表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/22

あれから一か月

『都市伝説 木箱』


 いつの間にか家に一メートル四方の木箱が現れ、世話係に選ばれし者は何があろうと木箱の望みを叶えなければならない。

 木箱の蓋を開けようとする者、移動しようとする者、意に背こうとする者は木箱に引きずり込まれ二度と出られる事はない。

 世話係には木箱から多額の現金が与えられる。



 ……はぁ。

 この動画……

 もう五十回は観たな……

 

「何が都市伝説だよ。伝説なんだろ? その伝説が普通に俺の家にあるなんて変だろ……」


 独り暮らしには広過ぎる田舎の賃貸戸建て___

 

 大家さんが月一万円で貸してくれる庭付きの築五十年木造平屋。


 少し前までは神奈川で営業してた俺が突然縁もゆかりもない北関東に越してきたのは今から一か月前……

 神奈川では、やたら壁の薄いアパートに妻ノドカと二人暮らし……

 懐かしいな。

 ノドカ……

 体調はどうかな……

 入院費の振り込みだけはしてるけど連絡したら巻き込みそうで……

 何もできない俺を恨んでくれ……

 落ち着いたら必ず迎えに行くからな。


 木箱から北関東のこの地区に印がしてある地図を渡された。

 いや正確には、いつの間にか地図が手元にあった……か?


 はぁ……

 

 居間の畳に置いてある一メートル四方の木箱。


 すごい存在感だ。

 常に俺を見張ってるのか?

   

 この木箱……

『長谷川』が手配した引っ越しが終わると、いつの間にか居間にあったんだ。

 部屋の隅にあるから誰かがぶつかっても動く事はないはず……



 独り暮らし……だよな?

 正確には一人と木箱……か?

 いや、ご近所のウメちゃんが居座ってるから二人暮らしかも……

 朝の四時から二十時まで家にいて、しっかり風呂まで入って帰るなんてあり得ないだろ……

 今も昼寝だって言って客間に布団を敷いて寝てるし……

 でもウメちゃんも広い家に独り暮らし。

 寂しいんだろうな……

 

「この環境ならノドカを連れてきてもなんとかなるかも……」


 ノドカの事が心配で堪らないけど……

 木箱は俺が欲しい物をどこからか調達してくる。

 もし木箱がノドカを病院から連れてきたら……

 生きて連れてくるとは限らないよな。


 ……もうあんな思いはしたくない。

 誰かが木箱に引きずり込まれるのも……

 木箱のせいで大切な人が心を壊すのも……

 絶対に嫌だ……



 あれから一か月……か。

 あっという間だったな。


 訳が分からない状況でもなんとかここまで生き延びられたのは、木箱の世話係の後任者が見つからないから……か?



「おじちゃん! お菓子ちょうだいっ!」


 あぁ……

 今日も来たか。

 玄関を勢いよく開ける音がしたけど……

 ガラスの引き戸だから割って怪我をしないか心配だ。


 大家さんの孫の麦多むぎた……

 小学二年生の元気過ぎるくらい元気な女の子。

 会う前は男の子だと思ってたんだけど、二重の大きな瞳がかわいいショートカットの女の子だった。

 赤ん坊の頃、両親を事故で亡くして祖父母である大家さんに引き取られたらしい。

 俺が父親の年齢に近いからか、遊んで欲しくて毎日勝手に上がり込んでくる。

 

「こら、麦多。おじちゃんじゃなくてお兄さんだ! ほら、骨折してるんだから気をつけろ。もうすぐ金具が外れるんだろ? おとなしくしないと!」


 絶対に居間には入らせないようにしないと。

 木箱は骨折してる人を引きずり込もうとするんだ。


「大丈夫! あはは! 田村ちゃんはどう見てもおじちゃんだよ! 皆、言ってるよ。おじちゃんは一杯しか飲まないのに捨てられた彼女を思い出して毎晩泣いてるって! 泣き虫おじちゃん!」


 すっかりバカにされてる……

 当然か……

 

 それにしても、麦多が木箱に見つからないように毎日外で遊ぶからすっかり日に焼けたな。

 神奈川にいる頃は毎日仕事仕事でこんな風に外で遊ぶなんてあり得なかった。

 呪われた木箱のおかげで健康的に暮らすようになったなんて変な話だ。


 いや、違うな。

 ウメちゃんが毎朝四時に家に来るから二十二時には寝るようになったんだ。

 四時に強制的に起こされて朝食作りをさせられて昼食も夕食も作らされて、ウメちゃんの洗濯までさせられる……

 でも……

 嫌じゃないんだよな。

 施設にいた俺を養子にしてくれた、ばあちゃん……

 まともに恩返しできなくて後悔してたけど……

 その恩返しを今やっとできたような気がするんだ。

 ……なんて変かな。

 

 ウメちゃんも変わってるけど、ばあちゃんも変わってたよな。

 いつも俺に訊いてきた。

『変な声が聞こえないかい?』

 って……


 うーん。

 あれはなんだったんだろう……?

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ