表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/62

ダリのギルド登録




ざわついた会場は落ち着きを取り戻した。

だが、アリアの実力を目にした者たちは、先ほどのようにダンスを申し込むため群がろうとはしなかった。

アリアはセイディアの元に戻り「援護ありがとうございます」と告げる。


「いらんことだったかもな。お前なら戦いながら防衛魔法くらい周りにかけられるだろう」

「フィネガンという人、剣はいい筋だったから集中したくて」

「あの息子は代わり者でな。強そうな相手を見つけたら挑まなくては気がすまんのだ」


以前はカルディアに戦いを挑み大目玉を喰らったそうだ。なるほど、だから王も慣れた風だったのか。

城の兵に志願しており、今は訓練生として通っているという。


「ディノン様、先程はダンスの途中で申し訳ありませんでした」

「…いえ、やはりお強いのですね。疑っていたわけではありませんが」


アリアの謝罪にディノンは戸惑ったように返事をする。


「わしもここまでとは思っておらんかったぞ…ルーフェン殿、いったいどういう修行をさせたのだ?」

「さあ、天性のものでしょう。特別なことはしてませんよ」


容赦のない人間が何を言う。

アリアは笑顔でセイディアを見る。セイディアの視線は明後日だ。

ターニア夫人に髪を整えてらっしゃい、と促されアリアは一度控室に戻った。メリッサが「どうされたんですか!」と乱れてしまった髪の毛を見て仰天したが「催し物で興奮してしまい…」と誤魔化す。メリッサは手際よく直してくれた。

再び戻るとセイディアは貴婦人に誘われフロアにいた。どうやら身分の高い相手だったので断れなかったらしい。顔が引きつっているがさすがはセイディア。それを見せぬよう笑みまで向け、相手の貴婦人はうっとりしている。

仕方ないのでひとりご馳走をつまんでいると、何人かが度胸試しとでもいうようにダンスを申し込んできたので、アリアは笑顔を向けそれを受け入れた。合間にミラーのところへ行くと「足がつりそう」と溜息をつく。彼女もダンスに誘われっぱなしだった。カーネリウスは自分には向いていないと感じたらしく、大人しく食事を堪能している。かわいいご令嬢に誘われるとあっさりフロアに立ったが。


「さっきから囁かれてるわよ」

「なにをですか?」

「女版ルーフェン様だって」

「私はあんなに愛想悪くないですよ?」


にっこりすると「さっきの無表情、乗り移ったかと思ったわ」と呆れた顔をされる。

まあ数年一緒にいれば似てくるものだろう。


「どう解釈されても問題ないですけどね。自分の目で確かめた上で近づいてくるのなら、正々堂々と立ち向かいましょう」

「ほんと恐れ入るわね、あなたには」


尻込みするようならそこまでだ。

こちらが合わせる必要はない。

最後にウィーリアンから再び誘われフロアに向かう。

多くの者がアリアという存在を知ることになったが、逆にアリアが記憶に残した者は少なかった。





「ダリ、お土産」


部屋に戻ると、相変わらず屋根の上にいるダリにでかい骨付き肉を投げてよこす。

ダリはそれを片手で受け取り「夜会とやらは終わったのか」と一口かぶりついた。彼の食事は一応用意してもらっていたが、足りないらしく自分で狩りにいくというので放っといた。それに城のメイドが怯えて近づくのをいやがったので仕方がない。

アリアは「やっとね」と答えヒールを脱ぎ椅子に座る。

タイミングよくメリッサが部屋に来て、ドレスを脱ぐのを手伝ってくれた。

湯あみを行い、寝巻に着替えメリッサがいなくなると再び窓から身を乗り出す。


「明日、トゥーラスに戻るから。(オーク)って冒険者登録できたっけ?」

「さあな」

「まあいいか。支部長に確認する。できなくても、私の依頼には付き合ってもらうけど」


まずは人間の暮らしに溶け込んでもらうところから始めるか、と骨をしゃぶるダリに思う。




「今日は有意義な一日じゃったよ」

「楽しんでもらえて何よりだ」


馬車を待つラッドル伯爵はセイディアに向けて意味ありげな笑みを浮かべる。


「しかし、厄介な弟子を持ったもんだな」

「弁解する気にもならん」

「あれは、もっと強くなるぞ。魔法に加え、剣を身に付けさせたのは考えあってか?」

「いや…剣は自分で選んだ」


アリアには剣の他にも学ばせた。どれも標準以上に上達したが、彼女が力を入れたのは剣術だった。

今まで手にしていなかったというのが不自然なほどに、それだけは一気に伸びを見せたのだ。


「何かの定めだろうかのう…かの英雄を彷彿とさせる」

「――昔話の英雄か」


片手に杖を、もう片手には剣を持ち、味方には背しか見せずに戦う。

かつての英雄の姿を連想したのは、伯爵だけではなかったはずだ、とセイディアは静かに思う。

かくいう自分も、我が弟子ながらそう錯覚してしまったのだから。


「なんにせよ、あのお嬢さんは気に入った。近々、また話をする機会を設けてくれ」

「伝えておく。あなたの兄の話は結局聞かせず仕舞いだったからな」


握手をして、伯爵は馬車に乗り込んだ。

それを見送り、セイディアは自分の部屋へと戻った。





次の日、王と妃への挨拶を終え、アリアはダリを連れて魔法陣のところまで来ていた。

カーネリウスとミラー、カイルとセイディアは当然のことながら、他にも数人城の者が見送りに来ている。


「では、また行ってきますね」

「体に気を付けるんだよ」


カイルのいつもの言葉に、アリアはくすりと笑って頷く。


「トゥーラスに戻ったらどうする?」

「まずはダリがギルドに登録できるかの確認ですね。一緒に行動するなら、身分証はあった方が色々と都合もいいので」

「お前は鬼まで冒険者にするつもりか…前代未聞だぞ」


セイディアは呆れながら笑う。

カーネリウスとミラーとも、モールドに戻ったらパーティを組もうと約束をする。

魔法を発動しようと陣に触れる前に、ウィーリアンが小走りでやってきたので中断した。


「良かった、間に合ったようだ」

「ウィーリアン王子」


息を切らすウィーリアンの後ろには、シルヴィンが変わらず溜息をつき付いてきていた。


「しばらくしたら僕もまたトゥーラスに戻るよ。少なくとも半年は滞在する予定だったからね」

「そうですか。 その時はもう少し怪しまれない恰好をして下さい」

「…ああ」


ウィーリアンは自分の恰好を見て苦笑した。


「それと、僕のことは呼び捨てで構わない。シルヴィンもそうさせたようだし」

「王子ですから」

「僕は君と友人として出会った。敬称は何も必要ない」

「……わかりました。でもさすがに敬語はやめませんからね」


不満げなウィーリアンだったが、「それではウィーリアンも近い内に」とさっそく名で呼ばれたので嬉しそうに頷いた。影から見送っているメリッサたちメイド集団がにやにやしているのは気付かないふりをしておく。


「ああ、それと師匠」


魔法を発動させながら、思い出したように師に声をかける。


「なんだ?」

「"時期"を見て来て下さい。これを逃すと一生後悔しますよ」


眉を上げてそう告げると、セイディアは少し目を丸くして何か言おうとした。

しかしその前に魔法陣からは光があふれ、アリアとダリはその中に包まれて消えた。

早朝の出発だったので、トゥーラスのギルドに移動するとまだ人はまばらだった。しかし突然少女とでかいローブをかぶった大男が現れたのでその場にいたものは驚く。


「…おかえりなさい?」

「あ、おはようございます、ロゼッタさん」


受付嬢の1人であるロゼッタが疑問形で挨拶をした。

四角い眼鏡をした長髪のクールビューティーなお姉さんだ。


「支部長はいますか?」

「ええ、奥に」

「会いに行きますね。ダリ、ついてきて」

「ああ」


ダリが扉を腰を折ってくぐり抜ける様子を、ぽかんと見ていた冒険者だったが少しずつ通常運行に戻った。

アリアは支部長の部屋の戸をノックし「アリアです」と声をかけた。返事が来たので扉を開ける。


「ただいま戻りました」

「……そいつはこの間の鬼じゃないのか?」


支部長はコーヒーの入ったカップを持ったままダリを見ていう。

アリアは「そうです」と頷きながらダリを中に入れた。


「色々あったんですが、簡単に省略すると私の下に付きました」

「…省きすぎだろう」

「互いのメリットが共通したので。王には許可を得ています」

「はあ…もう何があっても諦めるしかないな」


そういって支部長は一枚の書類を取り出し「城からだ」と続ける。


「"深淵の戦士"殿――今度は何をやらかしてきた?」

「夜会で戦闘馬鹿の貴族を一人、相手にしただけですよ」

「容赦なく叩き潰したんだろうが。相手もお気の毒なこったな」


支部長は溜息をつき、「それで」とダリを見る。


「そいつをどうすると?」

「出来れば冒険者登録させたいんですけど」

「鬼をか!? そんな前例ひとつも…」

「では、支部長が作ってください。その前例」


笑顔で告げると頭を抱える。


「私と行動するとなれば、一応はハッキリと身分を示すものが必要になります。私は今後、このダリを連れて依頼を受ける予定ですので」

「師よりもとんでもないんじゃないか、お前さん」

「まさか、師匠には遠く足元にも及びませんよ」

「…王が連れまわすことを許可したのなら、ギルドに登録するくらい関係ないか…しかし、いくつか決まり事は死守してもらうぞ」


相手は元犯罪者の一味だ。

日常生活でむやみに人を殺めないことは必ず守ってもらわなくてはならない。

ダリは「歯向かってこんのなら加減する」というが、鬼の加減がどの程度なのかわからない。


「危ないラインに達したら私が止めるけどね。私は基本殺生は好まないから、それをくみ取ってほしい」

「時と場合にはよるんだろうな?」

「 相手が全力で殺意を向けてきたときは考えるよ」


生かしておくとろくな事にならない場合は特にね。

冷たい目で返すアリアにダリは「なら従おう」と頷いた。素直に了承したダリに支部長は驚くが、アリアが連れて来たのなら悪意の塊ではないのだろう、と無理やり自分を納得させる。

それからダリの必要な書類を代わりに記入していく。

年齢はわからないのでおおよその四十代にして、出身はトゥーラスとしておいた。例の水晶に手を置かせるが、鬼には魔力はほとんどないらしく銅だったが、身体能力は金まであった。人間と比べれば基準は違うだろうが。

ロゼッタの元で早々に身分証を作ってもらい、それから数日前からたまっているオールガーの薬草採取の依頼を優先で受けることにした。


「あとはダリが宿屋に泊れるかどうかだなぁ…」


今は一人部屋を借りている。

二人部屋もあるが、ダリは二メートルを超す大きさだ。人が使うベッドは少々手狭だろう。それに、今はローブで身を隠しているが鬼だとバレると騒ぎにもなるし宿屋に迷惑がかかってしまうかもしれない。鬼のように顔がいかつい大男、としらをきってしまうのも手だがどこまで通用するか。


「俺は森で寝泊まりする」

「出来れば人間の生活を身に着けてほしいんだよなぁ。ダリがいいのならそうしても構わないけど、食事はなるべく一緒にとるようにしてね。あと、水浴びでもいいから清潔にすること」


着替えも何着か買っておくね、と告げれば「変なやつだ」と言わんばかりの視線を受ける。


「……それよりもさっきからなんだこいつらは?」

「さあ?」


ダリは鬱陶しそうに右手で、先ほどから自分にまとわりついてくる生き物をはらった。「みゅっ」とかわいらしい声を上げて地面に落ちる生き物は、長めの耳がふたつとはみ出た前歯のある動物のようだった。これで単体ならば別にいいのだが、周りを見れば二十匹くらいはいるのではないだろうか? 先程から、森に入ったアリアとダリに順番で飛びついてくるので、ダリはイライラしているようだ。


「ヴィロッドとかいう魔獣かな、もしかして。集団で行動するし、うさぎみたいだし」


数日前の依頼に出てきた魔獣だ。

依頼リストからはすでになくなっていたので、誰かが完了したのだと思っていたが。

ヴィロッドは小さく跳ねながらまたダリに飛びつく。左足にまとわりつくそれを見ながら、ダリは「殺っていいか?」と聞く。


「その魔獣は保護対象らしいからだめだよ。かわいいからいいでしょ」

「うるさくて適わん」

「お腹でも空いてるんじゃない?」


アリアはそう言いながら上を見上げ、いい具合に熟している果物らしき木の枝を、短刀を投げつけ下に落としてやる。

落ちてきた短刀を手にしたときには、すでにヴィロッドはその果実に群がっていた。足りないようなのであと二つほど枝を落としてやり、その隙にアリアたちは奥に進む。

だがしばらくするとまたついてきて、アリアたちをくりくりした目で見上げながらぴょんぴょんしている。

特に害はなさそうなのでそのままにしておき、お目当ての薬草を見つける。今回は待たせてしまった分、多目に持っていくことにした。だが量より質、のオールガー店主なのでちゃんといいものを選んでいく。

必要な分を採ったので、森から出ることにした。

ダリがいるので、以前より森の深いところまで来ていた。だが今回は他に魔獣にも出会わなかったので、ダリは少々退屈そうだったが。肩にのぼってくるヴィロッドをはらうのも面倒になったのか、アリアの後をついていく。

珍しそうにそれを見ていたアリアだったが、その中の数匹が怪我を負っていることに気づく。

おいで、と一匹に手を向けると、ぴょん とアリアの腕の中に飛んできた。


「切り傷…剣でやられたみたいだね」

「その辺のやつらもみたいだな」


よく見れば血がにじんでいるのもいた。毛が黒っぽいのであまり気づかなかったが。

アリアは鞄から小瓶を取り出し、その中の薬を切り傷に縫ってやる。くんくん鼻をひかつかせているヴィロッドだったが、怪我をしたものから自然とアリアに集まって行った。


「そうか、薬草のにおいがしてたから近づいてきたんだ」

「人間もモロウの葉を薬にしているのか」


ダリも薬のにおいを嗅ぐ。彼も体の傷に葉を豪快に塗り付けていたしらく、それで怪我をしていたヴィロッドが寄ってきていたのだ。普通の動物よりは賢いらしい。

塗り終わるとヴィロッドは鼻をくんくんさせ、森の出入り口に近づくと自然に奥に戻って行った。

その足で薬屋にまっすぐ向かうと、「やっと来たか」とオールガーがカウンターから顔をのぞかせた。


「すみません、依頼受けられなくて」

「ふん。まあいい。 そのでかいのは新しい仲間か?」

「ダリといいます」


オールガーはじろじろとダリを見ていたが、アリアから薬草を受け取るとそちらに目を向け満足そうに頷く。


「確かに受け取った」

「オールガーさん、傷薬補充したいんですけど。あと、魔力回復薬も」


財布を出しながら告げるとオールガーは奥の棚からビンを持ってきて差し出した。


「そういや、あの人さらいの事件は解決したんだってな。客連中が話していた」

「…そうみたいですね」

「なんでも、若い娘が一人トゥーラスギルドの代表として出たらしいな」


オールガーが意味ありげにアリアを見ている。アリアはひきつった笑みで「そうなんですか」とすっとぼけた。

特に追求するつもりはないのか、釣りと署名を渡して「また頼む」と奥に引っ込んだ。

目ざといなぁ…と思いながら、アリアもダリと薬屋を後にする。

ギルドで報酬を受け取りながら、アリアはダリの金庫も作ってもらった。

いらない、とは言われたが全てアリアのものになるのは気持ち的に嬉しくない。「武器でも買うための資金にしたら?」と言えば悪くない案だと思ったのかそれ以上は言わなかった。

食事処ではダリにはフォークを使わせ、手づかみさせないようにする。不器用にフォークを使うダリに不思議そうな顔をした店員に「力が強いからたまに折っちゃうんです」と誤魔化しておく。フードは取らずにいる大男と、かわいい女の子が一緒に食事をとっているのでかなり目立つ。しかも少女が大男にあれこれ世話を焼いているのでさらにだろう。

だが二人は気にする性格ではないので、もくもくと食べている。

人間の食事だが、彼は割と気に入ったようだ。

それからダリと自分の服を購入し、そういえばそろそろ杖がほしいな と考えた。

オリヌスという町にセイディアのお勧めの武器屋があったはずだが、どの辺に位置しているのか調べていなかった。

途中書店に立ち寄り、場所を確認してみる。

トゥーラスから南に位置する町だ。距離敵には一日二日かかりそうである。


「ダリ、何日かしたら少し遠出するよ。杖がほしい」

「この町にはないのか?」

「師匠に紹介されている店で買いたいから」


そういうものか、とダリは頭をかしげる。

それから宿の前でダリと別れる。朝食はここでとるから と告げると頷いて森へと向かった。


「おかみさん、ただいま~」

「あら、アリアちゃん!」


戸を開け中に入ると、相変わらずおかみさんが笑顔で迎えてくれた。


「モールドに行ってたんだって? あのお堅い支部長が来てびっくりしたよ」

「え、支部長が来たんですか?」


誰かにお願いするもんだとばかり思っていたので驚く。もしかしたら誰も捕まらなかったのだろうか。悪いことをしたな、と思いながらも仏頂面でアリアの不在を伝える姿を想像し、少し笑ってしまった。

モールドには支部長のおつかいで行ったということにしておく。それから、これから大男が自分を訪ねてくることが多くなるけれど、ギルドで出会った仲間だから安心してほしいと伝える。


「山奥の村に住んでいたからあんまり行儀はよくないけど、ちゃんと教えますので」

「まあ、アリアちゃんの取り合いだってんなら別にかまわないけど…何かに巻き込まれてるとかじゃないんだね?」

「はい、それは大丈夫です」


むしろ巻き込んでいる方だ。

おかみさんがココアを出してくれたので、それを飲みながらしばらくおかみさんの息子の愚痴を聞かされる。

二番目の息子・トトルが反抗期らしく言うことをきかないらしい。


「あんたと同じくらいなのに、男ってのはどうして素直に育ってくれないかねぇ」

「歳の近い兄弟がいると特にじゃないですか? お兄さんと弟さんとも二つくらいずつしか変わらないんでしょう」

「まあそうだけどさぁ」

「あの年頃って周りに対する対抗心が強いじゃないですか。負けず嫌いってだけだから、あんまり深刻にならない方がいいですよ。頭ごなしに叱っちゃうと、よけいにむきになっちゃうから」


そんな話をしていると噂の次男が返ってきたらしい。彼はトゥーラスの学院に入っているらしく、背中に鞄を背負いながら「ただいま」と入ってきた。


「おかえり。奥にごはん用意してるからね」

「いらない。友達と食ってきた」

「…いらないなら朝に言っていきなさい!」


おかみさんがギラリとトトルを叱りつけると「うるせえな」と憎たらしい言葉が返ってくる。

ああ、たしかに反抗期に近いのかもしれないなーと思いながらトトルをじっと見ていると、視線に気づいたのかふいっと目をそらされる。


「トトルくんって、いっつもこの時間に帰ってくるの?」

「え …そうだけど…」突然話しかけられどもるトトルにアリアは気にせず笑顔で話しかける。

「学院ってどういうところなのか、今度聞かせてほしいな。だいたい私もこの時間にごはん食べてるから」


顔の前で両手を合わせ小首をかしげると、トトルは赤くなり「別にいいけど…」と言いながらそのまま階段を駆け上がってしまう。

おかみさんはきょとん、とアリアを見ていたがやがてにやっと笑う。


「明日から夕飯を準備してもよさそうだね」

「そうなったらいいですね」


ごちそうさまでした、とアリアは自分の部屋に戻った。

久々の自分のベッドに倒れこむ。

そういえばヴィロッドのことをギルドに報告していなかった、と今更気づく。

森へ追い払う依頼だった。

その際に威嚇くらいはするだろうが、あれほど傷を負っているのはおかしい。故意に傷を付けられていた気がする。


「……」


むくり、と体を起こした。

気になる。


アリア一度置いた剣を再び肩にかけ、宿を出てギルドに向かった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ