔をした。

本当のことだった。

狭い世界に、使用人だけが話し相手で。自分を疎ましく思う身内に、幼い頃はやはり心が痛んだものだった。あとになって開き直ってはいたが。


「だから私は、ヴァーリアン家には戻りません。私の居たい場所は、自分で決めます」


セイディアが不機嫌そうな顔をつくって「いっちょまえに…」と顔をそむけた。カイルはそんなセイディアを見て笑う。王やウィーリアンたちも、穏やかな空気に頬を緩ませた。




案の定、次の日にはヴァーリアン伯爵より伝達が届いた。

アリアの身分証明の照会だ。

数年前にいなくなった娘ではないのか、というものである。

王はそれを受け、本人であるという確認と共に領地へ送ると返事を返した。


(さぁて… 行きますかねぇ)


四年過ぎ、時は来た。

アリアは馬車に揺れながら、頬杖をし外を眺め笑みを浮かべた。










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