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これからどうしたらいいんだ……

 ノドカはしばらく入院する事になった。

 血まみれの身体を洗い流すとアザだらけで、関節も痛めていたようだった。

 個室しか空きがなくて個室料金がかからないのは助かったけど……

 一人きりの部屋で怖くないか?


「田村さん。そろそろ行きましょう。入院の手続きもありますから」


 警官の声に、繋いでいるノドカの手をほんの少し強く握る。


「ノドカ……行くよ」


 反応がない……

 俺の声が聞こえないのか?

 虚ろな瞳で天井を見つめるノドカの姿に胸が苦しくなる。

 コロナが日本に入ってきてからは面会と付き添いが制限されるようになって簡単には会えないらしい。

 もしかしたら、これが最後になるかもしれない。

 俺もお義母さんみたいに木箱に……

 ダメだ……

 ノドカにはもう俺しかいないんだ。

 他に家族はいない……

 

「ノドカ……俺……絶対ノドカを独りにしないから……」


 やっぱり何の反応もない。

 もう何も分からなくなったのか?

 いや……

 ……その方がいいのかも。

 お義母さんを助けられなかった苦しみを忘れられるなら……

 その方が……


 入院の手続きを終えると警察での事情聴取が始まった……

 警官は、嘘みたいな木箱の話をしても真剣に聴いてくれている。

 俺が知らなかっただけでよくある事なのか?


「じゃあ……最後に……田村さん」


 警官が真剣な表情で話しかけてきた。


「……はい」


「箱守になった事は他言しない方がいいですよ」


「……え?」


「箱守は木箱から欲しいだけ現金がもらえるんです」


「……え?」


「過去にそれで酷い目に遭った箱守がいましてね。悪い奴らに木箱から現金を出させられて……最後はそいつらに逆らって殺されたんです。いや、正確に言えば木箱に引きずり込まれたんですけどね」


「……え?」


「殺されそうになった箱守を木箱が引きずり込んだんですよ。その場にいた現金を欲しがった奴らも、一人を残して全員引きずり込まれて……その生き残りの一人が警察に逃げてきたんですよ。彼は骨折して腕を吊っていて……我々はすぐに分かりました。次の箱守に選ばれたから引きずり込まれなかったんだ……と」


「……そんな」


 やっぱり木箱は骨折してる奴を選んでるんだな。

 抵抗できないから……とか?

 でも、あれだけの力があれば関係ないよな?

 男二人でノドカの脚を引っ張っても、片腕の木箱の中身の方が力が強かった。

 現金を欲しがって引きずり込まれた奴らだって骨折してなかったんだし。

 ……分からない事ばかりだ。

 あれ……?

 今の警官の話だと後任者が決まったら俺も引きずり込まれるんじゃないか?


「田村さん。次の箱守が見つかるまでの我慢ですよ」


「……でも……後任者が決まったら俺も引きずり込まれるんじゃ……」


「とりあえず片っ端から動画を見てください。そして後任者が決まったら遠くに引っ越してください」


「……え?」


 やっぱり、木箱から逃げる為に?

 でも木箱は瞬間移動できるから引っ越しなんて意味ないんじゃ……

 ……瞬間移動?

 俺……どうしちゃったんだよ。

 瞬間移動なんてあり得ないだろ……


「田村さんはその頃には働かずして億万長者ですからね。悪い奴らに狙われるはずです」


「……億万……長者?」


 木箱だけじゃなくて悪い奴らにも狙われるのか?


「少し我慢すれば一生遊んで暮らせるなんて羨ましい……俺も箱守になりたいですよ! ははは!」


 ……なんだよ。

 そんな簡単な話じゃないだろ?

 お義母さんが殺されてノドカも引きずり込まれそうになったんだ。

 

 俺……

 後任者が決まったら生きていられないんじゃないか?

 俺が死んだらノドカは頼れる家族がいなくなる……

 入院費が払えなくなったらノドカはどうなるんだ?

 

  

 翌朝___


 始発の時間になると警察から家に帰った。

 

 正直怖い……

 このまま警察にいたいけど仕事もあるし……

 結局お義母さんを助けられなかった。

 ノドカのあの様子だと……

 もう普通に生活するのは難しいだろうな。


 全部あの木箱のせいだ……

 隣にあの女が引っ越してきたせいだ……

 ……いや。

 違う……

 俺が骨折したせいか……


 アパートの鍵を開けて中に入ろうとすると、昨日のタクシー運転手の言葉が頭をよぎる。


 本当にあの木箱が家にあったら……


 瞬間移動?

 そんなものが、この世の中にあるはずない。

 でも……

 あの木箱がお義母さんの家に一瞬で移動したのは事実……


 鍵を開けたくない……

 でも……

 これからはノドカの病院代も稼がないといけなくなるだろうし……

 お義母さんの家をあのままにするなら税金も払わないと……

 俺だけの稼ぎじゃ無理かも……

 でも……

 いつか俺も木箱に引きずり込まれるなら、ノドカの為に貯金しておかないと……


『でもでも』ばかりだな……


 どうあがいても木箱から逃れる事はできないのか?

 だったら木箱を壊してみる……とか?  


 ……木箱の中身はどうなってるんだろう。

 片腕だけでも、あの力だぞ?

 もし全身が出てきたら……

 

 考えるだけで恐ろしい。

 絶対に木箱を壊したらダメだ……

 

 はぁ……

 アパートを出たいけど、あんな事があったお義母さんの家には住めないよな。

 事故物件扱いになったら更地にでもしないと……

 住めない家の税金を払う余裕なんてない。

 更地にするにはいくらかかるんだ?


 結局世の中『金』なのか……


 絶対に仕事を休めない……

 鍵を開けたら、スーツと靴と通帳と……

 あとは何を持ち出したらいい?


 はぁ……

 頭が回らない……

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