木箱の後任者?
「あれ? おじちゃんもあの箱持ってるの?」
麦多が玄関で尋ねてるけど……
おじちゃんも?
通販で買い物した段ボールか。
山積みになってるからそろそろ畳んで資源ゴミに出さないとな。
いくら空箱でも麦多が下敷きになったら大変だ。
「ほら、スーパーが遠いだろ? 俺は免許がないから車を運転できなくて。毎回大家さんに連れていってもらうのも悪いからネットで買い物してるんだ。麦多もよく買い物するのか?」
「え? ネット? 違うよ。ほら、あの大きい木箱!」
「……え?」
木箱?
しまった!
少しだけ居間の襖が開いてたのか!?
慌てて襖を閉めたけど……
まさか……
麦多にも見えるのか?
じゃあ……
次の箱守は……
麦多!?
ダメだ!
一度でもミスしたら引きずり込まれて血の海になる……
お義母さんの悲鳴……
一か月経った今でもまだ耳から離れない……
絶対に苦しくて痛かったはずだ。
まだ木箱は麦多の存在に気づいてないよな?
まさか気づかれた?
どうする?
どうしたらいい?
「おじちゃん! 聞いてるの?」
「あぁ……聞いてるよ……」
「パパが作った箱、どこで買ったの?」
「……え? パパが作った箱?」
「うん! おじいちゃんの家の蔵にもあるんだ」
「蔵? あのすごく立派な?」
「えへへ! パパが作った桐の箱はすごいんだって! おじいちゃんとおばあちゃんがいつも話してるんだ」
「へぇ……」
本当に同じ木箱なのか?
麦多の父親が作った物なら大家さんに訊けば何か分かるかも……
「……え? 何が?」
「……? 麦多? どうかしたか?」
突然襖に向かって独り言なんて、どうしたんだ?
「その部屋から女の人が『こっちにおいで』って言ってるよ?」
「……!?」
まさか……
木箱が麦多を引きずり込もうとしてるんじゃ……
ダメだ!
それだけは絶対にダメだ!
「あ! そうだ! 大家さんの蔵でパパの木箱を見せて欲しいな」
引き離さないと!
まだ小学生の麦多に箱守なんて絶対に無理だ!
それに後任者が決まれば俺は木箱に引きずり込まれる可能性が高い……
「え? パパの? うん! いいよ! えへへ。すごく格好いいから驚くよ!」
「よし! じゃあ今すぐ出発だ! 行くぞ、麦多!」
ウメちゃんは居間から離れた客間で寝てるから大丈夫だよな?
木箱が見えてないみたいだし。
「うんっ!」
……木箱はいつもどこからか出した紙に望みを書いてるのに、麦多には直接話しかけたのか?
俺には何も聞こえなかった。
もしかして……
この木箱の中にいるのは……
麦多の両親?
まさかな……
でも……
両親が事故で亡くなったのは八年くらい前……
ネットで調べた木箱の一番古い書き込みも八年前……
……大家さんに話してみるか。
このままこの家にいていいのかも分からなくなってきたし……
麦多に危険が及ぶような事は避けないと。
危険が及ぶ……?
本当にそうか?
もし木箱の中に麦多の両親がいたとしたら……
娘の成長が見たいからこの地に戻ってきたのかもしれない。
それに木箱が望まないのに勝手に俺だけが引っ越しても意味がないよな……
木箱は自分の意思で行きたい場所を決めてるんだ。
後任者の麦多を見つけた今、俺に付いてくるはずがない。
やっぱり大家さんと話すしかないな。
こんな意味不明な話をしたら気味悪がられて追い出されたりして……
困ったな……
そうなればすぐに麦多が後任者になってしまう。




