木箱の中にいるのは……
「大家さん! こんにちは!」
蔵の中にある木箱を見せてもらわないと!
その後神奈川であった事を聞いてもらおう。
「ん? 田村ちゃんと麦多か。田村ちゃんは気が早いなぁ。もう飲みに来たのか? ははは!」
「え? 確かに毎晩お邪魔してますけどさすがに早いですよ」
「ははは! で? どうかしたか?」
「はい。あの……蔵にある木箱を見せて欲しくて」
「桐の箱を? ああ。好きなだけ見ればいい。鍵なんか掛けてねぇからなぁ」
「ありがとうございます……それから……お話があります」
「ん? 話? そうか? じゃあ麦多は婆さんにおやつをもらえ。今日はイチゴのケーキだぞ」
「ケーキ!? うんっ! じゃあね! おじちゃん!」
「お兄さんだ! ほら、前を見て走らないと!」
「えへへ! 大丈夫!」
「……麦多は田村ちゃんに懐いてるなぁ」
「俺も麦多がかわいいです」
「……そうか」
「あの……」
「ん?」
「息子さんの木箱を見せて欲しいんです」
「……ついに……この日がきたか……」
「……え?」
「田村ちゃんの家にある桐の箱……」
「……!? 見えるんですか!?」
「……見えるさ。あれは元々この集落にあったんだ。この集落の奴には見えるんだ。ついに戻ってきた……」
「戻ってきた? でも……ウメちゃんには見えてないような……」
「見えてるさ。だからずっと桐の箱を見張ってるんだ」
「……え?」
「驚いた……『長谷川』からの電話になぁ……」
「長谷川……あの……俺……本当は長谷川なんて親戚はいないんです!」
「……だろうなぁ。長谷川は娘婿の旧姓だ」
「……え?」
麦多の父親は生きてたのか……
しかもあの長谷川が麦多の父親!?
「電話で言われたんだ……『今から帰ります』ってなぁ」
「今から……帰る?」
でも長谷川は帰ってきてないよな?
……まさか木箱が帰るって意味か?
「『田村って奴がバス停に来るから迎えに行ってくれ。酷い目に遭ったばかりだから気遣って欲しい』とも言ってたなぁ。こんな話……信じられねぇよなぁ」
「……いえ。腑に落ちました」
「……え?」
「『木箱』は娘である麦多に会いたくて……最終的に俺を選んだんですね」
「……何の話だ?」
「……嫌な話を……聞かせますが……」
「……え?」
「あの木箱は……人を引きずり込んで……殺すんです」
「……!?」
「実は……俺は結婚していて……義理の母が木箱に引きずり込まれて……妻も引きずり込まれそうになって……なんとか助けましたが……心を病んでしまって入院してるんです」
「そうか……」
「あの木箱は不思議なんです。お金に困ると用意してくれたり、行くべき場所を教えてくれたり……」
「……あの桐の箱が?」
「……確かに……赦せません。木箱のせいで何もかも失った。でも……ここに来てからの一か月……人間らしく暮らせて……」
「うわあぁああああ! 誰か! 誰か!」
……!?
今の声は……
「ウメちゃん!?」
「何だ? 悲鳴が聞こえたぞ!?」
大家さんが険しい表情で尋ねてきた。




